令和7年司法試験論文式民事系第1問の参考判例等(その2)

(無許可食肉販売事件判決より引用。太字強調は当サイトによる。)

 本件売買契約が食品衛生法による取締の対象に含まれるかどうかはともかくとして同法は単なる取締法規にすぎないものと解するのが相当であるから、上告人が食肉販売業の許可を受けていないとしても、右法律により本件取引の効力が否定される理由はない。

(引用終わり)

(有毒アラレ事件判決より引用。太字強調は当サイトによる。)

 有毒性物質である硼砂の混入したアラレを販売すれば、食品衛生法4条2号に抵触し、処罰を免れないことは多弁を要しないところであるが、その理由だけで、右アラレの販売は民法90条に反し無効のものとなるものではない。しかしながら、前示のように、アラレの製造販売を業とする者が硼砂の有毒性物質であり、これを混入したアラレを販売することが食品衛生法の禁止しているものであることを知りながら、敢えてこれを製造の上、同じ販売業者である者の要請に応じて売り渡し、その取引を継続したという場合には、一般大衆の購買のルートに乗せたものと認められ、その結果公衆衛生を害するに至るであろうことはみやすき道理であるから、そのような取引は民法90条に抵触し無効のものと解するを相当とする。

(引用終わり)

(参照条文)弁護士法
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

(最判平29・7・24より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

 弁護士法72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関して代理や和解等の法律事務を取り扱うことを業とすることができない旨を定めているところ、認定司法書士が、報酬を得る目的で業として司法書士法3条1項7号に規定する額である140万円を超える過払金の返還請求権につき裁判外の和解をすることについての委任契約を締結することは、弁護士法72条に違反するものであって、その委任契約は、民法90条に照らして無効となると解される(最高裁昭和37年(オ)第1460号同38年6月13日第一小法廷判決・民集17巻5号744頁参照)。上記の場合、当該委任契約を締結した認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することも、弁護士法72条に違反するものであるが、その和解契約の効力については、委任契約の効力とは別に、同条の趣旨を達するために当該和解契約を無効とする必要性があるか否か等を考慮して判断されるべきものである。
 弁護士法72条の趣旨は、弁護士の資格のない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とすることを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律事務に係る社会生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、かかる行為を禁止するものと解されるところ(最高裁昭和44年(あ)第1124号同46年7月14日大法廷判決・刑集25巻5号690頁参照)、同条に違反する行為に対しては、これを処罰の対象とする(同法77条3号)ことによって、同法72条による禁止の実効性を保障することとされている。そして、認定司法書士による裁判外の和解契約の締結が同条に違反する場合には、司法書士の品位を害するものとして、司法書士法2条違反を理由とする懲戒の対象になる(同法47条)上、弁護士法72条に違反して締結された委任契約は上記のとおり無効となると解されるから、当該認定司法書士は委任者から報酬を得ることもできないこととなる。このような同条の実効性を保障する規律等に照らすと、認定司法書士による同条に違反する行為を禁止するために、認定司法書士が委任者を代理して締結した裁判外の和解契約の効力まで否定する必要はないものと解される。また、当該和解契約の当事者の利益保護の見地からも、当該和解契約の内容及びその締結に至る経緯等に特に問題となる事情がないのであれば、当該和解契約の効力を否定する必要はなく、かえって、同条に違反することから直ちに当該和解契約の効力を否定するとすれば、紛争が解決されたものと理解している当事者の利益を害するおそれがあり、相当ではないというべきである。以上によれば、認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが同条に違反する場合であっても、当該和解契約は、その内容及び締結に至る経緯等に照らし、公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り、無効とはならないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると……(略)……本件和解契約の内容は、本件取引に係る約330万円の過払金等について上告人が200万円を支払うことにより紛争を解決するというものであり、その締結に至る経緯をみても、補助参加人は、Aに対し、本件取引に係る過払金の額を説明し、Aの理解を得た上で、Aの意向に沿った内容の本件和解契約を締結したというのであって、上記特段の事情はうかがわれず、本件和解契約を無効ということはできない。

(引用終わり)

(参照条文)

◯民法
(成年)
4条 年齢18歳をもって、成年とする。

(未成年者の法律行為)
5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 (略)

(取消権者)
120条 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
2 (略)

(取消しの効果)
121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

(取消し及び追認の方法)
123条 取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。

(物権の設定及び移転)
176条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

586条 交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる。
2 当事者の一方が他の権利とともに金銭の所有権を移転することを約した場合におけるその金銭については、売買の代金に関する規定を準用する。

(親権者)
818条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 (略)
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

