憲法考査委員は短答でも「判例無視」を潰しにきている
(令和7年司法試験短答憲法)

1.令和7年司法試験短答式試験憲法。発表前の現時点において、多くの人が、最低ライン未満の恐怖を味わっていることでしょう。どうしてこんなことになっているのか、今後もこの傾向が続くのか、現時点において当サイトが考えていることを説明したいと思います。

2.昨年は憲法が異常に難しく、平均点は直近5年で最低水準となり、受験者の約8%が最低ライン未満となったのでした(「令和6年司法試験短答式試験の結果について(3)」)。一般に、考査委員は、年によって極端に易しかったり、難しくなったりするのを嫌います。なので、ある年の平均点が大きく下がってしまった場合には、考査委員は、「やっちまったな。来年は易しめにしよう。」と考えやすい。その結果、平均点の下がった翌年は、逆に平均点が高くなりやすい、という傾向が生じていたのでした。その傾向からすれば、今年の憲法は易しくなりやすいはず。昨年の時点で、当サイトは、そのように予測していたのでした(「令和6年司法試験短答式試験の結果について(3)」)。
 しかし実際には、今年は易しくなったとはいえない、いやむしろ、昨年よりも難しくなっていると感じられます。まだ結果が公表されていないので断定はできませんが、今年は、昨年よりもさらに平均点が下がり、最低ライン未満者割合は上昇しそうです。

2.これを、「偶然」とか、「たまたま」とみることもできるでしょう。しかし、「何かおかしい。」という違和感もある。そこで、今年の問題を解いた上で、改めて昨年の問題も解いてみました。そこで、分かったことがあります。それは、「判例問題は易しいが、それ以外は正誤が分からない文言を敢えて用いているなど、確実に正解するのが難しい。」ということです。
 受験生の多くは、「えっ、判例問題も難しかったよー。」と思うことでしょう。そのような人は、昨年・今年の憲法で、点が取れなかったことでしょう。そして、論文は判例無視で書いてきたのではないかと思います。一方で、「確かにそうだよな。」と思った受験生も、それなりにいることでしょう。そのような人は、昨年・今年の憲法でも、最低ライン未満を恐れるような点数にはなりにくい。そして、論文で判例を使って答案を書こうとしている人は、そのような感想を持つことが多かったのではないかと思います。
 民法・刑法では、ほとんどの人が、論文で判例の規範を用いて答案を書くことでしょう。そのために、判例の規範は一字一句に近いレベルで覚えている。なので、短答でも、判例問題は余裕で肢を切ることができるのです。しかし、多くの人にとって、憲法はそうでない。ほとんどの受験生が、予備校の指導に従って、「判例無視で人権の重要性と規制態様の強度をテキトーに羅列して、とりあえず中間審査基準」という方法論を用いていることでしょう。その結果、論文対策で判例の規範を全然覚えない。そのことが、憲法で基本的な判例が問われているのに、全然解けない、という現象に繋がっているのでしょう。
 これまでは、判例問題を多少落としたとしても、他の問題で点を取ることがある程度容易でした。なので、簡単には最低ライン未満にはならなかった。しかし昨年・今年は、他の問題で点を取ることが難しい。つまり、判例問題を確実に取らないと、トータルで最低ライン以上になることが難しいつくりになっているのですね。その結果、判例問題を取れない人は、最低ライン未満になってしまいやすいのです。SNS等では、予備校の解答速報が割れるab根拠批判対応問題や細かい統治分野の問題のような、「解けない問題」が注目され、「こんな訳わからん問題が出たせいで俺は落ちた。」と考えられがちですが、本当に重要なことは、そうではなく、「本来なら解けるはずの問題」である、判例問題を落としてしまっていることである。これが、昨年及び今年の憲法の短答問題を解いたことで分かったことです。

