供述不能と相反供述の区別
(令和6年予備試験刑事実務基礎)

1.令和6年予備試験刑事実務基礎。設問3では、Xの検面調書を証拠採用した際にJが考慮した事実・根拠条文が問われました。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問3〕

 下線部⑥につき、裁判官JがXの検察官面前調書の採否を決定するに当たって考慮した具体的事実を、条文上の根拠と併せて答えなさい。

(引用終わり)

 ほとんどの人が、「怖い先輩たち」に着目して、「これって相対的特信情況を当てはめろってことだよね?」と判断したことでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4 Aは、同年3月18日の第1回公判期日の冒頭手続において、同年2月4日にVから電話を受けた際、本件車両の返却期限の延長を了承してもらったので、横領していないと主張し、Aの弁護人Bも、Aの無罪を主張した。また、検察官Pが同月5日にX方を訪れた際のAの言動等を立証するために証拠請求したXの検察官面前調書をBが不同意としたため、Pは、Xの証人尋問を請求し、裁判官JはXを証人として採用した。Xは、同年4月15日の第2回公判期日において「令和6年2月1日にAから電話があったかどうか、同月5日にAが私の家に来たかどうか、いずれももう何か月も前のことなので覚えていない。Aは、地元の中学校の同級生で、いつも怖い先輩たちとつるんでいた。今日傍聴席にいる人たちも、Aが昔からつるんでいた先輩たちだと思う。」などと証言し、現に法廷の傍聴席には、Aと同年代の男性が約10名おり、Aと目配せをしたり、Xの証言中に咳払いをしたりしていた。Pは、Xの記憶喚起を試みたが、Xの証言内容は変わらなかったため、Xの同年2月14日付け検察官面前調書の証拠採用を求め、⑥Jは同調書を証拠として採用した。

(引用終わり)

 そうと決まれば、刑訴法321条1項2号後段を当てはめて終わり。圧倒的多数の人がそのように解答したはずなので、それでも一定程度は評価されるでしょう。

(参照条文)刑訴法321条

 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
 一 (略)
 二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
 三 (略)

2~4 (略)

2.しかし実際には、ここは記憶喪失を原因とする供述不能を解答すべきでした。順を追って説明しましょう。

(1)まず、公判廷に証人が出廷したが、供述をしなかった場合に、321条1項2号前段の供述不能と、同号後段の相反供述のどちらになるのか。これは、全面的供述不能か、部分的供述不能かで区別するのが実務とされます(※1)。後段の相反供述は比較対象となる公判供述が存在する場合なので、比較対象となる公判供述が存在しない、すなわち、全面的供述不能の場合には、前段の供述不能と考えるべきだ、ということですね。
 ※1 石井一正『刑事実務証拠法(第5版)』(判例タイムズ社 2011)163、164頁。学生向けの概説書の中にも、この点を説明するものがあります(吉開多一ほか『基本刑事訴訟法Ⅱ 論点理解編』(日本評論社 2021年)278頁、宇藤崇ほか『LEGAL QUEST 刑事訴訟法(第3版)』(2024年 有斐閣)405頁)。

(大阪高判昭52・3・9より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

 所論は、刑訴法321条1項2号前段は……(略)……原審決定に示されたような「列挙事由に準ずるに足る全面的供述不能の場合に限られる」と解すべきでなく、凡そ一部分であっても記憶喪失等のため証言できない以上はその部分に限ってでも2号前段が適用されるべきである旨主張するが、同号前段の趣旨にかんがみると、所論の如く要証事実の具体的内容をさらに細分してその一こま宛に区切って証言できなかったかどうかを分別するのは適切でなく、むしろ原審決定のいうように解するのが妥当であって、Vの原審証言に則していえば、被告人甲および同乙の各所為による被害の顛末はともかく証言し得ていることが明らかであって、2号前段列挙事由に準じて考えなければならぬ程の証言不能があるとは到底認め難く、所論Vの検察官調書2通は既にこの点において同号前段の要件を欠くものといわざるをえない。もっとも、記憶喪失による部分的な証言不能のため、その証言内容全体を検察官面前供述と対比し、要証事実について異った認定をきたす蓋然性があると考えられるほどの差異を生ずるに至ったときは、同号後段にいう「相反する供述」または「実質的に異った供述」との要件(以下あわせて相反性という)を具備し同後段により証拠能力を付与されることがある

