令和7年司法試験論文式刑事系第1問の参考判例等

(再入国許可申請書偽造事件判決より引用。太字強調は当サイトによる。)

 原判決が、私文書偽造とは、その作成名義を偽ること、すなわち私文書の名義人でない者が権限がないのに、名義人の氏名を冒用して文書を作成することをいうのであつて、その本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあるとした点は正当であるが、さらに進んで本件再入国許可申請書は、その名義人と作成者である被告人との間に客観的に人格の同一性が認められ、不真正文書でないことが明白であり、被告人の本件所為は私文書偽造、同行使罪にあたらないとした判断は、刑法159条1項、161条1項の解釈適用を誤つたものというべきである。

 (中略)

 再入国許可申請書は……(略)……再入国の許可という公の手続内において用いられる文書であり、また、再入国の許可は、申請人が適法に本邦に在留することを前提としているため、その審査にあたつては、申請人の地位、資格を確認することが必要、不可欠のこととされているのである。したがつて、再入国の許可を申請するにあたつては、ことがらの性質上、当然に、本名を用いて申請書を作成することが要求されているといわなければならない。ところで、原判決が認定した前掲事実によれば、被告人は、密入国者であつて外国人の新規登録申請をしていないのにかかわらず、A名義で発行された外国人登録証明書を取得し、その名義で登録事項確認申請を繰り返すことにより、自らが右登録証明書のAその人であるかのように装つて本邦に在留を続けていたというべきであり、したがつて、被告人がAという名称を永年自己の氏名として公然使用した結果、それが相当広範囲に被告人を指称する名称として定着し、原判決のいう他人との混同を生ずるおそれのない高度の特定識別機能を有するに至つたとしても、右のように被告人が外国人登録の関係ではAになりすましていた事実を否定することはできない。以上の事実関係を背景に、被告人は、原認定のとおり、再入国の許可を取得しようとして、本件再入国許可申請書をA名義で作成、行使したというのであるが、前述した再入国許可申請書の性質にも照らすと、本件文書に表示されたAの氏名から認識される人格は、適法に本邦に在留することを許されているAであつて、密入国をし、なんらの在留資格をも有しない被告人とは別の人格であることが明らかであるから、そこに本件文書の名義人と作成者との人格の同一性に齟齬を生じているというべきである。したがつて、被告人は、本件再入国許可申請書の作成名義を偽り、他人の名義でこれを作成、行使したものでありその所為は私文書偽造、同行使罪にあたると解するのが相当である。

(引用終わり)

(最決昭56・4・8より引用。太字強調は当サイトによる。)

 交通事件原票中の供述書は、その文書の性質上、作成名義人以外の者がこれを作成することは法令上許されないものであつて、右供述書他人の名義で作成した場合は、あらかじめその他人の承諾を得ていたとしても、私文書偽造罪が成立すると解すべきであるから、これと同趣旨の原審の判断は相当である。

(引用終わり)

(東京地判平4・5・28より引用。太字強調は当サイトによる。)

一 被告人甲の弁護人は、本件答案は、それ自体から何らの意味又は意思等を看取することはできないとして、被告人乙の弁護人は、本件答案は、採点者等による評価の対象となるにすぎず、証拠性を有しないとして、それぞれが刑法159条1項にいう事実証明に関する文書に該当せず、したがって、被告人らの各行為につき、有印私文書偽造、同行使罪は成立しない旨主張するが、その理由とするところはいずれも採用し難い。しかし、各所論は、理由はともかく、その私文書性を争っているので、この点について判断する。
 本件の学校法人明治大学の大学各学部各学科の入学選抜試験の答案は、所定の解答用紙に試験問題の各設問に対する解答、すなわち、受験した志願者が正解と判断する意識の内容が記載された文書であるところ、この解答を客観的な基準に従って採点することにより、受験した志願者の学力が客観的に測定されることになる。そして、その採点結果によって選抜試験の合否が当該教授会において判定され、その合格判定を受けて入学が許可されることとなっている。以上によれば、本件の答案は、それに合格すれば入学許可が与えられることとなる選抜試験の合否判定のために作成が求められているものであって、受験した志願者がいかなる解答をしたかという事実を証明し、ひいては受験した志願者の学力の程度を客観的に示している文書であるから、刑法159条1項にいう事実証明に関する文書に当たる。
 したがって、弁護人らの右主張はいずれも採用しない。