3.これは、何を意味するか。単年だけのことであれば、考査委員がその年にたまたまやっちまったんだ、という理解でよい。しかし、2年連続で続くとなると、何らかの意図を読み取る余地が出てきます。
 これまで、憲法の考査委員は、論文で、「判例無視で人権の重要性と規制態様の強度をテキトーに羅列して、とりあえず中間審査基準」という方法論が通用しない問題を出題し続けてきました(「中間審査基準を使わせてくれない(令和6年予備試験憲法)」)。偶然とはいい難い頻度で連続していることから、これが意図的であることは、現在では明らかです。それでも、ほとんどの受験生が、頑なに、「判例無視で人権の重要性と規制態様の強度をテキトーに羅列して、とりあえず中間審査基準」という方法論をやめようとしない。判例で書く人は徐々に増えてはいるものの、いまだに少数派という感じです。結果として、判例無視の答案を書いてもどんどん合格していってしまう。さすがにブチ切れたのでしょう。そこで、「判例を勉強していないと、それだけで不合格になるような問題を短答で出してやる。」と考えたのではないか。こうして、判例問題は比較的易しくする一方で、それ以外はわざと解けない内容にし、「判例問題が取れないと最低ライン未満になって即不合格になる。」という問題を作ってやりますた。これが、今のところの当サイトの見立てです。

4.上記の見立てが正しいとすると、昨年・今年の問題は、考査委員が「やっちまった。」のではなく、意図的にやっている。そうであるなら、来年以降も同様の傾向が続く可能性が高い、という予測が成り立つでしょう。そうだとすれば、それに対する対策が必要になります。
 これまでの傾向から、憲法の短答で問われる判例は、重要判例に絞られていて、しかも、繰り返し同じ判例が問われやすいことが分かっています。出題される判例は、論文でも問われるようなものが多い。マイナーなようでも、「実は短答でそのまま問われていたよね。」というものが論文で出題されることがある。そのような例として、令和5年予備試験憲法がありました(「考査委員激おこ答案(令和5年予備試験憲法)」)。
 そして、正誤のポイントも、論文でそのまま使いそうな部分であることがほとんどです。細かい文言ではなく、判断基準の中身・考慮要素や「特段の事情」のような例外を認めるか、射程を限定するような留保を付しているか、というような論理構造を狙って出している。今年の論文式試験との関係でいえば、在外国民選挙権事件判例が「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」については留保を付していたよね、という部分は、答案でそのまま使うべきものでした。

(在外国民選挙権事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。
 憲法は、前文及び1条において、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに、43条1項において、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め、15条1項において、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利であると定めて、国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。そして、憲法は、同条3項において、公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障すると定め、さらに、44条ただし書において、両議院の議員の選挙人の資格については、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならないと定めている。以上によれば、憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。
 憲法の以上の趣旨にかんがみれば、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。また、このことは、国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても、同様である。

(引用終わり)

 この点は、短答でもそのまま問われていたのでした。

(平成28年司法試験短答式試験憲法第14問(予備第9問)より引用。太字強調は筆者。)

 いわゆる在外邦人選挙権制限違憲訴訟上告審判決(最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決,民集59巻7号2087頁)に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№26]から[№28])

ア.前記判決は,国政選挙の選挙権について,「国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として議会制民主主義の根幹を成すものであり,民主国家においては,一定の年齢に達した国民の全てに平等に与えられるべきものである」と指摘しているが,同判決の考え方に従ったとしても,自ら選挙の公正を害する行為をした者の選挙権について一定の制限をすることまで違憲となるわけではない。[№26]

イ ウ (略)

(引用終わり)

(平成29年司法試験短答式試験憲法第13問(予備第8問)より引用。太字強調は筆者。)

 選挙権及び選挙制度に関する次のアからウまでの各記述について,最高裁判所の判例の趣旨に照らして,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№26]から[№28])

ア イ (略)

ウ.憲法は,両議院の議員の選挙において投票をすることを,一定の年齢に達した国民の固有の権利として保障しており,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。[№28]

(引用終わり)

 しかし、ほとんどの受験生は、「そんなもん知るかよ。」という感じで、上記の留保を無視して答案を書いたことでしょう。多数派がそれをやるので、「カルガモ作戦」(※1)が成立する。結果、判例無視でも、当てはめを頑張ればA評価になって合格していってしまうでしょう。ムッキーそんなの許せないですわ。考査委員がそう考えたとしても、不思議ではありません。
 ※1 「考査委員激おこ答案(令和5年予備試験憲法)」の5、「薬事法事件判例無視はとても危険(令和6年司法試験論文式公法系第1問)」の2を参照。