(財産の管理及び代表)
824条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

(父母の一方が共同の名義でした行為の効力)
825条 父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。

◯民法(令和6年法律第33号による改正後のもの(令和8年5月までに施行))
(親権の行使方法等)
824条の2 親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
 一 その一方のみが親権者であるとき。
 二 他の一方が親権を行うことができないとき。
 三 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3 特定の事項に係る親権の行使(第1項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。

(大判昭17・9・30より引用。太字強調及び現代表記化は当サイトによる。)

 本件売買が……(略)……詐欺により取消し得べきものなりとせば、本件売買の取消により土地所有権はXに復帰し初よりY1に移転せざりしものとなるも、この物権変動は民法第177条により登記をなすにあらざれば、これをもって第三者に対抗することを得ざるを本則となすをもって、取消後Y1との契約により権利取得の登記をなしたるY2にこれを対抗し得るものとなすには取消による右権利変動の登記なきこと明かなる本件においてはその登記なきもこれをY2に対抗し得べき理由を説明せざるべからず。

(引用終わり)

(最判昭32・6・7より引用。太字強調は当サイトによる。)

 国税滞納処分における公売による不動産所有権の移転に関しても民法177条の適用あるものと解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨に照し明らかである。(昭和29年(オ)79号同31年4月24日第三小法廷判決参照)しかして、原審の確定した事実によれば、原判決目録記載の不動産は、もと上告人の所有であつたが、国税滞納処分として公売に付され、Dがこれを落札してその所有権を取得し同人のため所有権取得の登記がなされたところ、その後、上告人の再調査の請求により右公売処分は取消されたが、右公売処分の取消にもとずく所有権の回復については上告人は登記を経由しないでいるうちに、Dは、本件不動産を被上告人B1に譲渡し、次いで同被上告人の手を経て、被上告人B2及び被上告人東京都が、それぞれ原判示のごとくその所有権を取得し、その登記を経由したというのである。
 以上の事実関係の下においては、たとえ前記公売処分の取消により、上告論旨主張のごとく遡及的に本件不動産の所有権がDから上告人に復帰したと仮定しても、(本件公売処分の取消は、上告人の再調査の請求にもとずく取消処分であつて、上告論旨の主張するごとく、右公売の当然無効なることを宣言した趣旨でないことは原判示上あきらかである)その所有権の回復について登記を経由しなかつた上告人は、右公売処分取消の後に、本件不動産の所有権を譲受けた被上告人等に対抗し得ないことは勿論である。けだし本件不動産が、前示公売により、一旦Dの所有に帰した事実がある以上、Dにおいて前記のごとく、公売処分の取消により上告人に所有権が復帰したのち、さらに、被上告人B1に譲渡したのは、民法177条の関係では、あたかもDがこれを上告人と被上告人B1に対し、いわゆる二重譲渡をした場合と異なるところはないからである。

(引用終わり)

(最判昭35・2・11より引用。太字強調は当サイトによる。)

 無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさないいわゆる占有改定の方法による取得をもつては足らないものといわなければならない(大正5年5月16日大審院判決、民録22輯961頁、昭和32年12月27日第二小法廷判決、集11巻14号2485頁参照)。

(引用終わり)

(大阪地判昭63・8・17より引用。太字強調は当サイトによる。)

 民法192条の立法趣旨は、一般動産取引の安全を維持するため、従前、動産の占有を他人に委託していた真の権利者よりも、むしろ、その他人から取引によって正当に占有を得、権利を取得したと信じるものを保護しようとするものであると解すべきところ、本件においては……(略)……本件機械の真の所有権者はAで、Bは、Aから本件機械のリースを受け、Aのために本件機械を占有していた占有受託者であるところ、本件機械は、BからCへ、CからYへと順次売却されたが、その占有の移転は、前者が占有改定によるもの、後者が指図による占有移転によるものであり、その間、本件機械は、Bの直接占有の下にあって、Yに対する譲渡人Cが直接占有者Bに指図するという意思表示があった以外には、外観上本件機械についての従来の占有事実の状態に何ら変更はなかったので、真の所有権者Aにとっては、Bに対する本件機械の占有委託関係に変化はないし、BからC、さらにCからYに対する本件機械の譲渡の事実を外部から認識することは困難であったといえ、このような場合にまで民法192条を適用するとすれば、かえって、一般取引の安全を害するおそれがあり、前記同条の立法趣旨に沿わないことになるから、Yの占有取得には同条は適用されないというべきである。

(引用終わり)