二 また、被告人甲の弁護人は、本件各志願者は、自己の名において何者かが受験することを容認したと認定すべきである、すなわち、被偽造者である被害者の承諾があったから、同被告人に対する有印私文書偽造、同行使罪は成立しない旨主張する。
 しかしながら……(略)……これらの各志願者は、本件当時、自分らに替わって他の者が本件選抜試験を受験することは認識していなかったことが認められ、弁護人の右主張は前提を欠く。
 なお、仮に、本件各志願者が替え玉受験が行われることにつき何らかの認識があり、「承諾」があったとしても、本件のようにまさに文書の作成名義人と現実の作成者との人格の同一性についての欺罔が存する場合には、その目的のために与えられた「承諾」を有効と認めるべきでないことは当然である。そのような「承諾」は、作成者に適法な作成権限を与えるという性質のものではありえず、かえって、文書偽造罪の共犯を構成する行為としての評価を受けるべきものであろう。

(引用終わり)

(東京高判平5・4・5(上記東京地判平4・5・28の控訴審)より引用。太字強調は当サイトによる。)

一 所論は、原判決は「本件の答案は、それに合格すれば入学許可が与えられることとなっているものであって、受験した志願者がいかなる解答をしたかという事実を証明し、ひいては受験した志願者の学力の程度を客観的に示している文書であるから、刑法159条1項にいう事実証明に関する文書に当たる。」旨判示しているが、受験した志願者がいかなる解答をしたかという事実は、当該答案の作成者が誰であるかという事実と全く同義であって、誰の答案であるかという事実を証明する文書であるということを意味するにすぎない、また、本件各答案は受験した志願者の学力の程度を客観的に証明する文書であるというのは牽強付会の見解である、すなわち、本件各答案は、受験した志願者の合否判定の一つの基準となるべきその総得点を算出するために、各試験科目ごとに採点者が何点の点数を与えるべきかということを判定する材料となるものにすぎず、それ自体受験した志願者の学力の程度を客観的に示している文書ではない、各問題に何点ずつの点数を配分するかは採点基準決定者の裁量であって、客観的な基準があるわけではない、本件各学部の入学選抜試験は、記号式の解答を求めるものが大半であるが、理由を述べさせたり、外国語の和訳をさせるなど記述式の解答を要求する問題もかなりあり、これら記述式の解答についての採点基準をどう定めるかについても裁量の余地が少なくない、さらに、記号式の解答を求めるものでも、出題者の正解とは別の記載であっても正解とするというような場合もあり、必ずしも常に採点基準作成者の裁量の余地のない確固不動の客観的な基準が存在しているわけではない、したがって、原判決の掲げる理由によって本件各答案が事実証明に関する文書であるということはできず、被告人乙の本件各行為について、有印私文書偽造、同行使罪が成立する余地はない、と主張する。
 しかし、記録によると、本件の明治大学各学部の入学選抜試験の答案は、試験問題の各設問に対し、受験した志願者が正解と判断する意識・判断の内容を所定の解答用紙に記載した文書であるところ、これが担当者によって採点、集計され、その結果は、受験した志願者の学力を示す資料として、入学選抜試験の合否を判定する教授会に提出され、これらの資料を基に、教授会において受験した志願者に対する合否の判定が行われ、合格の判定を受けた者が入学を許可されることになっていることが認められる。そうだとすれば、本件各答案は、実社会生活にとって重要な意味を持つ事実の証明に関する文書であることは明らかであるというべきであり、これと同旨の原判決の認定、判断は是認することができる。所論は、前示のとおり、原判決は、その作成者が誰であるかを示すにすぎない本件各答案を事実証明に関する文書であるとするものであると論難するが、原判決はそのような認定、判断をしているものとは認められない。また、所論は、本件各答案は受験した志願者の合否判定の材料となるにすぎないものであり、答案の採点には採点者の裁量が働き客観的な採点基準がある訳ではないなどと、るる主張することは前示のとおりであるが、これらの点も、本件各答案が刑法159条1項にいう事実証明に関する文書であるとする前記認定、判断を左右するものとは認められない。所論はいずれも採用することができない。