5.ここまで理解すれば、対策は明瞭です。予備校の解答速報が割れるab根拠批判対応問題や、細かい統治分野の問題のような、「解けない問題」を解けるようにすることではない。対策すれば「解ける問題」である判例問題を、確実に取れるようにする、ということです。
 教材は、従来どおり、過去問ベースのもので構いません。当サイトでは肢別アプリをおすすめしています(「令和6年司法試験短答式試験の結果について(2)」)が、「短パフェ」のような過去問集でもよいでしょう。すべての肢を確実に切れるようにするのは従来どおりです(※2)が、判例問題については、その肢で問われた点だけでなく、当該判例がどのような内容だったか、思い出せないようであれば、原文を読む。これだけで、劇的に効果があるでしょう。このことは、実は以前から当サイトが言ってきたことでもありますが、より重要性が増した、ということですね。
 ※2 漫然と「何周した。」というのではなく、間違った肢に集中して全部潰すことが重要です(「令和6年司法試験短答式試験の結果について(2)」)。

(「令和6年司法試験短答式試験の結果について(2)」より引用。太字強調は原文による。)

 憲法の判例問題が苦手な人は、おそらく判例の原文に目を通す習慣が付いていないのだろうと思います。著名な判例については、原文を読むようにしましょう。その際には、どのような事案であったか、どのような規範を用いたか、どのような事実をどのように評価したか、という部分に意識を向けます。これは、同時に論文対策にもなるのです。上記のポイントが頭に入っていれば、「…の場合には、…で判断する(○○事件判例参照)。」、「…を判断するに当たっては、…を考慮する(○○事件判例参照)。」というような形で、答案に書けるようになります(具体的には、当サイトの作成した「司法試験定義趣旨論証集(憲法)」を参考にしてみて下さい。)。当てはめの着眼点なども、わかるようになる。判例百選や基本書等で引用されているのは、実はごくごく一部です。原文に目を通すことによって、初めて判例を使いこなすことができるようになるのです。

(引用終わり)

 上記引用でも触れていますが、百選のような判例集の判旨部分だけでは、不十分です。判例集の判旨や解説ではなく、原文を読む。原文を読んでみると、実は原文の方が分かりやすいことに気付くかもしれません。百選の判旨は端折り過ぎているし、解説は学説の整理や評釈者の持論の披瀝がメインになってしまっていて、かえって大本の判例自体を理解しにくくしているのです(※3)。判旨や解説を読んでも意味不明だったものが、原文をきちんと読んだらすっと理解できる、というものが、結構ある。現在は、スマホからでも、裁判所のウェブサイトにアクセスして年月日、判例集登載頁、キーワード等で検索すれば、容易に原文を閲覧できます。このようにして、判例が何を言っていたのか、とりわけ、規範・考慮要素、原則・例外のような論理構造に着目して理解する。これだけで、判例問題は解けるようになっていくでしょう。
 ※3 「判例問題は百選を読めば余裕ですね。」などという言説は、この意味で不適切です。

6.このように、憲法判例を正面から学習するのであれば、論文も判例の規範を用いて書く方が効率的です。前記2、4でも触れたとおり、現在は、受験生の多数派が判例無視なので、それでも合格できないことはありません。しかし、判例で書く人も徐々に増加傾向にあることから、当サイトは、そのうち判例無視では厳しくなるだろう、と予測しています。ネックになるのは、予備校が揃って判例無視を推奨しているので、書き方が分からない、ということでしょう。そのような人は、6頁程度で上位になっている再現答案が参考になるかもしれません。現在では、「判例無視だけど8頁びっしり」という答案だけでなく、「6頁程度だけど、判例を使って出題趣旨にうまく触れている」という感じの答案も上位になっています。なので、6頁程度で上位の答案は、判例をうまく使っている答案であることが多いのです。また、当サイトでは、あらゆる論点を判例・政府見解ベースで論証化した「司法試験定義趣旨論証集(憲法)」を出しており、毎年、その論証をベースにした参考答案も掲載しています。「判例でどうやって書いていいのか分からないよ。」という人は、これらも参考にするとよいでしょう。

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