令和7年司法試験論文式民事系第1問参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。したがって、①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示することが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。下記に掲載した参考答案(その1)は、この①~③に特化して作成したものです。規範と事実を答案に書き写しただけのくだらない答案にみえるかもしれませんが、実際の試験現場では、このレベルの答案すら書けない人が相当数いるというのが現実です。まずは、参考答案(その1)の水準の答案を時間内に確実に書けるようにすることが、合格に向けた最優先課題です。
 参考答案(その2)は、参考答案(その1)に規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をしたものです。参考答案(その2)をみると、「こんなの書けないよ。」と思うでしょう。現場で、全てにおいてこのとおりに書くのは、物理的にも不可能だと思います。もっとも、部分的にみれば、書けるところもあるはずです。参考答案(その1)を確実に書けるようにした上で、時間・紙幅に余裕がある範囲で、できる限り参考答案(その2)に近付けていく。そんなイメージで学習すると、よいだろうと思います。

2.参考答案(その1)の水準で、実際に合格答案になるか否かは、その年の問題の内容、受験生全体の水準によります。令和7年民事系第1問についていえば、設問1の各小問や設問2イについて、考査委員の問題意識に正面から解答しようとする答案は非常に少ないと考えられること、設問2で家族法関連の条文摘示が雑な答案が多いと思われること、書くべき事項が多いだけでなく、時間配分を誤りやすい設問順になっており、時間不足で典型論点組み合わせ問題である設問2が雑になってしまった答案が相当数あると思われることから、参考答案(その1)でも、合格答案にはなるのではないかと思います。

3.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集(民法総則)【第2版】』、『司法試験定義趣旨論証集物権【第2版補訂版】』、『司法試験定義趣旨論証集債権総論・契約総論』に準拠した部分です。 

【参考答案(その1)】

第1.設問1(1)ア

1.根拠は、使用者責任(715条1項)である。

2.Aは設備工事業を営むBの従業員であり、Bは、「ある事業のために他人を使用する者」に当たる。

3.Aは、本件威嚇行為による本件負傷について不法行為による損害賠償責任を負うから、「被用者が…第三者に加えた損害」に当たる。

4.暴行のような単純な事実的不法行為における「事業の執行について」とは、事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有するものをいう(判例)。
 Aが、Bの業務として、甲車を運転していたところ、Cの運転する乙車が甲車の直前に割り込んできた。甲車は、B所有の業務用トラックである。Aは、急ブレーキを踏み辛うじて追突を回避できたが、クラクションを鳴らし続けてCに抗議した。これに腹を立てたCが、乙車を降りて甲車に近づき怒鳴りつけたところ、Aも甲車を降りて口論となった。本件威嚇行為は、口論中にCから執拗に挑発を受けたAが、甲車の荷台から取り出した工具を振り回しながらCに向かって行ったものである。事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有する。
 以上から、「事業の執行について」に当たる。

5.同項ただし書に当たる事実はない。

6.よって、Bは、本件負傷について、使用者責任に基づく損害賠償責任を負う。㋐の主張は、正当である。

第2.設問1(1)イ

1.根拠は、過失相殺(722条2項)である。

2.同項の「過失」には、被害者と身分上、生活関係上、一体をなす関係にある者の過失(被害者側の過失)も含まれる(判例)。夫婦は、婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り、身分上、生活関係上、一体をなす関係にある。
 確かに、Dの入院をきっかけに夫婦仲は険悪となり、令和5年8月以降、CとDとは、生計を分けて別居し、離婚に向けた協議を開始した。令和6年4月上旬には、CとDとは、離婚をすることに合意し、その条件の詳細を詰めている段階にあった。
 しかし、本件事故以前、CD夫婦は、同居して生計を一にしていたから、上記特段の事情はない。したがって、身分上、生活関係上、一体をなす関係にある。
 したがって、Cの過失を考慮して過失相殺できる。

3.Cには、慌てて乙車に乗り込んで急発進させ、ハンドル操作を誤って勢いよく縁石に乗り上げ、乙車を横転させた過失がある。本件事故についてのAとCとの過失割合は、Aが2割で、Cが8割である。