二 また、所論は、本件各志願者は、替え玉として他の者が本件入学選抜試験を受験することを認識し、それを承諾していたものであり、また、被告人乙も各志願者がこのように認識し、承諾しているものと思っていたものであるから、被告人乙には、有印私文書偽造、同行使罪は成立しない、と主張する。
 しかし、記録によると、原判決が認定、判断するとおり、本件各志願者は、本件当時、自分に替わって他の者が本件入学選抜試験を受験することを認識していたとは認められず、仮に、本件志願者のうち、替え玉受験が行われることについて何らかの認識があり、これを承諾するものがあったとしても、本件各答案は、志願者本人の学力の程度を判断するためのものであって、作成名義人以外の者の作成が許容されるものでないことは明らかであるから、名義人の承諾あるいは被告人乙のこの点についての認識が本件有印私文書偽造、同行使罪の成立を妨げるものでないことも明らかである。所論は採用することができない。
 したがって、論旨は理由がない。

(引用終わり)

(最決平6・11・29(上記東京高判平5・4・5の上告審)より引用。太字強調は当サイトによる。)

 本件入学選抜試験の答案は、試験問題に対し、志願者が正解と判断した内容を所定の用紙の解答欄に記載する文書であり、それ自体で志願者の学力が明らかになるものではないが、それが採点されて、その結果が志願者学力を示す資料となり、これを基に合否の判定が行われ、合格の判定を受けた志願者が入学を許可されるのであるから、志願者の学力の証明に関するものであって、「社会生活に交渉を有する事項」を証明する文書(最高裁昭和33年(あ)第890号同年9月16日第三小法廷決定・刑集12巻13号3031頁参照)に当たると解するのが相当である。

(引用終わり)

(最決平16・2・9より引用。太字強調は当サイトによる。)

1.原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。

(1) Aは、友人のBから、同人名義の本件クレジットカードを預かって使用を許され、その利用代金については、Bに交付したり、所定の預金口座に振り込んだりしていた。
 その後、本件クレジットカードを被告人が入手した。その入手の経緯はつまびらかではないが、当時、Aは、バカラ賭博の店に客として出入りしており、暴力団関係者である被告人も、同店を拠点に賭金の貸付けなどをしていたものであって、両者が接点を有していたことなどの状況から、本件クレジットカードは、Aが自発的に被告人を含む第三者に対し交付したものである可能性も排除できない。なお、被告人とBとの間に面識はなく、BはA以外の第三者が本件クレジットカードを使用することを許諾したことはなかった。

(2) 被告人は、本件クレジットカードを入手した直後、加盟店であるガソリンスタンドにおいて、本件クレジットカードを示し、名義人のBに成り済まして自動車への給油を申し込み、被告人がB本人であると従業員を誤信させてガソリンの給油を受けた。上記ガソリンスタンドでは、名義人以外の者によるクレジットカードの利用行為には応じないこととなっていた。

(3) 本件クレジットカードの会員規約上、クレジットカードは、会員である名義人のみが利用でき、他人に同カードを譲渡、貸与、質入れ等することが禁じられている。また、加盟店規約上、加盟店は、クレジットカードの利用者が会員本人であることを善良な管理者の注意義務をもって確認することなどが定められている。

2.以上の事実関係の下では、被告人は、本件クレジットカードの名義人本人に成り済まし、同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装い、その旨従業員を誤信させてガソリンの交付を受けたことが認められるから、被告人の行為は詐欺罪を構成する。仮に、被告人が、本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許されており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても、本件詐欺罪の成立は左右されない。したがって、被告人に対し本件詐欺罪の成立を認めた原判断は、正当である。

(引用終わり)