(引用終わり)

 さて、本問は、全面的供述不能の場合なのか、部分的供述不能の場合なのか。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4 Aは、同年3月18日の第1回公判期日の冒頭手続において、同年2月4日にVから電話を受けた際、本件車両の返却期限の延長を了承してもらったので、横領していないと主張し、Aの弁護人Bも、Aの無罪を主張した。また、検察官Pが同月5日にX方を訪れた際のAの言動等を立証するために証拠請求したXの検察官面前調書をBが不同意としたため、Pは、Xの証人尋問を請求し、裁判官JはXを証人として採用した。Xは、同年4月15日の第2回公判期日において「令和6年2月1日にAから電話があったかどうか、同月5日にAが私の家に来たかどうか、いずれももう何か月も前のことなので覚えていない。Aは、地元の中学校の同級生で、いつも怖い先輩たちとつるんでいた。今日傍聴席にいる人たちも、Aが昔からつるんでいた先輩たちだと思う。」などと証言し、現に法廷の傍聴席には、Aと同年代の男性が約10名おり、Aと目配せをしたり、Xの証言中に咳払いをしたりしていた。Pは、Xの記憶喚起を試みたが、Xの証言内容は変わらなかったため、Xの同年2月14日付け検察官面前調書の証拠採用を求め、⑥Jは同調書を証拠として採用した。

(引用終わり)

 「『覚えていない。』って証言してんだから、部分的供述不能じゃんね。」と思った人は、供述の意味を再確認する必要があります。供述とは、体験した事実を言語等によって再現することをいうのでした(※2)。「覚えていない。」という発言は、体験した事実の再現を全く含んでいない。なので、これは全面的供述不能なのです(※3)。この点を理解すると、問題文が、周到にも「供述」と「証言」を使い分けていることにも、気が付くことでしょう(※4)。
 ※2 「人がある事実の存否という情報を伝えようとする言語的な表現」と定義されることもあります(後藤昭『伝聞法則に強くなる』(日本評論社 2019年)3頁)。いずれにせよ、「事実」に関するものだ、ということがポイントです。
 ※3 立証対象が複数の可分な事実で構成される場合において、証人が可分な一部の事実について供述する一方で、他の可分な一部は全面的に供述しない場合はどうか、というややこしい問題もあります(ネット上でも閲覧可能な論文として、山口直也「部分的証言拒絶と供述不能」立命館法学2012年1号(341号)参照)が、本問では、そのようなややこしい問題は含まれていません。
 ※4 Xの公判廷証言のうち、「Aは、地元の中学校の同級生で、いつも怖い先輩たちとつるんでいた。」の部分は、過去に体験した事実の再現といえますが、これは犯罪事実とは何ら関連性を有しないので、供述と評価することはできません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Aは、逮捕後のKによる弁解録取手続において「レンタカーをだまし取っていない。同月4日にVから電話を受けた時、1週間延長してくれと言って承諾してもらった。」などと供述した。

 (中略)

 Aは、Pによる弁解録取手続においてもKによる弁解録取手続時と同様の供述をし、所要の手続を経て、同日中に勾留された。

 (中略)

 また、検察官Pは、同月14日にXの事情聴取を行った。Xは、同月1日にAから遊びに行くという電話があったことや同月5日にAがX方に来た際に前記2記載のやり取りがあったことを供述した。Xは、そのほか、同月1日のAとの電話で、同月5日に乙駅構内で待ち合わせて遊びに行くと約束したこと、同月5日にX方を訪れた際にAは「昔から欲しかった車種だった。ナンバーも覚えやすいだろ。」などと言っていたこと、その車のナンバーがN300わ7777という同じ数字が並んだものだったのでよく覚えていることなどを供述したため、Pは、その旨の同月14日付け検察官面前調書を作成し、Xはこれに署名押印した。

 (中略)