4.よって、過失相殺によって賠償額は8割減額される。㋑の反論は、正当である。

第3.設問1(2)ア

1.根拠は、混同(520条本文、440条)である。

2.BとCのDに対する損害賠償債務は、連帯債務である(719条1項前段)。
 Cは死亡した。Cは遺言をしておらず、また、Cの唯一の相続人であるDは、単純承認をしたから、Cの債務をすべて単独で相続する(882条、890条前段、896条1項本文、920条)。その結果、混同(520条本文)が生じ、Cが弁済したとみなされ(440条)、Bの債務も消滅する。

3.よって、㋒の反論は正当である。

第4.設問1(2)イ

 前記第3の2のとおり、混同の結果、Cが弁済したとみなされる。Cは、Bに2割相当額の求償権を取得し(442条1項)、これをDが相続する。
 よって、最終的に、Bが2割、Dが8割を負担する。

第5.設問1(3)

1.根拠は、公序良俗違反(90条)である。

2.当該法令が公序良俗を規律する強行法規である場合には90条により無効となるが、それ以外の単なる取締法規に過ぎない場合には、他に公序良俗違反となる事情がない限り90条により無効とはならない(無許可食肉販売事件、有毒アラレ事件各判例参照)

(1)弁護士法72条の趣旨は、弁護士の資格のない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とすることを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律事務に係る社会生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、かかる行為を禁止するものと解されるところ、同条に違反する行為に対しては、これを処罰の対象とする(同法77条3号)ことによって、同法72条による禁止の実効性を保障することとされている(判例)。したがって、強行法規ではなく、取締法規に過ぎない。

(2)確かに、Dは「弁護士の資格はない。」としてEを紹介された。Bは、本件和解当時、Eが弁護士の資格を有しないことを知らなかった。弁護士法72条に違反した者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる(同法77条3号)。
 しかし、DがEを紹介されたのは知人からである。Dは「和解交渉の経験が豊富で信頼することができる。」としてEを紹介された。Dは、Eに対し、Dを代理してBと和解をすることを報酬10万円で委任した。Bは、Dに対し、本件負傷に係る損害賠償債務の額を150万円とする和解案を提示した。Dは、その案を拒み、Bに対し、本件負傷に係る損害賠償債務の額を250万円として、これを直ちに支払うよう請求した。本件和解の内容は、「Bは、Dに対し、令和7年1月10日までに、本件負傷に係る損害賠償金200万円を支払う。本件負傷についての損害に関し、DとBとの間には、これ以外に一切の債権債務がないことを確認する。」というものである。Dは、Bに対し、本件和解に基づき200万円を支払うよう請求した。
 以上から、他に公序良俗違反となる事情はなく、90条により無効とはならない。

3.よって、㋓の反論は、正当でない。

第6.設問2ア

1.令和7年3月10日、契約①により、乙所有権はDからCに移転した(586条1項、176条)。

2.Cは17歳で未成年(4条)で、ABの共同親権に服し(818条1項、3項本文)、契約①を締結するには、ABの同意を要する(5条1項本文、824条本文)のに、CはABに何ら相談していないからABの同意がない。契約①は取り消し得る(同条2項)。
 同月13日、Aは、Bに無断で、A及びBの名義で、Dに対し、契約①を取り消す旨を伝えた。Dは、この取消しは、AがBの許諾を得てしたものであると考えた。取消しは、有効である(120条1項、123条、818条3項本文、824条本文、825条)。したがって、契約①は初めから無効となる(121条)。
 以上から、同日時点で、乙所有権はDに復帰している。

3.同月21日時点でCは乙について無権利であり、Eは契約②により乙所有権を取得しないのが原則である。

(1)Eは上記2の取消し後の第三者である。
 取消し後の第三者が生じた場合、取消しによって表意者への復帰的物権変動が生じると考えられるから、第三者とは対抗関係となる(判例)。したがって、第三者は表意者よりも先に対抗要件を具備すれば保護される
 同月17日、Cは、Dとの間で、Cが乙を以後Dのために占有することを合意した。同月21日、Cは、Eとの間で、Cが乙を以後Eのために占有することを合意した。EよりDの方が先に占有改定(183条)による引渡し(178条)を具備した。
 したがって、Eは保護されない。