(東京地判平10・8・19より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

(罪となるべき事実)
 被告人は、A’ことA、B及びCと共謀の上、Cのために被告人の氏名を冒用して被告人名義の一般旅券を不正に入手しようと企て、平成7年11月7日、行使の目的で、ほしいままに東京都豊島区東池袋3丁目1番3号サンシャインシティ内ワールドインポートマートビル5階喫茶店Xにおいて、Aが外務大臣あての一般旅券発給申請書正本用の本籍欄に「東京都江戸川区《番地略》」、現住所欄に「東京都江戸川区《番地略》第5甲野ハイツ101」と、Cが所持人署名欄及び申請者署名欄にそれぞれ「D」と各冒書し、右ワールドインポートマートビル5階東京都生活文化局国際部旅券課池袋分室内において、Aが右申請書署名欄の名下に「D」と刻した印鑑を押捺した上、Cの顔写真を貼付し、もって、有印私文書であるD作成名義の一般旅券発給申請書一通を偽造するとともに、その他所要欄に適宜虚偽の記載をするなどし、同日、Cの指定した代理人を装ったBにおいて、右東京都生活文化国際部旅券課池袋分室において、同課職員に対し、右偽造に係る一般旅券発給申請書一通を真正に作成されたもののように装い、Cの顔写真及び被告人の住民票など必要書類とともに提出して行使し、東京都知事を経由して外務大臣あてに一般旅券の発給を申請し、そのころ、東京都千代田区霞が関2丁目2番1号所在の外務省外務大臣官房領事移住部旅券課に右申請書を回付させて虚偽の申立てをし、よって、同月15日、右東京都生活文化局国際部旅券課池袋分室において、Cが、同課職員から、外務大臣の発行した右申請に係るD名義の一般旅券(旅券番号(略))の交付を受け、もって、不正の行為によって旅券の交付を受けたものである。

 

(事実認定の補足説明)
 弁護人は、本件一般旅券申請書は被告人名義であるから、被告人には同申請書の偽造罪及び行使罪は成立せず、また、旅券法違反についても共同正犯は成立せず、幇助罪が成立するに過ぎないと主張するので検討するに、関係証拠によれば、以下の事実を認定することができる。

1 被告人は、平成7年10月下旬ころ、Aから中国人で日本人名義の旅券を欲しがっている者がいるので名前を貸してくれと頼まれ、60万円の報酬を受けることを条件にこれを承諾した。
2 その後、Aから連絡を受け、旅券発給申請に必要な戸籍謄本、住民票、健康保険証、印鑑登録証明書を準備し、自己の印鑑とともにこれをAに渡した。
3 Aらは、判示認定のとおり、被告人名義の一般旅券発給申請書を作成し、被告人から交付を受けた右書類等を用いて一般旅券の発給を申請した。
4 その後、Aは被告人の右戸籍謄本、印鑑等を被告人に返還し、その際報酬の一部として30万円を被告人に渡したが、その際被告人はAに対して報酬として5万円の上乗せを要求し、Aはこれを了承した。
5 これから約1週間後、被告人の下に旅券交付に関する葉書が届いたので、被告人は、Aに対して右葉書及び被告人の健康保険証、印鑑を渡した。
6 Aらは、判示認定のとおり、被告人から交付を受けた右書類等を利用して一般旅券の交付を受けた。
7 その後、Aは被告人に対して右書類及び印鑑を被告人に返還するとともに、報酬として35万円を被告人に渡した。

 そこで検討するに、なるほど本件一般旅券発給申請書は被告人名義であるが、一般旅券発給申請書は、その性質上名義人たる署名者本人の自署を必要とする文書であるから、例え名義人である被告人が右申請書を自己名義で作成することを承諾していたとしても、他人である共犯者が被告人名義で文書を作成しこれを行使すれば、右申請書を偽造してこれを行使したものというべきである。そして、被告人は文書偽造及び同行使の実行行為自体は行っていないものの、前記認定した事実、殊に、本件犯行の実現のためには被告人の関与が不可欠であったこと、65万円という多額の報酬を受領していることなどに照らせば、被告人は自己の犯罪として右犯行に関与したものというべきであって、共謀共同正犯としての責任を負うものである(被告人が右偽造文書の名義人であり、単独では正犯にはなり得ないことは右結論には影響しない。)。同様の理由により、被告人には旅券法違反の共謀共同正犯が成立するものと認められるので、弁護人の主張は理由がない。

(引用終わり)

(大判大4・10・4より引用。太字強調は当サイトによる。)

 凡従犯は単に正犯を幇助するに因て成立するものなれば苟も他人が歯科医師の免許を受けずして歯科医業を為すの情を知りて之を幇助するときは自ら有免許者たると無免許者たるとを問わず歯科医師法違反罪の従犯たるは免れざるは勿論にして此趣旨に依れる原判決の擬律は少も違法にあらず論旨は理由なし

