令和7年司法試験短答式試験の結果について(2)

1.以下は、試験科目が憲民刑3科目となった平成27年以降の司法試験短答式試験の合格点等の推移です。

年 合格点 平均点 合格点と
平均点の差
受験者
合格率
平成
27
114
120.7
6.7 66.2%
平成
28
114
120.0 6.0 66.9%
平成
29
108
113.8 5.8 65.9%
平成
30
108
116.8 8.8 70.0%
令和
元
108
119.3 11.3 73.6%
令和
2
93
109.1 16.1 75.4%
令和
3
99
117.3 18.3 78.0%
令和
4
96
115.7 19.7 80.9%
令和
5
99
118.3 19.3 80.1%
令和
6
93 112.1 19.1 78.2%
令和
7
81 102.1 21.1 75.6%

 短答式試験の合格点は、各年の問題の難易度と合格率との相関関係で変動します。問題の難易度が高ければ合格点は下がりやすく、低ければ合格点は上がりやすい。合格率が高ければ合格点は下がりやすく、低ければ合格点は上がりやすい。そして、問題の難易度が高ければ、受験生全体の出来が悪くなるので平均点が下がるし、問題の難易度が低ければ受験生全体の出来が良くなるので平均点は上がるという関係にあるので、問題の難易度の高低の得点に対する影響は平均点として表れます。また、合格率が高ければ、それだけ平均点より低い得点でも合格しやすくなるので、合格率が高ければ合格点と平均点の差は広がりやすく、合格率が低ければ、それだけ平均点に近い得点を取らなければ合格できなくなるので、合格率が低ければ合格点と平均点の差は縮まりやすい。すなわち、合格率の高低の得点に対する影響は合格点と平均点の差として表れます。
 短答式試験の合格点は、平成29年から令和元年まで、3年連続で108点でした。もっとも、それは必ずしもすべての要素が安定していたからではなく、問題の難易度の低下と合格率の上昇がバランスよく生じていたためでした。令和2年は、合格点が一気に15点も下がって、93点となっていますが、平均点が10点程度下落した一方で、合格点と平均点との差は5点程度広がっているので、概ね10点は問題が難しくなったことによるものであり、概ね5点は合格率が上昇したことによるものということができる。昨年までは、このようにしてきれいに説明できました。
 今年は、合格点が昨年より12点も下落しました。平均点が10点下がっているので、合格点の下落のうち10点部分については、問題が難しくなったということで、説明できる。残りの2点部分は、どうか。いつもなら、これは合格率の高低で説明できました。今年は、昨年より合格率が2.6ポイント下落しています。このことは、合格点と平均点との差を縮める要素となるはずです。しかし実際には、むしろ差は2点分、広がっている。このように、今年は、従来の説明では筋が通らない数字になっているのです。どうして、そんなことになっているのか。

2.上記の説明は、合計得点だけで合否が決まる場合を想定しています。最低ライン未満者が例外的な数しか生じなかった頃は、それで何も問題ありませんでした。ところが、今年は、異常な数の最低ライン未満者が生じました。このことが、上記の説明に歪みを生じさせてしまったのです。
 具体的にみていきましょう。今年は受験者3837人中、834人がいずれかの科目で最低ライン未満となりました。今年の不合格者総数935人から途中欠席の22人を除いた913人をベースにすると、不合格者の実に91.3%がいずれかの科目で最低ライン未満となっていたわけです。ちなみに、昨年も最低ライン未満者が多かったことで話題になりましたが、それでも不合格者の61.0%にとどまっていたのでした(「令和6年司法試験短答式試験の結果について(3)」)。今年がいかに異常であるかが、よく分かります。
 では、合計得点が合格点以上であったにもかかわらず、最低ライン未満の科目があることで不合格になった人は、どれくらいいるのか。その数は、「令和7年司法試験短答式試験得点別人員調(各科目最低ライン40%点以上)」と「令和7年司法試験短答式試験得点別人員調(合計得点)」とを比較すれば分かります。前者は最低ライン未満者を含まない数字であるのに対し、後者はこれを含む数字だからです。今年の合格点である81点の累計人員をみると、前者では2902人であるのに、後者だと3193人になっている。両者の差から、合計点が合格点以上であったにもかかわらず、最低ライン未満の科目があることで不合格になった人が、291人いたことが分かります。ちなみに、昨年は69人でした(「令和6年司法試験短答式試験の結果について(3)」)。途中欠席を除く不合格者913人中の291人ですから、これは不合格者全体の31.8%に相当します。また、合計で118点を取りながら、最低ライン未満で不合格になった人が、1人いることも確認できます。合格点を37点上回っているのに、最低ラインのせいで不合格になっている。「1科目でも最低ライン未満になるようでは、どうせ合計でも合格点に届かない。だから、最低ラインを気にしているようではダメだ。」という考え方は、もう通用しない状況になっています。
 合計得点の段階で、本来存在してしかるべきだった291人が脱落したことは、合計得点段階での合格点を引き下げる要素となります。その影響は、何点くらいなのか。これは、最低ライン未満者を含めた人員分布をベースに、今年の合格者数である2902人となる点数が何点であるかを調べることで、知ることができます。そこで、「令和7年司法試験短答式試験得点別人員調(合計得点)」において、累計人員が2902人が属する点数を見ると、87点であることが分かります。実際の合格点は81点でしたから、最低ライン未満者の存在は、合計得点段階の合格点を6点程度引き下げたということができるのです。別の観点から考えてみましょう。仮に、最低ラインを度外視して、純粋に合計得点81点以上の者を合格とした場合、合格率はどうなっていたか。最低ライン未満者を含んでいる「令和6年司法試験短答式試験得点別人員調(合計得点)」で、81点の累計人員を見ると、3193人です。そうすると、受験者3837人をベースにした合格率は、3193÷3837≒83.2%になる。実際の合格率は75.6%ですから、仮に最低ラインがなく、合格点が81点のままだったなら、合格率は7.6ポイントほど高い数字だったはずだ、といえるのです。これは昨年の78.2%と比較しても、5ポイント高い数字です。このように、最低ラインの要素を除外すれば、合格率はむしろ上昇したはずだった。このことから、合格点と平均点の差が拡大したことを説明できるのです。
 以上をまとめましょう。今年は、合格点が12点下落しましたが、そのうちの大部分である10点程度は、問題が難しくなったことによるものといえます。そして、本来なら、合格率が下がっているので、合格点と平均点の差は縮まるはずであったところ、合格率が下がったのは異常な数の最低ライン未満者が出たことによるもので、それを除外すれば、合格点と平均点の差が拡大を説明できる合格率であった。その部分に相当するのが、残りの2点程度であった、ということになります。