(2)Eは、Cが乙所有者であると過失なく信じていた。即時取得(192条)するか。
 上記(1)のとおり、CからEへの占有改定がある。
 しかし、「占有を始めた」というためには、外観上の占有状態に変更が生じることを要するから、占有改定はこれに当たらない(判例)
 したがって、「占有を始めた」の要件を欠く。Eは即時取得しない。

4.同月24日時点でEは乙について無権利であり、Fは契約③により乙所有権を取得しないのが原則である。もっとも、Fは、Eが乙所有者と過失なく信じていた。即時取得するか。
 同日、Eは、Cに対して、以後Fのために乙を占有することを命じ、Fがこれを承諾した。指図による占有移転(184条)がある。
 指図による占有移転が「占有を始めた」に当たるかは、占有代理人が現実の占有を失ったかで判断する
 Cは乙の現実の占有を失っていない。「占有を始めた」に当たらない。
 したがって、「占有を始めた」の要件を欠く。Fは即時取得しない。

5.同月28日時点でFは乙について無権利であり、Gは契約④により乙所有権を取得しないのが原則である。Gは即時取得するか。

(1)乙は絵画で「動産」に当たる。

(2)売買契約である契約④によるから、「取引行為によって」、「平穏」、「公然」に当たる。

(3)同日、Cは、Fからの依頼を受け、Gの指示する場所へと乙を搬入した。現実の引渡し(182条1項)があり、「占有を始めた」に当たる。

(4)上記(3)時点で、Gは、Fが乙所有者と過失なく信じていたから、「善意」かつ「過失がない」に当たる。

(5)以上から、Gは乙を即時取得する。

6.よって、乙所有権は、上記過程を経て、現在はGに属する。

第7.設問2イ

1.請求2は、不当利得返還請求(703条)である。

2.Dは、契約④締結時である令和7年3月28日に乙所有権を再度失ったから、契約④までは乙所有権はDに帰属する。Fは、Dの財産である乙の売却代金として35万円の支払を受けたから、「他人の財産…によって利益を受け」た。

3.Dは、適正価額30万円の乙所有権を失ったから、「他人に損失」がある。

4.上記2の受益と上記3の損失はいずれも契約④に基づくから、因果関係(「そのために」)がある。

5.契約④当時、Fは乙について無権利であり、売却代金を取得する「法律上の原因」はない。

6.確かに、Fの受益は35万円である。しかし、Dの損失は30万円である。したがって、返還義務は30万円の限度である。

7.よって、請求2は、30万円の限度で認められる。

以上

【参考答案(その2)】

第1.設問1(1)ア

1.㋐の主張の根拠は、使用者責任(715条1項本文)である。

2.Aは設備工事業を営むBの従業員であり、Bは、「ある事業のために他人を使用する者」に当たる。

3.Aは、本件威嚇行為による本件負傷について不法行為による損害賠償責任を負うから、「被用者が…第三者に加えた損害」に当たる。

4.「事業の執行『について』」とされた趣旨は、使用者責任の根拠が危険責任・報償責任の法理にあることを踏まえ、加害行為が事業執行そのものであることまでは要しないが、少なくとも関連性を有することは必要とする点にあるから、取引行為のように行為の外形が事業関連性を基礎付ける主要な要素である類型については、行為の外形が被用者の職務に属するかで判断し(外形理論)、それ以外の類型については、事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有するかで判断する(判例)。

(1)加害行為である本件威嚇行為に至る一連の事態は、AがB所有の業務用トラックである甲車を運転中、乙車に割り込まれたことに端を発している。判例は、業務用車両を運転中に交通事故を起こした事案において外形理論を用いており、業務用車両を運転したという共通点があるから、本件威嚇行為についても外形理論により判断すべきともみえる。しかし、上記判例は、内規に違反して私用で運転した事案に関するものであって、運転行為の外形によって被用者の職務と無関係でないことや職務外利用の容易性(業務と私用との混同)が基礎付けられることから、外形理論を用いたものと考えられる。
 これに対し、Aが甲車を運転したこと自体は純然たる業務としてされたものであって、上記判例とは事案を異にする。本件威嚇行為は、直接には甲車運転行為そのものが原因ではなく、甲車を降りた後に口論となり、口論中にCから執拗に挑発を受けたことに起因する。行為の外形を考慮して事業関連性を基礎付けるべき場面ではなく、純然たる業務としてされた甲車運転中のトラブルから派生した加害行為が、果たして事業関連性を有するかという場面であるから、事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有するかで判断する。

