令和6年予備試験口述試験(最終)結果について(5)

1.以下は、直近5年の受験経験別の受験者数の推移です。

受験経験 なし 旧試験
のみ
新試験
のみ
両方
令和2 7257 2104 435 812
令和3 8322 2119 487 789
令和4 9445 2201 555 803
令和5 9755 2279 529 809
令和6 9172 2179 487 731

 今年は、すべてのカテゴリーで、受験者が減少しています。当サイトは、受験者減少の要因として、人手不足による採用環境の好転、賃上げ等による職場環境の好転の可能性を想起していました(「令和6年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」、「令和6年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)。「なし」のカテゴリーは、新規参入者です。採用環境・職場環境の好転は、「わざわざリスクを取って法曹になるくらいなら、普通に就職した方がお得じゃん。」、「今さら受験勉強とかするくらいなら、今の職場で頑張った方がいいよね。」と思わせるでしょう。「新試験のみ」は、法科大学院を修了し、司法試験を受験したが、受験回数を使い切って受験資格を失い、予備に回った人が属します(※1)。従来であれば、「新卒採用の時期を逸してしまったので、もう予備試験に回るしかない。」という状況に追い詰められがちだった人も、中途採用のルートで就職しやすくなったのかもしれない。旧司法試験は15年前の平成22年を最後に、もう実施されていない(※2)ので、「旧試験のみ」と「両方」は、少なくとも15年以上は受験を続けている者が属します。それだけ長期の受験をするには、何らかの形で生計を維持する必要がありますから、通常は働きながら受験を続けていることでしょう。アルバイトで働いていた受験生が、「あなたもここで長くアルバイトをやってくれている。最近人手不足なので、ちょっと正社員になってみないか。」と相応の待遇で声を掛けられたら、それをきっかけに受験生活から足を洗おうとするかもしれません。また、既に正社員として働きながら受験していた人が、賃上げをきっかけに、「この会社でずっと働いてもいいか。」という感覚になってもおかしくない。そんな背景があって、あらゆるカテゴリーで受験者が減少する、という状況になっているのだろうと思います。まだはっきりとは分かりませんが、今のところは、それで説明が付きそうな感じがしています。
 ※1 予備試験合格者が受験回数を使い切って失権し、再度予備に回るということも一応考えられますが、実際にはほとんど存在しないと考えられます。
 ※2 厳密には、平成23年に口述試験のみ実施されています。旧司法試験では、口述試験不合格者は翌年度に再度口述試験を受験することができたため、平成22年度の口述試験不合格者のみ限定で、平成23年度口述試験が実施されたのです(「平成23年度旧司法試験第二次試験の結果」)。

 とはいえ、いまだに、令和6年の時点で、「旧試験のみ」と「両方」の受験者が合わせて2910人もいることは、見逃せません。上記のとおり、旧司法試験は15年前に終了しているので、これらの人は、15年以上司法試験の勉強に人生を捧げたことになる。これほどの数の人が、ずっと苦労をしながら受験を続けているという事実は、あまり知られていません。この人達がこれまでに費やしてきた資金、時間、労力は、莫大なものがあります。受験を諦めることは、それらが無駄になってしまうことを意味する。だから、やめられない。これが、長期受験者の陥りがちな心理状態です。この人達も、最初から10年、20年と受験するつもりはなかったのが普通です。最初は、「ちょっとだけ受けてみて、ダメだったら就職しようかな。」という軽い気持ちだったりする。それでも、不合格になると悔しいので、「あと1回だけ受けてみよう。」と考えます。そうして、「あと1回だけ」、「あと1回だけ」を繰り返しているうちに、いつの間にか長期受験者となって、気が付くと、新卒採用中心の日本では通常の就職が難しい状態になっていた。そうなると、「もう自分には受験しかない。」、「受かるまでずっと受けてやる。」という心理状態へと移行していきます。これは、一度陥ると抜け出すのが極めて難しいプロセスです。その結果、これだけの滞留現象が生じるのですね。予備試験は一見魅力的なルートですが、受験するか否かを判断するに当たっては、この怖さを十分に考慮すべきだと思います。