(東京高判昭54・11・27より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

一 売買による所有権取得について
 本件豚肉はD国際が訴外Aから買受け輸入したものであること及びD国際がYの訴外B倉庫株式会社横浜支店宛に発行した荷渡指図書の交付を受けて同訴外会社支店より横浜港埠頭において右豚肉の引渡しを受けてその占有権を取得した事実は、当事者間に争いがなく……(略)……AとD国際間における本件豚肉の売買契約においては、D国際が買受代金……(略)……を決済した上で本件豚肉について発行された船荷証券を取得することによつて右豚肉の所有権を取得することが約定されていたが、D国際は右代金を決済することができなかつたため、前記船荷証券を取得できなかつたこと、しかし、本件豚肉の海上運送人であつたYは、D国際の懇請により、Aに無断で、D国際に対し船荷証券取得前の保証渡しの取扱で右豚肉を引渡したこと、そのためYはその責を問われ、昭和48年9月14日Aに対し右代金相当の損害金を支払つて右船荷証券を回収した(※注:これにより、本件豚肉の所有者はYとなった。)事実を認めることができ、これを動すに足りる証拠は存しない。
 右の事実によれば、D国際は本件豚肉の所有権を取得し得なかつたものというべきである。従つて、D国際とF商店、同商店とX間にX主張のような売買契約が締結されたとしても、Xが本件豚肉の所有権を承継取得することはできないから、この点に関するXの主張は失当である。

二 即時取得による所有権取得について

 (中略)

1 ……(略)……次の事実を認めることができる。

(1) D国際が輸入した本件豚肉は、昭和48年5月7日横浜入港のH号に積載されていたものであるが、D国際は、右入港に先立つ同月2日F商店に対し右豚肉を代金2287万9710円で売渡す旨の売買契約を締結したこと。

(2) F商店は、転売の便宜上、同日D国際から、本件豚肉の荷役及び入関手続を代行していた乙仲業者G組に対し本件豚肉をF商店に引渡すことを依頼した同月2日付荷渡指図書(甲第7号証の2)の発行を受け、同月4日これをXに示した上、Xに本件豚肉を代金1923万9000円(他の豚肉を含めると、その合計は金2753万2325円)と定めて売渡す旨の売買契約をXと締結したこと。

(3) D国際は、前示のとおり、Yから本件豚肉の引渡しを受けたが、右豚肉が未通関の冷凍肉であつたため、同月24日E水産(保税上屋でもある。)に搬入して寄託し、その後F商店との前示売買契約の履行として目的物を引渡すため、E水産に対し本件豚肉をF商店に引渡すことを依頼する旨の荷渡指図書を発行したこと。

(4)  E水産は、同月29日右荷渡指図書の正本を受取り、かつD国際から寄託者名義をF商店に変更するよう依頼されたので、同日付をもつて本件豚肉の寄託者台帳上の寄託者名義をD国際からF商店に変更し、一方、右荷渡指図書副本(甲第7号証の1)をD国際より受取つたF商店は、同月30日Xから前示売買代金の支払いを受けたので、同月31日目的物引渡の手段として、E水産宛に本件豚肉をXに引渡することを依頼する旨の同月30日付荷渡指図書(甲第4号証)を発行し、その正、副二通及びD国際の発行した前示荷渡指図書副本(甲第7号証の1)をXに交付したこと。

(5) Xの役員訴外Cは、同年6月2日ころF商店から交付を受けた右各荷渡指図書をE水産に持参して同年5月30日付の前示荷渡指図書正本を手交したところ、これが交付を受けたE水産は、同年5月30日付をもつて本件豚肉の寄託者台帳上の寄託者名義をF商店からXに変更したこと。

(6) F商店は、本件豚肉の前示売買代金としてD国際に対し、同年5月4日額面各金500万円の約束手形3通、同年6月16日額面各金250万円の約束手形2通を交付したが、額面金500万円の約束手形1通が期日に決済されなかつたこと。

(7) D国際は、同月4日所轄税関から本件豚肉の関税が金341万3400円である旨の決定通知を受け、同月15日F商店から右豚肉の関税分として交付を受けた額面金340万円の小切手1通が決済されたにもかかわらず右関税を納付しなかつたため、Xが同年7月25日ころ右豚肉を出庫しようとしたが出庫を断わられたこと。そこで、Xは、D国際に再三関税の納付方を要求したが、D国際はF商店との代金決済が済んでいないとしてこれに応じなかつたこと。

(8)  同年8月末ころF商店が前示売買代金一部未払いのまま事実上倒産するに至つたため、D国際は、同月30日F商店との前示売買契約を解除したとしてE水産に対し、先に発行した荷渡指図書(甲第7号証の1)を撤回する趣旨の赤字の荷渡指図書(乙第3号証)を発行交付したこと。