(2)上記(1)のとおり、本件威嚇行為に至る一連の事態は、AがBの業務として甲車を運転中、乙車に割り込まれたことに端を発しており、事業の執行行為を契機とする。
 乙車の割込みに対し、Aが急ブレーキを踏んで追突を回避した点は、業務への支障を避けるため必要不可欠な行為である。その後にクラクションを鳴らし続けてCに抗議したことは、事故回避に必要不可欠とはいえず、かえってトラブルを招きかねない不穏当な行為ではあるものの、上記追突回避に付随してとっさに行った密接な行為と評価できる。その後、Cが乙車を降りてAを怒鳴りつけた動機は上記クラクションに立腹したことにあり、それに応じてAも甲車を降りて口論となったもので、上記追突回避行為と時間・場所の接着性もある。そして、本件威嚇行為は、上記口論中にCから執拗に挑発を受けたことを直接の原因とする。本件威嚇行為においてAが振り回したのは甲車荷台から取り出した工具であり、通常Bの設備工事業の用に供するためのものである。上記各事実によれば、加害行為である本件威嚇行為は、事業の執行行為と密接な関連を有する。

(3)以上から、「事業の執行について」に当たる。

5.BがAの選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとか、Bが相当の注意をしても本件負傷が生ずべきであったと認めるに足りる事実はないから、同項ただし書の免責事由に当たらない。

6.よって、Bは、本件負傷について、使用者責任に基づく損害賠償責任を負う。㋐の主張は、正当である。

第2.設問1(1)イ

1.㋑の反論の根拠は、過失相殺(722条2項)である。

2.同項の趣旨は損害の公平な分担にあり、求償関係の一回的解決にも資するから、同項の「過失」には、被害者と身分上、生活関係上、一体をなす関係にある者の過失(被害者側の過失)も含まれる(判例)。夫婦は共同生活を営み、生計を一にするのが通常であるから、婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り、身分上、生活関係上、一体をなす関係にある(判例)。

(1)CD夫婦について、本件事故後に関係の変化がみられることから、上記特段の事情の判断基準時を検討する。
 上記判例の趣旨は、円満な夫婦間において損害賠償責任の追及がされることは考えにくく、生計を一にする以上、加害者が夫婦の一方に全額を賠償(719条1項前段、436条)し、他方に求償する(442条1項)のは迂遠で意味に乏しいことから、過失相殺によって求償関係も含めて一回的に解決すべき点にある。求償関係は請求に応じて弁済がされることで生じるのであり、請求時において上記の前提が崩れている場合にまで過失相殺を認めると、被害者である夫婦の一方に対し、既に生計を異にするに至った他方配偶者の無資力のリスクを転嫁することになるため、損害の公平な分担の趣旨に反する結果となる。したがって、上記場合には、全額賠償の原則(719条1項前段、436条)に戻って過失相殺を否定すべきである。以上から、上記特段の事情の判断に当たっては、請求時を基準とする。
 上記の考え方は、不法行為債権が不法行為時に一定の額の金銭債権として発生するという法命題と矛盾するともみえる。しかし、夫婦間に関する被害者側の過失の法理は、求償関係を一回的に解決するため過失相殺制度を借用するに過ぎず、実質的な賠償額や負担割合を事後の事情により変更するものではないから、上記法命題と矛盾しない。

(2)本件事故時には、CD夫婦は同居して生計を一にしていたが、請求1がされた令和6年4月10日の時点では、CとDとは、生計を分けて別居し、離婚をすることに合意し、その条件の詳細を詰めている段階にあったから、請求時において婚姻関係は既に破綻にひんしていると評価でき、上記特段の事情がある。Cは、Dと身分上、生活関係上、一体をなす関係にあるとはいえない。