(引用終わり)

(札幌高判平20・3・6より引用。太字強調は当サイトによる。)

 論旨は、要するに、本件各行為が医師法31条1項1号、17条に該当するとしても、行政犯においては、法定の義務者のみが犯罪の主体たり得るのだから医師の免許を受けている被告人は義務者ではなく、これに加功しても共犯は成立しない、仮に、この見解を採用しないとしても、無免許医業罪は、犯罪の主体が医師でない者に限定されており、刑法65条1項の身分犯であると解すべきであるから、刑法60条を適用した原判決は、法令の適用を誤っている、という。しかし、医師の免許は、免許のある者が自ら医業を行うことを許容するに過ぎないから、医師が医師免許のない者と共謀の上、免許のない者が医業を行ったときは、医師も医師法31条1項1号にいう無免許医業罪の共同正犯になるというべきである。また、医師法31条1項1号、17条における医師の資格がないことは刑法65条1項にいう身分には当たらないから、被告人に刑法60条を適用した原判決に誤りはない。結局、論旨はいずれも理由がない。

(引用終わり)

(最判昭23・11・25より引用。太字強調は当サイトによる。)

 住居侵入の罪は故なく人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し又は要求を受けてその場所から退去しないことによつて成立するものであつて、犯人の身分により構成され又は刑の軽重を来たすべき犯罪ではない。唯犯人と被害者との間に、特別な身分関係―例えば親子の関係―が存在するようなときは、かかる身分関係のない者の場合よりも、その侵入が「故なく」為されたものでないと見るのを相当とする場合が比較的多いであろうといい得るに過ぎない。本件において、原審は「被告人が第一審相被告人等3名と共謀して、当時出奔していた実父D方に、共犯者にはその実父の家であることを告げず、午後11時30分頃強盗の目的を以て侵入した」との事実を認定しているのである。この場合、もし被告人が家出したことを後悔して父に謝罪するつもりで涙の帰宅をしていたものとすれば、たといかかる深夜戸締りを破つての侵入であつたとしても、父にとつてそれは迷える羊の帰還であり、心からの歓喜そのものであつたかも知れないのであつて、もとより住居侵入罪の成立しよう筈はないのである。しかし、これが強盗の目的で、しかも共犯者3名をも帯同して深夜家宅内に侵入したとあつては、たといそれが嘗ては自らも住み慣れたなつかしい実父の家であるとしても、父としても、世間としても、これを目して正当な「故ある」家宅の侵入とは認みえないであろう。されば原審の確定した被告人等の右所為は、数人共同して住居侵入罪を実行した場合に該当すること勿論であつて、刑法第130条第60条により問擬せらるべきものなのである。しかるに、原審は右事実を認定しながら刑法第60条を適用せず、犯人の身分により構成すべき犯罪行為に加功したその身分なき者をなお共犯とする同法第65条第1項を適用したのは論旨主張の通り擬律の錯誤あるものといわざるを得ない。原判決はこの点において全部破棄を免れ得ないのである。

(引用終わり)

(最決昭40・3・30より引用。太字強調は当サイトによる。)

 強姦罪は、その行為の主体が男性に限られるから、刑法65条1項にいわゆる犯人の身分に因り構成すべき犯罪に該当するものであるが、身分のない者も、身分のある者の行為を利用することによつて、強姦罪の保護法益を侵害することができるから、身分のない者が、身分のある者と共謀して、その犯罪行為に加功すれば、同法65条1項により、強姦罪の共同正犯が成立すると解すべきである。

(引用終わり)

(最決平12・11・27より引用。太字強調は当サイトによる。)

 本件は、平成6年法律第4号による改正前の政治資金規正法12条1項に基づいて提出された報告書を作成するに当たり、それに虚偽の記入をしたというものであるところ、何人が右報告書に虚偽の記入をしても、政治資金の収支を公開することにより政治活動の公明と公正を確保するという同法の目的が没却されることに変わりはないのであって、右改正前の同法25条1項により右行為が処罰されるのは、特定の者に課せられた義務に違反するからではないというべきである。したがって、同条項が定める前記報告書に虚偽の記入をする罪は、その主体が限定されたものではなく、犯人の身分によって構成すべき犯罪ではないと解されるから、原判決が、これと同旨の見解の下、会計責任者との共謀による被告人の本件所為に対して平成7年法律第91号による改正前の刑法65条1項を適用しなかった第一審判決を正当とした判断は、これを是認することができる。 

