令和7年司法試験論文式刑事系第2問の参考判例等

(西成ヘロイン所持事件判決より引用。太字強調は当サイトによる。)

 憲法35条……(略)……が……(略)……捜索、押収につき令状主義の例外を認めているのは、この場合には、令状によることなくその逮捕に関連して必要な捜索、押収等の強制処分を行なうことを認めても、人権の保障上格別の弊害もなく、且つ、捜査上の便益にも適なうことが考慮されたによるものと解されるのであつて、刑訴220条が被疑者を緊急逮捕する場合において必要があるときは、逮捕の現場で捜索、差押等をすることができるものとし、且つ、これらの処分をするには令状を必要としない旨を規定するのは、緊急逮捕の場合について憲法35条の趣旨を具体的に明確化したものに外ならない。
 「逮捕する場合において」
……(略)……は、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり……(略)……逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わないものと解すべきであつて、このことは、同条1項1号の規定の趣旨からも窺うことができるのである。従つて、例えば、緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ、被疑者がたまたま他出不在であつても、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押がなされ、且つ、これと時間的に接着して逮捕がなされる限り、その捜索、差押は、なお、緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではない。

(引用終わり)

(最決昭44・3・18より引用。太字強調は当サイトによる。)

 刑訴法218条1項によると、検察官もしくは検察事務官または司法警察職員は「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」に差押をすることができるのであるから、検察官等のした差押に関する処分に対して、同法430条の規定により不服の申立を受けた裁判所は、差押の必要性の有無についても審査することができるものと解するのが相当である。そして、差押は「証拠物または没収すべき物と思料するもの」について行なわれることは、刑訴法222条1項により準用される同法99条1項に規定するところであり、差押物が証拠物または没収すべき物と思料されるものである場合においては、差押の必要性が認められることが多いであろう。しかし、差押物が右のようなものである場合であつても、犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によつて受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで、差押を是認しなければならない理由はない。したがつて、原裁判所が差押の必要性について審査できることを前提として差押処分の当否を判断したことは何ら違法でない。

(引用終わり)

(札幌高函館支判昭37・9・11より引用。太字強調は当サイトによる。)

 刑事訴訟法第220条によれば、捜査機関は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、令状なくして人の住居に入り被疑者の捜索をすることができるのであるが、同条において「必要があるとき」とは、たんに捜査機関がその主観において必要があると判断するのみでは足らず、客観的にもその必要性が認められる場合であることを要するものと解する。けだし同条は令状主義の例外の場合として憲法第11条、第33条、第35条の趣旨にかんがみ厳格に解釈すべきものであるからである。この点につき原判決が、被疑者が人の住居に現在することの高度の蓋然性を必要とするとしている見解は、当審においても正当なものとして是認するこができる。

(引用終わり)

(大阪地判昭53・12・27より引用。太字強調は当サイトによる。)

 被告人は判示第二の日時に前記第三Aマンション2階の203号室前の廊下において、写真撮影中であった私服警察官P1に対し判示のような暴行、傷害を加え、暴行に使用したカメラを右の現場に遺棄して右203号室隣りの自室である205号室に逃げ込んだ。P1からの連絡によりパトカー等により直ちに現場に到着した警察官らは、右205号室に入り、被告人を現行犯人として逮捕した後、その現場である右205号室の捜索をしたところ、奥6畳の間の化粧台の中から前記覚せい剤を発見し、被告人からの任意提出の形式によりこれを領置した。
 捜査官憲が現行犯人を逮捕する場合、逮捕の現場で捜索することができるが、その場合捜索の必要性が要件とされていることは明らかである。前記捜索の指揮をしたP2警部補は、その証言中で捜索が必要であると判断した根拠として(1)兇器の発見 (2)カメラの附属品の発見 (3)犯行動機の解明をあげている。しかし、前記傷害事件犯行の兇器であるカメラは犯行現場である廊下に遺棄されており、そのことは同人らもすでに知っていたのであり、右事件の捜査のために被告人の居室にある兇器を捜索する必要があるとは思えない。カメラの附属品の発見といっても、被告人が右附属品を自室内に隠匿したと疑うような状況も窺えない。また、犯行動機の解明についても、組織的、集団的犯罪ならともかく、本件のような個人の偶発的犯行においてまで被告人の居室を捜索する必要性を理解することが困難である。以上の諸点を考慮すると、右捜索を指揮したP2の捜索の必要性の判断には誤りがあり、右の誤りは単なる裁量の誤りの程度を超えて、右の捜索を違法とするものというべきである。

(引用終わり)

(函館地決昭55・1・9より引用。太字強調は当サイトによる。)