(3)したがって、過失相殺においてCの過失を被害者側の過失として考慮することはできない。

3.よって、㋑の反論は、正当でない。

第3.設問1(2)ア

1.㋒の反論の根拠は、混同(520条本文、440条)である。

2.本件事故はA及びCの過失が競合して生じたもので、客観的関連共同性があるから、A及びCの損害賠償債務は、「共同の不法行為」によるものとして連帯債務となる(719条1項前段)。また、使用者責任(715条1項本文)と被用者の不法行為責任も連帯関係にある(同条3項参照)。したがって、A、B及びCのDに対する損害賠償債務は、連帯債務の関係に立つ。
 Cは遺言なく死亡し、唯一の相続人Dは、単純承認してCの債務をすべて単独で相続した(882条、890条前段、896条1項本文、920条)。これにより、生前のCがDに対して負っていた損害賠償債務について混同(520条本文)が生じ、Cが弁済したとみなされる(440条)。弁済は、債権を満足させて消滅させる行為であり、当然に絶対効とされる(441条対照)から、Bの債務も消滅する。

3.なお、共同不法行為者の損害賠償債務を不真正連帯債務とし、440条に相当する規律は適用されないとする債権法改正前の判例がある。しかし、同判例は保険会社への請求を認めるため混同による消滅を否定すべきであったという特殊な事案に関するものである。債権法改正において、基本的に従前の不真正連帯債務の規律を参照して相対効を原則としつつ、混同については絶対効が維持された趣旨は、混同を生ずべき者に履行をした上で求償を行うのは迂遠である点にある。本件においても、混同による消滅を否定すると、BはDに全額の履行をした上で、Cの負担すべき求償義務の請求をDに行うべきことになって迂遠である。共同不法行為者と被害者間の相続事案であることを踏まえても、本件において、440条の適用を否定すべき理由はない。

4.よって、㋒の反論は正当である。

第4.設問1(2)イ

 前記第3の2のとおり、混同の結果、Cが弁済したとみなされる。Cは、弁済によりBの負担部分に応じた額の求償権(442条1項)を取得し得べき地位にあった。使用者責任の代位責任としての性質から、Bの負担部分はAのそれと同一である。したがって、Bの負担部分は、Aの過失割合に相当する2割である。
 以上から、Cは、弁済により、Bに対し、賠償額の2割に相当する求償権を取得し得べき地位にあり、これをDが相続することにより、Dは、上記混同の結果生じる上記求償権を取得する。
 よって、Dが、Bに対して上記求償権を行使することを通して、最終的に、本件負傷による損害をBが2割、Dが8割負担することになる。

第5.設問1(3)

1.㋓の反論の根拠は、無権代理又は公序良俗違反である。

2.法令の趣旨目的は多様であり、直接に私法上の法律関係について規律する趣旨目的を含まないものもあるから、法令に違反する法律行為は、当該法令が公序良俗を規律する強行法規である場合には90条により無効となるが、それ以外の単なる取締法規に過ぎない場合には、他に公序良俗違反となる事情がない限り90条により無効とはならない(無許可食肉販売事件、有毒アラレ事件各判例参照)

(1)Eが本件和解に係る代理権を有しないならば、無権代理であって、Dに効果帰属しないのが原則となる(113条1項)。上記代理権の発生原因であるDE間の委任契約は有効か。
 弁護士法72条の趣旨は、弁護士資格のない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とすることを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律事務に係る社会生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、かかる行為を禁止する点にある。上記趣旨に照らせば、同条は、弁護士資格のない者が他人の法律事件について有償で委任契約を締結すること自体が公序に反することを前提とし、その限りで強行法規としての性質を有する。したがって、同条に反する委任契約は、90条により無効となる。
 もっとも、上記強行法規としての目的は、第一次的には、依頼者と非弁行為者との間の対内関係を無効とし、非弁行為者からの報酬請求(648条)等を否定すれば達成される。さらにすすんで、当該委任契約によって授与された代理権に基づいて対外的にされた個別の法律行為の効力については、相手方の信頼保護等の要素も考慮する必要があるから、同条の趣旨を踏まえて、無効とする必要があるか等を考慮しつつ、個別に判断される(判例)。
 以上のとおり、DE間の委任契約は、その対内関係において無効であるが、対外関係においては直ちに無効とはならないから、本件和解について、Eが代理権を有しないとはいえない。
 したがって、本件和解は無権代理によるものではない。