(引用終わり)

(参照条文)政治資金規正法
12条(報告書の提出)
 政治団体の会計責任者……(略)……は……(略)……当該政治団体に係るその年における収入、支出その他の事項……(略)……を記載した報告書を……(略)……都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に提出しなければならない。
2~4 (略)

25条
 次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
 一~二 (略)
 三 第12条第1項……(略)……の報告書……(略)……に虚偽の記入をした者
2 (略)

(仙台高判平12・3・16より引用。太字強調は当サイトによる。)

  原判決は……(略)……(一)不作為による幇助犯が成立するためには、他人による犯罪の実行を阻止すべき作為義務を有する者が、犯罪の実行をほぼ確実に阻止し得たにもかかわらず、これを放置しており、要求される作為義務の程度及び要求される行為を行うことの容易性等の観点からみて、その不作為を作為による幇助と同視し得ることが必要と解すべきであるとした上、(二)被告人には、甲がVに対して暴行に及ぶことを阻止すべき作為義務があったと認めながら、(三)その作為義務の程度は極めて強度とまではいえないとし、(四)被告人に具体的に要求される作為の内容としては、甲の暴行をほぼ確実に阻止し得た行為、すなわち甲の暴行を実力をもって阻止する行為を想定するのが相当であり、甲とVの側に寄って甲がVに暴行を加えないように監視する行為、あるいは、甲の暴行を言葉で制止する行為を想定することは相当でないとした上で、(五)被告人が身を挺して制止すれば、甲の暴行をほぼ確実に阻止し得たはずであるから、被告人が甲の暴行を実力をもって阻止することは、不可能ではなかったが、そうしようとした場合には、かえって、甲の反感を買い、被告人が甲から激しい暴行を受けて負傷していた相当の可能性のあったことを否定し難く、場合によっては胎児の健康にまで影響の及んだ可能性もある上、被告人は、甲の暴行を実力により阻止することが極めて困難な心理状態にあったのであるから、被告人が甲の暴行を実力により阻止することは著しく困難な状況にあったとし、(六)右状況にかんがみると、被告人の不作為を作為による傷害致死幇助罪と同視することはできない旨判示している。

 (中略)

 しかし……(略)……被告人は、甲の暴行を実力により阻止することが著しく困難な状況にあったとはいえず……(略)……被告人の不作為を作為による傷害致死幇助罪と同視することができないとはいえないから、右事実誤認は、判決に影響を及ぼすことが明らかというべきである。

 (中略)