3.今年は、不合格者の9割以上が合計得点の段階に至る以前の各科目の最低ラインでやられてしまった一方で、最低ラインさえ突破すれば合格率は97.35%と、合計得点ではほとんど落ちない試験になっていました。そのような結果を受けて、「たまたま最低ラインを下回ったかどうかで合否が決まる。もうこれ運ゲーじゃん。」とか、「これはもう過去問じゃ対応できないってことだね。これからは基本書を読まないと対応できない。」などと一部で言われているようです。しかし、これらの言説は、いずれも誤っていると思います。予備組の合格率を見れば、それが分かる。今年、予備試験合格の資格で受験した472人のうち、468人が合格しています。受験者合格率は99.15%、ほぼ全員合格です。仮に、実力とは無関係に運だけで合否が左右される「運ゲー」だったのであれば、こんなことにはならないでしょう。ちゃんと、実力が反映されている。予備試験合格者は、予備の短答を突破するだけの実力を備えているから、99%合格するのです。どのような勉強をして、そのような実力を付けたのか。ほとんどが、「短パフェ」、「肢別本」、「肢別アプリ」のような過去問ベースの教材で学習しているでしょう。基本書を読んで予備試験に合格した、なんて人は、極めて少数のはずです。このことは、「過去問じゃ対応できない。」とか、「これからは基本書を読まないと」という言説が誤りであることを示しているといえるでしょう。
 「でも、過去問なら自分もやったがな。それでもダメだったがな。」という人も、いることでしょう。そのような人は、精度が足りないのです。「自分も過去問やりましたよ!」という人の話を聞いてみると、漫然と2周した、という感じの答えが返ってくることが、よくあります。そんなの全然足りない。過去問で出た肢は、ほぼ全肢確実に切れるようにして初めて、「過去問やりました。」といえるのです。この精度の差が、どう合否に影響するか。かつては、難易度の高い未知の肢は少なく、過去問で出た肢のいくつかの正誤が多少あやふやでも、それだけで最低ラインを下回ることはありませんでした。ところが現在は、難易度の高い未知の肢の割合が意図的に増やされている。過去問で出た既知の肢を確実に切れないと、簡単に最低ラインを割ってしまいかねない問題の作りになっています。だから、過去問で出た既知の肢は、確実に切れるレベルになっていなければならない。予備試験合格者は、既知の肢であれば、100%に近い精度で切ってくる。未知の肢の2択を間違った程度では、最低ライン未満にはならないのです。最低ラインを割ってしまう人は、既知の肢でも迷ってしまうので、確実に切れる肢がない。これでは、もう完全に正誤2択の丁半博打です。丁半博打に連勝しないと、簡単に最低ラインを割ってしまう。そのような意味では、「運ゲー」なのですが、「運ゲー」にしてしまっている原因は、実力不足、準備不足にあるわけです。
 ちなみに、「未知の肢も切れるように、基本書で網羅的に知識をインプットすればいいじゃない。」と言う人がいます。冷静に考えましょう。未知の肢なんて、どこから出るか分からない。基本書の一文一文を全部覚えるつもりなのか。未知の肢として出題される可能性のある知識は、ほぼ無限にあります。民法でいえば、「注釈民法」辺りを全部覚えるつもりですか。既知の肢すらも確実に切れない状態で、無限に近い範囲の未知の肢を想定して、全部覚えるなんて、できるわけないでしょう。だから、繰り返し出題される傾向にある既知の肢を100%に近い精度で切れるようにする、という方法論しかないのです(※1)。そして、それをやれば99%受かる、ということを、予備試験合格者達が証明してくれているのでした。
 ※1 既知の肢を全部切れるようにしていれば、未知の肢が出ても、既知の肢の正誤の知識との比較で、ある程度判断できてしまうものです。「あの場合ですら判例が認めてるんだから、この場合に認めないっておかしいだろ。」という感じです。未知の肢は、予備校の模擬試験等で出題されて間違えたものをストックしておいて、直前期に復習して切れるようにしておく程度でも十分過ぎるくらいです。