(2)弁護士法72条の上記趣旨に加え、同条違反行為を処罰対象とする(同法77条3号)ことによって、同法72条による禁止の実効性を保障することとされていること、上記(1)のとおり、同条に違反する委任契約は対内関係において無効であり、非弁行為者は委任者に対し報酬を請求できないことからすれば、非弁行為者が委任者を代理して締結した裁判外の和解契約の効力まで常に否定する必要はない。また、当該和解契約の当事者の利益保護の見地からも、当該和解契約の内容及びその締結に至る経緯等に特に問題となる事情がないのであれば、当該和解契約の効力を否定する必要はなく、かえって、同条に違反することから直ちに当該和解契約の効力を否定するとすれば、紛争が解決されたものと理解している当事者の利益を害するおそれがあり、相当でない。以上から、同条に違反する和解契約であっても、その内容及び締結に至る経緯等に照らし、公序良俗違反の性質を帯びる特段の事情がない限り、無効とはならない(判例)。

ア.確かに、Dは、「弁護士の資格はない。」としてEを紹介されており、Eに弁護士資格がないことを知っていた。一般に、法令違反に係る事実認識があるのに敢えて当該行為をしたことは、当該行為の悪質性を基礎付ける。他方、Bは、本件和解当時、Eに弁護士資格がないことを知らなかった。このことは、Bについて無効主張を制限すべき帰責性がないことを基礎付ける。本件和解を無効とすべき必要性が全くないとはいえない。

イ.しかし、和解契約それ自体は、芸娼妓契約や有毒食品を流通させる取引行為のように類型的に反社会的とされる類型のものではない。Dは、知人から、「和解交渉の経験が豊富で信頼することができる。」としてEを紹介されたのであって、暴力団や事件屋などの反社会的勢力から違法な事件解決の手段として紹介を受けたわけではない。DE間の報酬額は10万円で不当に高額とはいえない。本件負傷に係る損害賠償債務の額について、当初、Bは150万円、Dは250万円を主張していたところ、本件和解の内容は、B及びDの当初の主張の中間の額である200万円とするもので、両当事者の利益を不当に害するとはいえない。本件和解について無効を主張しているのは、委任者であるDではなく、相手方であるBであり、Bは、本件和解の内容について自ら確認して締結に至っている。仮に、本件和解の内容がBに不利益で承服できないと考えたのであれば、Bは締結を拒否することができた。他に、本件和解により、D、Bその他関係人の利益を不当に害することをうかがわせる事実はない。

ウ.以上によれば、上記特段の事情はない。したがって、本件和解は、公序良俗違反(90条)として無効とはならない。

3.よって、㋓の反論は、正当でない。

第6.設問2ア

1.Cは、契約①が締結された令和7年3月10日において17歳で、成年(4条)に達していない。契約①を締結するには、法定代理人の同意を得る必要があった(5条1項本文)。
 未成年者Cの父母であるA及びBは、親権者(818条1項)として、財産に関する法律行為についてCを「代表」する(824条本文)。「代表」とは包括代理権を有することをいうから、財産に関する法律行為について、A及びBはCの法定代理人となる。
 Cは、A及びBに何ら相談しておらず、同意を得ていない。
 したがって、契約①は、取り消すことができる(同条2項)。もっとも、取り消されるまでは有効であるから、契約①により、乙所有権はDからCに移転した(586条1項、176条)。

2.同月13日、Aは、Dに対し、契約①を取り消す旨を伝えた。取消しの意思表示(123条)がある。

(1)A及びBは、Cの法定代理人として取消権を有する(120条1項)。

ア.A及びBは婚姻中であるから、親権は共同して行う(818条3項)。法定代理人としての取消権の行使も親権の一内容といえるから、共同行使を要する。

イ.「共同して」とは、父母双方の意思に基づくことをいう。
 Bは契約①を取り消すつもりはない旨をAに伝えたが、Aは、Bに無断で、取消しの意思表示をした。Bの意思に基づいておらず、「共同して」とはいえない。