 後述する不作為による幇助犯の成立要件に徴すると、原判決が掲げる「犯罪の実行をほぼ確実に阻止し得たにもかかわらず、これを放置した」という要件は、不作為による幇助犯の成立には不必要というべきであるから、実質的に作為義務がある者の不作為のうちでも結果阻止との因果性の認められるもののみを幇助行為に限定した上、被告人に具体的に要求される作為の内容として甲の暴行を実力をもって阻止する行為のみを想定し、甲とVの側に寄って甲がVに暴行を加えないように監視する行為、あるいは、甲の暴行を言葉で制止する行為を想定することは相当でないとした原判決には、罪刑法定主義の見地から不真正不作為犯自体の拡がりに絞りを掛ける必要があり、不真正不作為犯を更に拡張する幇助犯の成立には特に慎重な絞りが必要であることを考慮に入れても、なお法令の適用に誤りがあるといわざるを得ない。
 そこで、被告人に具体的に要求される作為の内容とこれによる甲の犯罪の防止可能性を、その容易性を含めて検討する。
 まず、甲とVの側に寄って甲がVに暴行を加えないように監視する行為は、数メートル離れた台所の流し台から甲とVのいる寝室に移動するだけでなし得る最も容易な行為であるところ、関係証拠によれば、甲は、依然、被告人が甲のせっかんの様子を見ているとせっかんがやりにくいとの態度を露わにしていた上、本件せっかんの途中でも、後ろを振り返り、被告人がいないかどうかを確かめていることが認められ、このような甲の態度にかんがみると、被告人が甲の側に寄って監視するだけでも、甲にとっては、Vへの暴行に対する心理的抑制になったものと考えられるから、右作為によって甲の暴行を阻止することは可能であったというべきである。
 次に、甲の暴行を言葉で制止する行為は、甲を制止し、あるいは、宥める言葉にある程度の工夫を要するものの、必ずしも寝室への移動を要しない点においては、監視行為よりも容易になし得る面もあるところ、関係証拠によれば、甲は、Vに対する暴行を開始した後も、V及び被告人の反応をうかがいながら、一発ずつ間隔を置いて殴打し、右暴行をやめる機会を模索していたものと認められ、このような甲の態度にかんがみると、被告人が甲に対し、「やめて。」などと言って制止し、あるいは、Vのために弁解したり、Vに代わって謝罪したりするなどの言葉による制止行為をすれば、甲にとっては、右暴行をやめる契機になったと考えられるから、右作為によって甲の暴行を阻止することも相当程度可能であったというべきである(被告人自身も、原審公判廷において、本件せっかんの直前、言葉で制止すれば、その場が収まったと思う旨供述している。)。
 最後に、甲の暴行を実力をもって阻止する行為についてみると、原判決も判示するとおり、被告人が身を挺して制止すれば、甲の暴行をほぼ確実に阻止し得たことは明らかであるところ、右作為に出た場合には、甲の反感を買い、自らが暴行を受けて負傷していた可能性は否定し難いものの、甲が、被告人が妊娠中のときは、胎児への影響を慮って、腹部以外の部位に暴行を加えていたことなどに照らすと、胎児の健康にまで影響の及んだ可能性は低く……(略)……被告人が甲の暴行を実力により阻止することが著しく困難な状況にあったとはいえないことを併せ考えると、右作為は、甲の犯罪を防止するための最後の手段として、なお被告人に具体的に要求される作為に含まれるとみて差し支えない。
 そうすると、被告人が、本件の具体的状況に応じ、以上の監視ないし制止行為を比較的容易なものから段階的に行い、あるいは、複合して行うなどして甲のVに対する暴行を阻止することは可能であったというべきであるから、右……(略)……作為による本件せっかんの防止可能性を検討しなかった原判決の法令適用の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかというべきである。

 以上によれば、論旨はいずれも理由があるから、刑訴法397条1項、380条、382条により原判決を破棄し、同法400条但書を適用して、当審において更に次のとおり判決をする。

(罪となるべき事実)
 被告人は、平成9年6月ころ、先に協議離婚した甲と再び同棲を開始するに際し、当時自己が親権者となっていた、元夫乙との間にもうけた長男A及び二男V(当時3歳)を連れて甲と内縁関係に入ったが、その後、甲がVらにせっかんを繰り返すようになったのであるから、その親権者兼監護者としてVらに対する甲のせっかんを阻止してVらを保護すべき立場にあったところ、甲が、平成9年11月20日午後7時15分ころ、〇〇市……(略)……△△マンション1号室において、Vに対し、その顔面、頭部を平手及び手拳で多数回にわたり殴打し、転倒させるなどの暴行を加え、よって、Vに硬膜下出血、くも膜下出血等の傷害を負わせ、翌21日午前1時55分ころ、……(略)……D総合病院において、Vを右傷害に伴う脳機能障害により死亡させた犯行を行った際、同月20日午後7時15分ころ、右△△マンション1号室において、甲が前記暴行を開始しようとしたのを認識したのであるから、直ちに右暴行を阻止する措置を採るべきであり、かつ、これを阻止してVを保護することができたのに、何らの措置を採ることなく放置し、もって甲の前記犯行を容易にしてこれを幇助したものである。

(補足説明)
1.不作為による幇助犯は、正犯者の犯罪を防止しなければならない作為義務のある者が、一定の作為によって正犯者の犯罪を防止することが可能であるのに、そのことを認識しながら、右一定の作為をせず、これによって正犯者の犯罪の実行を容易にした場合に成立し、以上が作為による幇助犯の場合と同視できることが必要と解される。