4.では、既知の肢を100%に近い精度で切れるようにするには、どのような勉強をすればよいか。その答えは明確です。肢別形式の問題集を解きまくる。これは、旧司法試験時代から有効な方法論として確立されており、当サイトの中では伝説とされています(「肢別最強伝説」)。昔は、紙媒体の肢別問題集が複数市販され、毎年内容が更新されていましたが、最近は、そうしたものが市販されなくなっています(※2)。現在のところ、誰でも入手できるものの中では、辰已法律研究所のアプリ(「辰巳の肢別」)が、最も有力な学習ツールでしょう(※3)。筆者も試しに利用してみましたが、ゲーム感覚で解くことができ、正解・不正解等の記録も残すことができるので、使い勝手は悪くないと感じました。スマホがあればすぐ学習できるので、空き時間に手軽に学習できる点が大きな魅力です。「何か面白いことないかな~。」などとSNS等をダラダラ眺めている時間で、肢別アプリを解けばいい。ただ、アプリの起動から前回の続きの学習の開始までに複数回のタップを要するとか、操作感や視覚効果が一般の人気アプリと比較して明らかに劣っている等、不満を感じる部分は少なくありません。また、一般に、アプリには端末との相性による動作不良等が付きものです。本格的に問題を購入して利用する前に、レビュー等を参考にしたり、サンプル問題で操作感を確認する等して、自分の環境で使用に耐え得るものか確認すべきでしょう。
 ※2 現在は、辰已法律研究所のオンライン販売やAmazonで肢別本を購入できるようです。もっとも、持ち運びなどの利便性を考えると、アプリの方が勝ると感じます。なお、紙媒体の肢別本を用いた勉強法については、「令和2年司法試験短答式試験の結果について(2)」で説明しています。
 ※3 各予備校で、受講生のみが利用できる短答対策用のアプリやオンライン学習システムを提供している場合があります。そのようなものが利用できるのであれば、それも有力な選択肢です。

 具体的な学習法としては、まず、2回全体を回して解く。その際、単に○か×かが合っているだけでなく、なぜ正しいのか、なぜ誤っているのか。その理由まで正しく記憶していたかを、解説をみて確認します。たまたま○×が合っていても、正誤の理由まで正確に覚えていなければ、「不確実」をタップして、記録に残しておく。そして、3回目以降に解くときには、「出題設定」で、「正答率70~80%以下」(最初「100%」と表示されているものを、隣のスライダーをタップすることで操作できるのですが、細かい数字の操作が難しいので、70~80%の間の数字になればよしとします。)と「不確実」を表示するように設定します。この段階で、2回連続正解し、かつ、「不確実」をタップしていないものは除外されるでしょう。ですので、それ以外のものだけを解くことになります。そうやって再度解いていくわけですが、「不確実」のマークが付いていたものについては、正誤の理由まで正しく記憶して正解できたときは、マークを外すようにします。続けているうちに、自分がどうしても覚えられない特定の肢だけが残ります。そればかりを繰り返し解くことになりますから、いずれはそれらの肢も自然と覚えていく。このようにして、最終的に、「正答率70~80%以上」と「不確実」を選択しても、1問も表示されない状態になるまで、詰める。「そこまでやらないといけないの?」、「面倒くさい。」などと思っているうちは、確実に受かるのは難しいと思っておいた方がよいでしょう。これは、それなりに時間のかかる作業です。できる限り、早い段階から着手しなければなりません。短答で不合格になる人は、本格的に短答の学習をする時期が遅すぎるのです。逆に、一度ここまで詰めてしまうと、後はそれほど勉強しなくても、不思議とあまり忘れないものです。早い段階でここまで詰めれば、安心して論文の学習に集中できる。短答対策については、早すぎるということはないので、法科大学院入学前からでも、着手しておくべきでしょう。「短答は短期記憶だから、早めにやってもすぐ忘れてしまう。直前期まで勉強しない方がいい。」などと言う人がいますが、大きな誤りです。短答知識が長期記憶として定着することは、かつて「短答常勝将軍」と呼ばれ恐れられた長期受験者を知っていれば、嫌でも理解させられることでしょう。長期受験者は、毎年直前期に1から短答のインプットをしているわけではありません。一度ガチガチに知識を固めてしまっているので、「短答なんて勉強しなくても、勝手に点が取れるじゃん。あんなの落ちたくても落ちない。」という感じになっているのですね。短答知識は、1つ1つはこま切れの知識のようですが、全肢切れるレベルになる頃には、それらが脳内で相互にリンクしてくるので、体系的な知識として定着してくる。そんなこともあって、一度覚えると、なかなか抜けないのが、短答知識なのです。

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