 本件は、客観的には、Aの現行犯逮捕(覚せい剤所持)に伴う捜索場所に居合わせた第三者(被告人)の身体に対する強制捜索である。
 右の如き強制捜索が被告人に対する令状なしに許されるのは、刑訴法218条、222条、102条2項の趣旨にかんがみ、押収すべき物(Aの逮捕事実と関連しているものでなければならないことはもちろんである。)を被告人が所持していると認めるに足りる状況が、客観的に存在している場合に限られる。
 この点を本件についてみると、(1)捜索の場所は、被告人名で投宿しているホテルの一室であり、被告人とA以外には他の同室者はいなかつたこと、(2)Bら捜査官が次のように認定したこと即ち、被告人が覚せい剤を広く取扱つている暴力団Cの幹部であり、Aも同様覚せい剤を取扱つているDの組員であつて、両名がD幹部の葬儀に出席後右一室に投宿していると認定したことには、相当の根拠があること、(3)A逮捕後に被告人の捜索に着手しようとした際、被告人はふとんから外に出ず体をまるめて両手を前に組み、腹の辺りに何か隠しているが如き挙動に出ていたこと、証拠により認められる右の事実を総合すると、被告人は、Aと共謀してか、あるいは、Aとの間に譲受関係のある覚せい剤を所持していると認めるに足りる状況は十分存在していたというべきである(なお、結果的にAとの関係が否定されても、右の「状況の存在」自体に影響を及ぼすものではない。)。したがつて、Bらの被告人の身体に対する捜索は、Aの現行犯逮捕に伴う捜索として適法である。

(引用終わり)

(東京高判平6・5・11より引用。太字強調は当サイトによる。)

 場所に対する捜索差押許可状の効力は、当該捜索すべき場所に現在する者が当該差し押さえるべき物をその着衣・身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、許可状の目的とする差押を有効に実現するためにはその者の着衣・身体を捜索する必要が認められる具体的な状況の下においては、その者の着衣・身体にも及ぶものと解するのが相当である(もとより「捜索」許可状である以上、着衣・身体の捜索に限られ、身体の検査にまで及ばないことはいうまでもない。)。

(引用終わり)

(和光大学内ゲバ事件決定より引用。太字強調は当サイトによる。)

1.刑訴220条1項2号によれば、搜査官は被疑者を逮捕する場合において必要があるときは逮捕の現場で捜索、差押え等の処分をすることができるところ、右の処分が逮捕した被疑者の身体又は所持品に対する捜索、差押えである場合においては、逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときには、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、同号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができ、適法な処分と解するのが相当である。

2.これを本件の場合についてみると、原判決の認定によれば、被告人Aが腕に装着していた籠手及び被告人B、同Cがそれぞれ持っていた所持品(バッグ等)は、いずれも逮捕の時に警察官らがその存在を現認したものの、逮捕後直ちには差し押さえられず、被告人Aの逮捕場所からは約500メートル、被告人B、同Cの逮捕場所からは約3キロメートルの直線距離がある警視庁町田警察署に各被告人を連行した後に差し押さえられているが、被告人Aが本件により準現行犯逮捕された場所は店舗裏搬入口付近であって、逮捕直後の興奮さめやらぬ同被告人の抵抗を抑えて籠手を取り上げるのに適当な場所でなく、逃走を防止するためにも至急同被告人を警察車両に乗せる必要があった上、警察官らは、逮捕後直ちに右車両で同所を出発した後も、車内において実力で籠手を差し押さえようとすると、同被告人が抵抗して更に混乱を生ずるおそれがあったため、そのまま同被告人を右警察署に連行し、約5分を掛けて同署に到着した後間もなくその差押えを実施したというのである。また、被告人B、同Cが本件により準現行犯逮捕された場所も、道幅の狭い道路上であり、車両が通る危険性等もあった上、警察官らは、右逮捕場所近くの駐在所でいったん同被告人らの前記所持品の差押えに着手し、これを取り上げようとしたが、同被告人らの抵抗を受け、更に実力で差押えを実施しようとすると不測の事態を来すなど、混乱を招くおそれがあるとして、やむなく中止し、その後手配によって来た警察車両に同被告人らを乗せて右警察署に連行し、その後間もなく、逮捕の時点からは約1時間後に、その差押えを実施したというのである。
 以上のような本件の事実関係の下では、被告人3名に対する各差押えの手続は、いずれも、逮捕の場で直ちにその実施をすることが適当でなかったため、できる限り速やかに各被告人をその差押えを実施するのに適当な最寄りの場所まで連行した上で行われたものということができ、刑訴法220条1項2号にいう「逮捕の現場」における差押えと同視することができるから、右各差えの手続を適法と認めた原判断は、是認することができる。

(引用終わり)

(東住吉事件判決より引用。太字強調は当サイトによる。)