 Xは、同年4月15日の第2回公判期日において「令和6年2月1日にAから電話があったかどうか、同月5日にAが私の家に来たかどうか、いずれももう何か月も前のことなので覚えていない。Aは、地元の中学校の同級生で、いつも怖い先輩たちとつるんでいた。今日傍聴席にいる人たちも、Aが昔からつるんでいた先輩たちだと思う。」などと証言し、現に法廷の傍聴席には、Aと同年代の男性が約10名おり、Aと目配せをしたり、Xの証言中に咳払いをしたりしていた。Pは、Xの記憶喚起を試みたが、Xの証言内容は変わらなかったため、Xの同年2月14日付け検察官面前調書の証拠採用を求め、⑥Jは同調書を証拠として採用した。

(引用終わり)

 全面的供述不能と分かれば、ここは、刑訴法321条1項2号後段の相反供述としてではなく、前段の供述不能として検討すべきことになる。この段階で、ほとんどの受験生が脱落してしまったことでしょう。

(2)相反供述ではなく、供述不能と考えるとして、供述不能の原因は何か。これによって、Jが考慮したと思われる事実が変わります。考えられるのは、2つ。1つは時間経過による記憶喪失で、もう1つはA及び傍聴人による威迫です。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4 Aは、同年3月18日の第1回公判期日の冒頭手続において、同年2月4日にVから電話を受けた際、本件車両の返却期限の延長を了承してもらったので、横領していないと主張し、Aの弁護人Bも、Aの無罪を主張した。また、検察官Pが同月5日にX方を訪れた際のAの言動等を立証するために証拠請求したXの検察官面前調書をBが不同意としたため、Pは、Xの証人尋問を請求し、裁判官JはXを証人として採用した。Xは、同年4月15日の第2回公判期日において「令和6年2月1日にAから電話があったかどうか、同月5日にAが私の家に来たかどうか、いずれももう何か月も前のことなので覚えていない。Aは、地元の中学校の同級生で、いつも怖い先輩たちとつるんでいた。今日傍聴席にいる人たちも、Aが昔からつるんでいた先輩たちだと思う。」などと証言し、現に法廷の傍聴席には、Aと同年代の男性が約10名おり、Aと目配せをしたり、Xの証言中に咳払いをしたりしていた。Pは、Xの記憶喚起を試みたが、Xの証言内容は変わらなかったため、Xの同年2月14日付け検察官面前調書の証拠採用を求め、⑥Jは同調書を証拠として採用した。

(引用終わり)

 仮に、Jが、Aや傍聴人による威迫によって供述不能に陥っていると考えたのであれば、講ずべき措置はA及び傍聴人の退廷や遮へい・構内ビデオリンクの措置となるはずです。そして、それでも無理そうなときに、初めて証拠採用する、という段取りになるはずでしょう。

(東京高判平22・5・27より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 供述者が公判準備若しくは公判期日において供述することのできないときとしてその事由を掲記しているのは、その供述者を裁判所において証人として尋問することを妨げるべき障害事由を示したもので、これと同様又はそれ以上の事由の存する場合において検察官調書に証拠能力を認めることを妨げるものではないから、証人が証言を拒絶した場合にも、同号前段によりその検察官調書を採用することができる(最高裁昭和26年(あ)第2357号同27年4月9日大法廷判決・刑集6巻4号584頁(※注:最大判昭27・4・9を指す。))。しかし、同号前段の供述不能の要件は、証人尋問が不可能又は困難なため例外的に伝聞証拠を用いる必要性を基礎付けるものであるから、一時的な供述不能では足りず、その状態が相当程度継続して存続しなければならないと解される。証人が証言を拒絶した場合についてみると、その証言拒絶の決意が固く、期日を改めたり、尋問場所や方法を配慮したりしても、翻意して証言する見通しが少ないときに、供述不能の要件を満たすといえる。もちろん、期日を改め、期間を置けば証言が得られる見込みがあるとしても、他方で迅速な裁判の要請も考慮する必要があり、事案の内容、証人の重要性、審理計画に与える影響、証言拒絶の理由及び態度等を総合考慮して、供述不能といえるかを判断するべきである。

(引用終わり)

(参照条文)