(9)  他方、D国際は、前示船荷証券を回収したYの要求により、同年9月13日E水産宛に本件豚肉をYに引渡すよう指図した荷渡指図書(乙第4号証)を発行し、そのころ右荷渡指図書の正本がE水産に送付されたが、E水産は、前示赤字の荷渡指図書と右荷渡指図書の正本について何らの措置も講じなかつたこと。

(10) 本件豚肉は、同年9月20日、Y申請にかかるD国際及びE水産に対する東京地方裁判所同年(ヨ)第5、918号動産仮処分申請事件の仮処分決定の執行により、執行官の保管することとなつたが、Xは同年11月20日D国際に代つて前示関税を納付したこと。

(11)  なお、昭和44年ころから冷凍食肉の輸入が増加したことに伴い、その売買も活発となつたが、その目的物の引渡しをするに当つては、それが通常冷蔵倉庫に保管されているところから、買主は、右目的物の引渡しを受ける手段として売主たる寄託者から荷渡指図書の発行交付を受けていたが、これを一旦出庫した上買主において更に冷蔵倉庫業者に保管を託するとなれば、その出庫、入庫に伴つて食肉の損耗をきたし、労力、経費の無駄を生じ保管料の負担やその手続の煩雑さ等にマイナス面が多いため、直ちに出庫しない場合には、売主買主ともに寄託者台帳上の寄託者名義の変更による方法を望み、冷蔵倉庫業者も、その意向に添つて、寄託者たる売主が発行する正副二通の荷渡指図書のうちの一通の呈示、もしくは送付を受けると、寄託者の意思を確認する措置を講じた上、寄託者台帳上寄託者名義を右荷渡指図書記載の被指図人に変更する手続をとるようになり、このようなことは、昭和48年当時京浜地区における冷凍食肉販売業者間、冷蔵倉庫業者間においてかなり広く行われ、売買当時者間においては、右名義変更によつて目的物の引渡しが完了したものとして処理されていたこと。

 以上の事実を認めることができる。

 以上に認定した事実によれば、Yから荷渡指図書によつて本件豚肉の引渡しを受けたD国際は、これをE水産に寄託した上F商店に売渡し、F商店はこれを更にXに売渡し、右D国際及びF商店は、いずれもその目的物たる右豚肉を引渡す手段として、受寄者たるE水産宛に右豚肉を買受人に引渡すことを依頼する旨を記載した荷渡指図書を発行し、その正本をE水産に、副本を各買受人に交付し、右正本の交付を受けたE水産は、電話連絡によつて寄託者たる売主の意思を確認するなどして、その寄託者台帳上の寄託者名義を、D国際からF商店に、F商店からXへと変更したというのである。

 ところで、倉庫寄託契約において通常一般に利用される荷渡指図書なるものは、寄託者から寄託物の保管人に対し荷渡先を指定し、その者に寄託物を引渡すことを依頼する旨記載した証書であつて、その所持人は受寄者から寄託物を受領する資格を有するが、受寄者に対し債権者的立場に立つわけのものではなく、受寄者が右証書と引換に寄託物を引渡したときには、受寄者として免責される効力を有するが、それ以上の効力を有するものではないと解されるものであるから、前示寄託者名義の変更は、通常一般に行われる荷渡指図書自体の効力によるものと認めることは相当でない。
 しかし、食肉業者間の冷凍食肉の売買においては、目的物の性質上、その引渡しの手段として売主の発行する荷渡指図書の交付を受けた買主は、右売買の目的物を一旦出庫して更にこれを冷蔵倉庫業者に寄託することによる不経済さと手続の煩雑さ等を避けるため、簡便な寄託者台帳上の寄託者名義の変更の方法によることを望み、冷蔵倉庫業者もその意向に添つて、処理することとし、荷渡指図書の被指図人に寄託者台帳上の寄託者名義を変更する手続をとり、このような方法は本件豚肉売買当時京浜地区においてかなり広く行われ、しかも、売買の当事者は、これによつて目的物の引渡しが完了したとして処理していたこと及び通常一般の荷渡指図書の場合には必ずしもこれを要しない正副二通の発行が行われ、荷受人に本来の機能をもつて交付される一通とは別に、受寄者に対し被指図人に寄託者名義の変更を依頼する趣旨の一通を交付する取扱が行われていたと見られる前叙事実関係に徴すると、F商店は、前示名義変更によつてE水産を受寄者とする本件豚肉の寄託関係から離脱するとともに、Xは、右名義変更により、F商店から、本件豚肉につき占有代理人をE水産とする指図による占有移転を受けたものというべきである。Xは、右寄託者台帳上の名義変更は、単なる内部的な記帳処理であるが、それに何らかの意義を認め得るとしても、占有改定の域を出ない旨主張するが、前叙認定事実に徴すれば、この主張を採用することはできない。