 刑訴法328条は、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであり、別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については、刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが相当である。
 そうすると、刑訴法328条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が、同人の供述書、供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。)、同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られるというべきである。

(引用終わり)

 

(名古屋高金沢支判平20・6・5(福井強盗致傷事件)より引用。太字強調は当サイトによる。)

1.原判決は、弾劾証拠の取調請求を却下したことに関し、「弁護人は、公判前整理手続において類型証拠の開示請求により得た甲及び乙の各捜査段階の供述調書に基づいて、証人尋問で十分尋問しており(供述内容の変遷について、検察官も特段争っていない。)、この証拠をさらに弾劾証拠として取り調べる必要性はもはやないことは明らかである。」との理由を説示しているが、原審第7回公判調書に引用された証拠等関係カードによれば、原審裁判所は、弾劾証拠請求を却下した理由として、「審理経過に照らすと、本件においては弁護人らが甲及び乙の各証言を弾劾する機会は十分にあったというべきであり、このような場合に、当然のごとく証人尋問終了後に証人の捜査段階での供述調書を弾劾証拠として請求してこれを取り調べることは、充実した公判審理を継続的、計画的かつ迅速に行うという公判前整理手続が設けられた趣旨(刑事訴訟法316条の2第1項)に反するものというべきであり、刑事訴訟法316条の32第1項の「やむを得ない事由」があるということはできない。したがって、弁護人らの各証拠調請求は、いずれも必要性もないので、却下を免れない。」と述べていることが認められる。そうすると、原審裁判所は、前記弾劾証拠請求について、① 「取調べの必要性もない。」との判断をするとともに、② 同法316条の32第1項の「やむを得ない事由」があるということはできないとの判断をしていることが認められる。

2.まず、上記②の判断の当否について検討すると、所論がいうように、同法328条による弾劾証拠は、条文上「公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うため」のものとされているから、証人尋問が終了しておらず、弾劾の対象となる公判供述が存在しない段階においては、同条の要件該当性を判断することはできないのであって、証人尋問終了以前の取調請求を当事者に要求することは相当ではない。
 そうすると、同条による弾劾証拠の取調請求については、同法316条の32第1項の「やむを得ない事由」があるものと解すベきであって、原審裁判所がその証拠決定において、「やむを得ない事由があるということはできない。」としたことは、法律の解釈を誤ったものというべきである。

3.次に上記①の判断の当否について検討する。同法328条は、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものである(最高裁平成18年11月7日第三小法廷判決・刑集60巻9号561頁参照)から、同条による弾劾証拠請求を採用するに当たっては、別の機会にした供述が公判準備又は公判期日の供述と矛盾するものであるとの要件が認定されることが必要である。
 そして、公判前整理手続を実施した事件における弾劾証拠の採否に当たっては、同法316条の2第1項に規定する「充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行う」ことの要請から、証拠としての「必要性」についても厳格な吟味を要するものといえる。

4.そこで、同法328条の証拠請求の採否に関する判断要素について検討すると、① その供述者の立場(被害者、共犯者、第三者等、被告人)、② その弾劾の対象となる供述者のした供述の重要性(犯罪事実の存否の認定に不可欠か否か)、③ 弾劾の対象が供述者の供述全体の信用性にかかわるものか、供述中の特定の事項の信用性にかかわるものか、④ 公判準備又は公判期日における供述と、別の機会にした供述の矛盾の程度(明白に異なるか、意味合いの違いにとどまるか)、⑤ 別の機会にした供述が複数あって、それらの相互の間にも矛盾がある場合などにおいては、その供述のなされた時期、変遷経緯、⑥ その公判期日等において、供述者の別の機会にした供述とのくい違いに関し、十分な尋問がなされているか否か、⑦ 供述者が、別の機会にした供述とのくい違いについて、十分な説明をしたか否か、等の諸点について、考慮することになる。