2.以下は、受験経験別最終合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

受験経験 受験者数 最終
合格者数
最終合格率
(対受験者)
なし 9172 423 4.61%
旧試験のみ 2179 12 0.55%
新試験のみ 487 3 0.61%
両方 731 11 1.50%

 「なし」が、最も高い合格率になっているのは、例年どおりです。それでも4.6%程度で、これが予備試験の厳しさを物語っています。それ以外のカテゴリーは、もう絶望的な数字です。これらのカテゴリーの受験者3397人中、最終合格できたのは26人しかいない。毎年26人が合格して、3397人全員が受かるには、単純計算で130年程度を要します。「受かるまでずっと受けてやる。」という意識で、ただがむしゃらに勉強して受験を続けても、多くの人は、おそらく先に寿命を迎えるだろう。とても厳しい現実が、そこにあります。
 昨年までの傾向として、「新試験のみ」の最終合格率が高かった、ということがありました。当サイトでは、これは予備の論文式試験に選択科目が入ったことによる一時的なものではないか、とみていたのでした(「令和5年予備試験口述試験(最終)結果について(5)」)。今年は、「新試験のみ」も低い最終合格率にとどまっており、やはり一時的な現象であったといえます。この見方が正しければ、来年以降も、「新試験のみ」は、低い最終合格率にとどまりやすいでしょう。

3.以下は、受験経験別短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

受験経験 受験者数 短答
合格者数
短答合格率
(対受験者)
なし 9172 1821 19.8%
旧試験のみ 2179 604 27.7%
新試験のみ 487 99 20.3%
両方 731 223 30.5%

 短答は知識重視なので、旧試験時代からずっと勉強を続けている「旧試験のみ」と「両方」が圧勝し、一方で、勉強期間の最も短い「なし」は最低の合格率になる(※3)。これは、例年の傾向どおりです。「新試験のみ」は、司法試験の受験回数を使い果たして以降も勉強を続けているので、「なし」には勝つわけですが(※4)、旧司法試験時代から受験を続けてきた大先輩達と比べれば勉強期間がはるかに短いので、「旧試験のみ」や「両方」にはかなわないのでした。
 ※3 「旧試験のみ」より「両方」の方が合格率が高いのは、旧試験時代の短答は、憲法・刑法で論理問題が多く、知識のインプットが「両方」より弱いことによります。このことは、以前の記事(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)で詳しく説明しました。
 ※4 もっとも、今年はわずかな差しかありません。

4.論文段階になると、どうか。受験経験別論文合格率(短答合格者ベース)をみると、以下のようになっています。

受験経験 短答
合格者数
論文
合格者数
論文合格率
(対短答合格)
なし 1821 433 23.7%
旧試験のみ 604 14 2.3%
新試験のみ 99 3 3.0%
両方 223 12 5.3%

 短答で圧勝していた「旧試験のみ」と「両方」が壊滅し、「なし」が圧勝するのは例年どおりで、これが論文の若手優遇策(「令和6年司法試験の結果について(13)~若手優遇策の歴史~」)の効果です。
 「なし」以外のカテゴリーに属する者は、これまで不合格を繰り返してきた、とても「受かりにくい人」です。これらのカテゴリーに属する者は、ただがむしゃらに勉強をしても、ほとんど受からない。勉強時間を増やし、知識・理解を深めることで合格できるなら、「旧試験のみ」や「両方」はとっくの昔に受かっていなければおかしいのです。論文は、長文の事例、規範の明示と事実の摘示による当てはめ重視という若手優遇策があり、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい。」法則が成立する。これを意識し、逆手に取る勉強をしなければ、いつまで経っても合格することは難しいでしょう。それは、上記の数字が如実に物語っています。

戻る