ウ.もっとも、A及びBの名義でされ、DはAがBの許諾を得てしたものであると考えており悪意でないから、取消しの意思表示の効力を妨げない(825条)。

(2)以上から、契約①は、当初から効力を失う(121条)。これにより、乙所有権はDに復帰する。

3.上記2の取消し後の同月21日、CE間で契約②が締結された。Eは乙所有権を承継取得するか。

(1)判例は、詐欺取消しによる不動産所有権の復帰を、その後に生じた第三者との関係において177条の登記を要する復帰的物権変動とする。その趣旨は、取消し後は移転登記抹消等による速やかな対抗要件具備が可能であり、これを怠る原所有者よりも、先に対抗要件を備えた転得者を保護すべき点にある。このことは、動産の場合及び第三者保護規定のない未成年取消し(95条4項、96条3項対照)の場合にも当てはまる。
 したがって、DとEは対抗関係となり、引渡し(178条)の先後で優劣が判断される。
 DもEも、Cから占有改定(183条)による引渡しを受けているが、Dは同月17日で、Eは同月21日であり、Dが先である。したがって、Dが優先する。
 以上から、Eは、乙所有権を承継取得しない。

(2)動産物権変動の対抗関係において劣後した者も、即時取得(192条)の余地がある。

ア.契約②によるから、「取引行為によって」、「平穏」、「公然」を満たし、EはCが乙の所有者であると過失なく信じていたから、「善意」、「過失がない」を満たす。

イ.Eは、占有改定により乙の占有を取得した。占有改定は「占有を初めた」に当たるか。
 「占有を初めた」が要件とされた趣旨は、取引安全と原所有者の静的安全を調整する点にあり、外観上の占有状態に何ら変更がない場合には、占有取得者において新たに動産の支配を獲得したと評価し難い一方で、権利を失うことの認識が困難な原所有者の要保護性は大きいと評価できる。そうすると、「占有を初めた」というためには、外観上の占有状態に変更が生じることを要するから、占有改定はこれに当たらない(判例)
 したがって、「占有を始めた」の要件を欠く。Eは即時取得しない。

(3)以上から、契約②によっても乙所有権に変動はなく、Dに帰属したままである。

4.同月24日、EF間で契約③が締結されたが、上記3のとおり、同日においてEは乙について無権利であり、Fは乙所有権を承継取得できない。では、即時取得するか。

(1)契約③によるから、「取引行為によって」、「平穏」、「公然」を満たし、FはEが乙所有者と過失なく信じていたから、「善意」、「過失がない」を満たす。

(2)同日、Eは、Cに対して、以後Fのために乙を占有することを命じ、Fがこれを承諾した。指図による占有移転(184条)がある。指図による占有移転は、「占有を始めた」に当たるか。

 前記3(2)のとおり、「占有を初めた」というためには、外観上の占有状態に変更が生じることを要するから、指図による占有移転が「占有を始めた」に当たるかは、占有代理人が現実の占有を失ったかで判断する
 Cは、乙の現実の占有を失っていない。したがって、「占有を始めた」に当たらない。Fは即時取得しない。

(3)以上から、契約③によっても乙所有権に変動はなく、Dに帰属したままである。

5.同月28日、FG間で契約③が締結され、Cは、Fからの依頼を受け、Gの指示する場所へと乙を搬入したから現実の引渡し(182条1項)があり、GはFが乙所有者と過失なく信じていた以上、Gが乙を即時取得することに疑いはない。これにより、Gは乙所有権を原始取得し、反射的に、Dは乙所有権を失う。

6.よって、乙所有権は、上記過程を経て、現在はGに属する。

第7.設問2イ

1.不当利得返還請求による場合

 FはDから乙について給付を受けたわけではなく、Fが契約④によってDの乙所有権を失わせてこれを侵害したのであるから、侵害利得である。そこで、703条の要件を検討する。

(1)Fは、契約④当時Dの財産であった乙を売却し、その代金として35万円の支払を受けたから「他人の財産…によって利益を受け」、契約④によってDは乙所有権を失ったから「そのために」(因果関係)、「他人に損失を及ぼした」といえる。

(2)確かに、GがFに35万円を支払ったのは、売買代金債務の履行としてであって、同債務の発生原因として契約④がある。
 しかし、物の処分権は所有権者に帰属する(206条)から、処分の対価は所有権者に帰属すべきものである。契約④の存在は、Gに対する給付保持を債権的に正当化するにすぎない。そうである以上、FにはDとの関係で35万円を正当に保持する権原がなく、「法律上の原因」がない。