5.弁護人や検察官が、供述者に対して、自己矛盾の供述について十分な尋問をしていない場合に、同法328条の弾劾証拠請求を許容することは、いたずらに、供述者の供述の信用性の判断を難解にすることにもなりかねないから、原則的には、公判期日等における反対尋問や補充尋問が十分になされることなく請求された場合には、それを許容すべきでないと考えるが、一方、弁護人としては、供述者に事前尋問をするために当該弁護人の事務所等に呼び出す権限が与えられているわけではないから、事前の準備にも一定の限度があり、公判期日等の審理の際に十分な反対尋問等ができないことも考慮すべきであって、公判期日等における反対尋問等がなされていないことのみで、弾劾証拠をすべて排斥するのは相当とはいい難い。
 なお、そのための審理の方式について検討すると、充実した公判審理を行う観点からは、自己矛盾供述に関しても、公判供述のみで十分に判断できるような審理が望ましく、そのためには、証人尋問請求者に、詳細な尋問事項書の提出を求めて審理の充実を図ることなどが考えられる。
 さらに、公判期日等において、捜査段階の供述調書に基づき公判供述の信用性に関して尋問がされた場合においても、その供述調書の取調べが全く不要になるとはいい難い。刑事訴訟規則199条の3第4項が、「誘導尋問をするについては、書面の朗読その他証人の供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法を避けるように注意しなければならない。」としているので、尋問の当初は、その供述調書の要点を供述者に述べて尋問するであろうところ、供述調書自体を同法328条によって採用されないとなれば、供述調書の内容を詳細に読み聞かせた上での尋問を行わなければならないことになり、かえって迅速な審理を妨げることにもなりかねない。また、証人尋問等において供述者の自己矛盾の供述が明らかとなった場合と、その点について具体的な供述が記載されている供述調書自体を取り調べる場合とでは、供述者の供述の信用性の判断に及ぼす影響が異なる場合もあると考えられることからすると、証人尋問等で十分な反対尋問がなされているからといって、必ずしも弾劾証拠の取調べの必要性がなくなるものではない。

6.これらの諸事情を総合勘案した上で、原審裁判所の同法328条の証拠請求に対する採否について検討すると、甲の供述調書(当審弁2号証)は、甲が、本件に関して、当初被告人から指示された内容について、公判においては、甲が、「片町の交差点において、被告人から、Vの運転するベンツの後を追って家を確認してくれと言われた。」との供述をしているが、捜査段階の初期においては、甲が、「被告人から、地図が書いてある紙を手渡され、この家の近くに、ワインレッドのベンツが停めてある場所とかを調べて来いと言われた。」との内容となっているところ、この供述部分は、本件の事実認定に関して重要な事項に当たる上、その矛盾も明らかであって、弁護人が、これを同法328条の証拠として請求する以上、供述調書の当該部分については、これを証拠採用した上、最終的な評議において、慎重に供述の信用性を判断する際に用いるベきものといえる。
 同様に、実行犯の首謀者たる丙と被告人がどのような知り合いであるかの点について、甲の公判供述は、中国の大連において、甲を介して丙と被告人が知り合ったというものであるのに対し、甲の捜査段階の供述調書(当審弁3号証)には、「丙が、甲と被告人が泊まっていたホテルに現れ、被告人と丙が個人的に付き合っているのが判った。」と記載されているのであって、丙と被告人との交際関係に関する事項について、明らかに矛盾する供述をしているのであるから、この点についても、証拠採用をすべきといえる。
 次に、乙の供述について検討すると、乙の公判供述は、平成14年10月1日、乙と中国人2名を被告人が自動車で案内し、パチンコ店経営者の自宅を見に行った際、被告人からV方には間違いなく2000万円近く現金が置いてあると聞いたとか、同行していた中国人が、縛り上げるのは得意であるなどと話していたというものであるところ、捜査段階の供述調書(当審弁15号証)には、「被告人が昨日はどうだったか聞いてきた。……被告人に2時ころまで待ったが出かけなかったので、やめたというと、被告人はしょうがないなというようなことを言った。これを聞いて、被告人が甲に、強盗に入れる家としてV方を教えていたのではないかと思いました。」と記載があり、被告人がV方の事情を話したことや、中国人が縛り上げるのは得意であるなどとの話は出ていない。この部分についても、自己矛盾の供述として証拠採用の上、公判供述の信用性を検討すべきであるといえる。
 結局、原審裁判所の同法328条の証拠決定は、以上のような重要事項に関する明らかな自己矛盾供述をも採用しなかった点において、その裁量権を逸脱した違法があるといわざるを得ない。

7.なお、同法328条の証拠採用の方式について検討すると、捜査段階の供述調書が請求された場合においては、裁判所において、その提示を求めて、内容を確認することになるであろうが、その場合に念頭に置くべきことは、それによって証拠採用したものが、最終的な裁判の評議において、証人の信用性を検討するために用いられることであり、その証拠採用に当たっては、充実した評議に資するように配慮する必要がある。すなわち、矛盾供述といえない部分まで広範囲に採用することによって評議に要する時間を無駄に増やすことがないようにすべきである反面、矛盾供述の意味合いを理解できない程に限定した採用も、評議を困難にさせることを考慮する必要がある。また、供述者が、捜査段階において、当初に述べた事実を虚偽であるとして、後に異なる事実を述べ、公判期日等の段階においては、捜査段階の後に述べたのと同様な供述をしている場合には、当初に述べた自己矛盾の供述が記載された供述調書とともに、この矛盾のある事項に関して、後に異なる事実を述べた供述調書も採用した方が、公判期日等の供述の信用性を適切に判断できると思われる。

(引用終わり)

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