2 そこで、右指図による占有移転によつて、民法第192条にいう「占有」を取得したことに該当するか、どうかについて検討するに、前説示のとおり、Yは、D国際に本件豚肉を引渡すことによつて、これに対する占有を失つたものといわなければならないところ、更にD国際も、またF商店も、ともに寄託者台帳の寄託者名義変更を経ることによつて、E水産を占有代理人として有していた右豚肉に対する占有を失い、Xは、これによつてE水産を占有代理人とする本件豚肉に対する占有を取得するものというべきであつて、かような占有移転は、占有改定の場合とは異なり、寄託者台帳上の寄託者名義の変更という一定の書面上の処理を伴い客観的に認識することが可能であつて、善意の第三者の利益を犠牲にして取引の安全を害することのないものといわなければならないから、Xは、本件豚肉につき、民法の右規定に該当する「占有」を取得したものというべきである。

3 そうすると、Xは、本件豚肉を所有権を有しないF商店から買受けて指図による占有移転によつて引渡しを受け、E水産を占有代理人としてこれが占有を始めたものといわなければならないところ、その際善意、公然、無過失であつたことを疑うに足りる証拠も存しないから、Xは、本件豚肉所有権を即時取得したものというべきである。

(引用終わり)

(最判昭57・9・7(上記東京高判昭54・11・27の上告審)より引用。太字強調は当サイトによる。)

 原審が確定した事実関係によれば、(1)訴外D国際貿易株式会社(以下「D国際」という。)は、上告人から本件豚肉の引渡を受けてこれを訴外E水産株式会社(以下「E水産」という。)に寄託したが、これより先D国際は右豚肉を訴外有限会社F商店(以下「F商店」という。)に売り渡し、F商店はこれを被上告人に転売していたので、D国際及びF商店は、いずれも売買の目的物である右豚肉を引き渡す手段として、それぞれ受寄者であるE水産宛に右豚肉を買受人に引き渡すことを依頼する旨を記載した荷渡指図書を発行し、その正本をE水産に、副本を各買受人に交付し、右正本の交付を受けたE水産は、寄託者たる売主の意思を確認するなどして、その寄託者台帳上の寄託者名義をD国際からF商店に、F商店から被上告人へと変更した、(2) 昭和48年当時京浜地区における冷凍食肉販売業者間、冷蔵倉庫業者間において、冷蔵倉庫業者は、寄託者である売主が発行する正副二通の荷渡指図書のうちの一通の呈示若しくは送付を受けると、寄託者の意思を確認する措置を講じたうえ、寄託者台帳上の寄託者名義を右荷渡指図書記載の被指図人に変更する手続をとり、売買当事者間においては、右名義変更によつて目的物の引渡が完了したものとして処理することが広く行われていた、というのである。
 そして、右事実関係のもとにおいて、被上告人が右寄託者台帳上の寄託者名義の変更によりF商店から本件豚肉につき占有代理人をE水産とする指図による占有移転を受けることによつて民法192条にいう占有を取得したものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。

(引用終わり)

(最判平19・3・8より引用。太字強調は当サイトによる。)

 不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、受益者にその利得の返還義務を負担させるものである(最高裁昭和45年(オ)第540号同49年9月26日第一小法廷判決・民集28巻6号1243頁参照)。
 受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し、その後これを第三者に売却処分した場合、その返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると、その物の価格が売却後に下落したり、無価値になったときには、受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが、これは公平の見地に照らして相当ではないというべきである。また、逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには、受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが、これも公平の見地に照らして相当ではなく、受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない。
 そうすると、受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。

(引用終わり)

(大判大7・12・19より引用。太字強調及び現代表記化は当サイトによる。)

 按ずるに、共有者の1人甲が他の共有者乙の同意を得ることなく自己の持分と共にほしいままに他の共有者乙の持分を他に売却するの行為は、不法行為を組成するものなることト言をまたざる所なれども、他の共有者乙が後日その売買行為を承認したるときは、事務管理の法則により、乙は民法第701条、第646条の規定に基き、甲が乙の持分を売却して受取りたる代金の引渡を請求することを得るや明かなり。

(引用終わり)

(参照条文)民法
(受任者による受取物の引渡し等)
646条 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

(事務管理)
697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。

(委任の規定の準用)
701条 第645条から第647条までの規定は、事務管理について準用する。

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