(3)ア.上記(2)のとおり、処分の対価は所有権者に帰属すべきことからすれば、返還すべき利益の額は、売却代金である35万円となるとみえる。
 しかし、不当利得制度は公平の観念を基礎とするところ、損失者が失った客観的価値以上の返還を認めると、利得者の労務等によって増加した価値まで損失者に帰属させる結果となり、かえって公平でない。
 したがって、損失者が失った客観的価値以上の利益を受益者が得ていたとしても、返還すべき利益は、損失者が失った客観的価値の限度にとどまる。
 乙の適正価額は30万円であって、その変動はなかったから、Dが失った乙の客観的価値は、30万円と評価できる。したがって、返還すべき利益は、30万円の限度にとどまる。

イ.なお、判例は、代替性のある物を利得して売却処分した場合について、原則として、売却代金相当額の金員を返還すべきとする。同判例の趣旨は、代替性がある場合であっても、代替物返還でなく金銭返還とする点、代替性のある物は市場によって代替物を取得可能であるため、売却時の客観的価値は原則として売却代金額で評価し得るとともに、価格変動によるリスク分担の公平をも考慮すべき点にあるところ、いずれも代替性のない物には妥当しない。したがって、代替性のない物の不当利得については、上記判例の趣旨は及ばない。
 乙は絵画であって、代替性のない物であるから、上記判例の趣旨は、本件に及ばない。

(4)よって、請求2は、30万円の限度で認められる。

2.(準)事務管理の法理による場合

 管理者は、事務処理に当たり受け取った金銭を本人に引き渡す義務を負う(701条、646条1項)。
 Fが契約④を締結したことについて、仮に事務管理が成立すれば、Gから受け取った35万円全部が上記引渡し義務の対象となるから、上記1とは異なり、請求2は全部認められることになる。

(1)そこで、事務管理の成立要件(697条1項)を検討する。

ア.DF間に委任関係はないから「義務なく」に当たり、契約④はD所有の乙をGに売却するもので、他人の物を処分する事務といえるから「他人の事務」に当たる。

イ.「他人のために」とは、他人の利益を図る意思であることをいう。
 Fは、契約④当時、Fが乙の所有者であると信じていたから、Dの利益を図る意思はない。
 したがって、「他人のために」に当たらない。

ウ.以上から、事務管理は成立しない。

(2)「他人のために」の要件を充足しない場合であっても、本人がこれを追認すれば、同要件不充足の瑕疵が治癒され、事務管理が成立するとする説もある。同趣旨と理解できる判例もある。
 しかし、「他人のために」の要件は管理者の義務・責任を正当化する要素でもあるから、本人の意思のみによって当然に瑕疵が治癒されるとはいえない。また、上記判例は、共有者の一人が他の共有者の持分を売却した事案に関するもので、各共有者には共有物全体の使用・管理について一定の権限・負担がある(249条、252条、253条、256条)という強い関連共同性があることを踏まえたものと理解できる。したがって、同判例の趣旨が及ぶのは、共有者と同様の関連共同性が認められる場合に限られる。
 DF間には、乙の使用・管理について何らの関連共同性もない。したがって、上記判例の趣旨は及ばない。
 以上から、請求2をもってDによる黙示の追認があると考えたとしても、事務管理は成立しない。

(3)自己の利益を図る意思だった者の責任が、他人の利益を図る意思だった者よりも軽いのは不当であるとして、「他人のために」の要件を充足しない場合であっても、701条、646条1項を類推適用できるとする説もある。
 しかし、事務管理は利他的行為に係る規律であるから、利己的行為については類推の基礎がない。また、上記の説は、不法行為・不当利得では、賠償・返還の範囲が現に被害者が受けた損害ないし損失者の受けた損失に限られることから、収益の全部返還を可能にすべきであるとの価値判断を前提とするが、特殊な才覚等によって得た利益はむしろ不法行為者・受益者に帰属すべきものであり、賠償・返還の対象としない方が公平である。以上から、上記の説は採用できない。
 以上から、701条、646条1項の類推適用によることもできない。

(4)よって、(準)事務管理の法理による請求は、認められない。

以上

 

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