◯刑訴法
157条の5
 裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前(次条第1項及び第2項に規定する方法による場合を含む。)において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、被告人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。ただし、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置については、弁護人が出頭している場合に限り、採ることができる。
2 裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。

157条の6
 裁判所は、次に掲げる者を証人として尋問する場合において、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所以外の場所であつて、同一構内(これらの者が在席する場所と同一の構内をいう。次項において同じ。)にあるものにその証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、尋問することができる。
 一 (略)
 二 (略)
 三 前2号に掲げる者のほか、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者
2~4 (略)

304条の2
 裁判所は、証人を尋問する場合において、証人が被告人の面前(第157条の5第1項に規定する措置を採る場合並びに第157条の6第1項及び第2項に規定する方法による場合を含む。)においては圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは、弁護人が出頭している場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退廷させることができる。この場合には、供述終了後被告人を入廷させ、これに証言の要旨を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならない。

◯刑事訴訟規則202条(傍聴人の退廷)
 裁判長は、被告人、証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人が特定の傍聴人の面前(証人については、法第157条の5第2項に規定する措置を採る場合並びに法第157条の6第1項及び第2項に規定する方法による場合を含む。)で充分な供述をすることができないと思料するときは、その供述をする間、その傍聴人を退廷させることができる。

 ところが実際には、Pによる記憶喚起措置が功を奏さなかったという経緯で証拠採用に至っています。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4 Aは、同年3月18日の第1回公判期日の冒頭手続において、同年2月4日にVから電話を受けた際、本件車両の返却期限の延長を了承してもらったので、横領していないと主張し、Aの弁護人Bも、Aの無罪を主張した。また、検察官Pが同月5日にX方を訪れた際のAの言動等を立証するために証拠請求したXの検察官面前調書をBが不同意としたため、Pは、Xの証人尋問を請求し、裁判官JはXを証人として採用した。Xは、同年4月15日の第2回公判期日において「令和6年2月1日にAから電話があったかどうか、同月5日にAが私の家に来たかどうか、いずれももう何か月も前のことなので覚えていない。Aは、地元の中学校の同級生で、いつも怖い先輩たちとつるんでいた。今日傍聴席にいる人たちも、Aが昔からつるんでいた先輩たちだと思う。」などと証言し、現に法廷の傍聴席には、Aと同年代の男性が約10名おり、Aと目配せをしたり、Xの証言中に咳払いをしたりしていた。Pは、Xの記憶喚起を試みたが、Xの証言内容は変わらなかったため、Xの同年2月14日付け検察官面前調書の証拠採用を求め、⑥Jは同調書を証拠として採用した。

(引用終わり)

 そうだとすれば、Jは、時間経過による記憶喪失を原因とする供述不能と考えたのだ、と判断するほかありません。「それっておかしくね?納得できない。」と思う人もいるかもしれませんが、ここでは、「Jの判断が適切か。」とか、「Jはどのような事情を考慮すべきであったか。」は問われていません。飽くまで、Jが考慮した具体的事実及びその条文上の根拠が問われているだけです。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問3〕

 下線部⑥につき、裁判官JがXの検察官面前調書の採否を決定するに当たって考慮した具体的事実を、条文上の根拠と併せて答えなさい。

(引用終わり)

 なので、それだけを淡々と解答すればよい。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

 立証事項である令和6年2月5日にX方を訪れた際のAの言動等について、Xが、「もう何か月も前のことなので覚えていない」として全面的に供述しなかった事実、PがXの記憶喚起を試みたが、Xの証言内容が変わらなかった事実を、刑訴法321条1項2号前段の供述不能を基礎付けるものとして考慮した。

(引用終わり)

 このことは、「検察官の思考過程」が問われた場合に、検察官の思考過程の適否を論じる必要がないのと同じです。

3.本問は、ほとんど壊滅的な出来でしょうから、相反供述と相対的特信情況を解答した答案にも一定の評価がされ、結果として助かる人が多かったことでしょう。もっとも、出来の悪かった点は、繰り返し出題されることがある。過去問として解いたときは、同じようなことが問われたとしても正解できるよう、きちんと復習して理解しておくべきでしょう。

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