2.被告人は、平成8年3月下旬以降、約1年8か月にわたり、甲との内縁ないし婚姻関係を継続し、甲の短気な性格や暴力的な行動傾向を熟知しながら、甲との同棲期間中常にVらを連れ、甲の下に置いていたことに加え、被告人は、わずか3歳6か月のVの唯一の親権者であったこと、Vは栄養状態が悪く、極度のるい痩状態にあったこと、甲が、△△マンションに入居して以降、AやVに対して毎日のように激しいせっかんを繰り返し、被告人もこれを知っていたこと、被告人は、本件せっかんの直前、甲が、Aにおもちゃを散らかしたのは誰かと尋ね、Aが、Vが散らかした旨答えたのを聞き、更に甲が寝室でVを大きな声で問い詰めるのを聞いて、甲がVにせっかんを加えようとしているのを認識したこと、甲が本件せっかんに及ぼうとした際、室内には、甲とVのほかには、4歳8か月のA、生後10か月のB及び被告人しかおらず、Vが甲から暴行を受けることを阻止し得る者は被告人以外存在しなかったことにかんがみると、Vの生命・身体の安全の確保は、被告人のみに依存していた状態にあり、かつ、被告人は、Vの生命・身体の安全が害される危険な状況を認識していたというべきであるから、被告人には、甲がVに対して暴行に及ぶことを阻止しなければならない作為義務があったというべきである。
 ……(略)……被告人の作為義務を基礎付ける前記諸事実にかんがみると、右作為義務の程度は極めて強度であったというべきである。

3.……(略)……被告人には、一定の作為によって甲のVに対する暴行を阻止することが可能であったところ、関係証拠に照らすと、被告人は、本件せっかんの直前、甲とAとのやりとりを聞き、更に甲が寝室でVを大きな声で問い詰めるのを聞いて、甲がVにせっかんを加えようとしているのを認識していた上、自分が甲を監視したり制止したりすれば、甲の暴行を阻止することができたことを認識しながら、前記……(略)……のいずれの作為にも出なかったものと認められるから、被告人は、右可能性を認識しながら、前記一定の作為をしなかったものというべきである。

4.関係証拠に照らすと、被告人の右不作為の結果、被告人の制止ないし監視行為があった場合に比べて、甲のVに対する暴行が容易になったことは疑いがないところ、被告人は、そのことを認識しつつ、当時なお甲に愛情を抱いており、甲への肉体的執着もあり、かつ、甲との間の第2子を懐妊していることもあって、Vらの母親であるという立場よりも甲との内縁関係を優先させ、甲のVに対する暴行に目をつぶり、あえてそのことを認容していたものと認められるから、被告人は、右不作為によって甲の暴行を容易にしたものというべきである。

5.以上によれば、被告人の行為は、不作為による幇助犯の成立要件に該当し、被告人の作為義務の程度が極めて強度であり、比較的容易なものを含む前記一定の作為によって甲のVに対する暴行を阻止することが可能であったことにかんがみると、被告人の行為は、作為による幇助犯の場合と同視できるものというべきである。

(引用終わり)

(トランク監禁事件決定より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

1. 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。

(1) 被告人は、2名と共謀の上、平成16年3月6日午前3時40分ころ、普通乗用自動車後部のトランク内に被害者を押し込み、トランクカバーを閉めて脱出不能にし同車を発進走行させた後、呼び出した知人らと合流するため、大阪府岸和田市内の路上で停車した。その停車した地点は、車道の幅員が約7.5mの片側1車線のほぼ直線の見通しのよい道路上であった。

(2) 上記車両が停車して数分後の同日午前3時50分ころ、後方から普通乗用自動車が走行してきたが、その運転者は前方不注意のために、停車中の上記車両に至近距離に至るまで気付かず、同車のほぼ真後ろから時速約60kmでその後部に追突した。これによって同車後部のトランクは、その中央部がへこみ、トランク内に押し込まれていた被害者は、第2・第3頸髄挫傷の傷害を負って、間もなく同傷害により死亡した。

2. 以上の事実関係の下においては、被害者の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても、道路上で停車中の普通乗用自動車後部のトランク内に被害者を監禁した本件監禁行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる。したがって、本件において逮捕監禁致死罪の成立を認めた原判断は、正当である。

(引用終わり)

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