レンタカー料金の詐欺?
(令和6年予備試験刑事実務基礎)

1.令和6年予備試験刑事実務基礎。設問2小問(2)では、Aが後払いを懇願した事実を、「詐欺罪の成立に積極的に働く事実」として考慮した人がいたことでしょう。そのこと自体は、必ずしもおかしなことではありません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

1 A(25歳)は、甲県乙市内に住む友人X及び乙市の西約30キロメートルにある離島の丙島に住む友人Yを訪ねようと考え、令和6年2月1日、X及びYに電話をかけ、Yに対しては同月3日、Xに対しては同月5日に遊びに行く旨伝えた。Aは、同月3日午前10時頃、丙島への唯一の交通手段である旅客車両用フェリー(以下「本件フェリー」という。)で乙市を出発して丙島に渡り、同日午後1時頃、Tレンタカー丙営業所において、車種を指定して普通乗用自動車1台(登録番号:N300わ7777。以下「本件車両」という。)を「返却期限は同月4日午後5時、返却場所は同営業所」の契約で借り受けた。その際、Aは、同営業所従業員Vから、レンタカー料金3万円は前払いである旨告げられたが、後払いにしてほしい旨懇願し、Vは渋々それを受け入れ、契約書にその旨記載した。

〔設問2〕

(1) (略)
(2) 下線部④につき、検察官Pが送致事実である詐欺ではなく単純横領の罪でAを公判請求した理由について、詐欺罪の成立に積極的に働く事実、消極的に働く事実の双方を挙げつつ答えなさい。

(引用終わり)

 しかしながら、そのことの持つ意味については、注意が必要でした。

2.例えば、以下のような論述は誤りです。

【論述例】

 Aがレンタカー料金の後払いを懇願した事実は、借受けを申し込んだ時点においてレンタカー料金を支払う意思がなかったことを推認させるから、詐欺罪の成立に積極的に働く事実といえる。

 後払いを懇願しただけで、直ちに「借受けを申し込んだ時点においてレンタカー料金を支払う意思がなかったことを推認させる」と簡単に決め付けている点も問題ですが(※)、それ以前に、詐欺の客体を取り違えている点が致命的です。
 ※ 「刑事事実認定の作法を守る(令和6年予備試験刑事実務基礎)」参照。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Vは、その後も繰り返しAに電話をかけたが、Aが一切電話に出なかったため、同月7日、本件車両をだまし取られたとして丙警察署に被害届を提出した。丙警察署の司法警察員は、詐欺の被疑事実(その要旨は別紙のとおり)で丙簡易裁判所裁判官にAに対する逮捕状を請求し、同月9日、同裁判官から同事実での逮捕状の発付を受けた。
 Aは、同月10日午後5時頃、本件車両を運転中、乙市内の公道上でガードレールに衝突する事故を起こした。その際、Aは、運転席側窓ガラスに頭をぶつけて負傷し、本件車両を放置してその場から逃げ去った。当該事故の目撃者Wが警察に110番通報し、司法警察員Kらが臨場した。Kらは、当該事故車両のナンバーから、詐欺の被害届が出されている本件車両であると把握し、①令状の発付を受けずに、本件車両が放置された現場の写真撮影及び本件車両内の証拠品の押収等を行った。

(引用終わり)

 どう考えても、詐欺の客体は本件車両です。レンタカー料金ではない。「レンタカー料金を免れるのも、詐欺罪にはなるでしょ。だから間違ってないんじゃね?」と思った人は、問題文をよく読むべきでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問2〕

(1) (略)
(2) 下線部④につき、検察官Pが送致事実である詐欺ではなく単純横領の罪でAを公判請求した理由について、詐欺罪の成立に積極的に働く事実、消極的に働く事実の双方を挙げつつ答えなさい。

(引用終わり)

 「送致事実である詐欺ではなく」とあるわけなので、ここで解答すべきなのは、送致事実とされた詐欺罪での公判請求をしなかった理由です。では、送致事実はどのようなものか、それは、別紙に書いてあったのでした。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

3 同月12日、Aは、詐欺の送致事実(その要旨は別紙に同じ)により甲地方検察庁検察官Pに送致された。Aは、Pによる弁解録取手続においてもKによる弁解録取手続時と同様の供述をし、所要の手続を経て、同日中に勾留された。

 (中略)

【別紙】  ※具体的な犯行場所や被害品時価等は省略

   被疑事実の要旨

 被疑者は、車両借受け名目で車両をだまし取ろうと考え、令和6年2月3日午後1時頃、Tレンタカー丙営業所において、同営業所従業員Vに対し、真実は、レンタカーとして借り受けた車両を返却する意思がないのに、これがあるように装って車両の借受けを申し込み、同人をして借受期間経過後直ちに同車両が返却されるものと誤信させ、よって、その頃、同所において、同人から同人管理に係る普通乗用自動車1台(N300わ7777)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させたものである。

(引用終わり)

 レンタカー料金免脱の詐欺なんてどこにも書いてありません。以前の記事(「別紙をヒントにする(令和6年予備試験刑事実務基礎)」)でも説明したとおり、別紙をスルーしていると、こういうところでも、間違えやすくなるのでした。なお、本件車両を客体とする詐欺罪としつつ、欺く行為について、「真実はレンタカー料金を支払う意思がないのに、後払いで支払うものと装って車両の借受けを申し込んだ行為」と捉えて解答した人もいたかもしれませんが、それもまた、上記別紙の記載からして取り得ない構成です。

3.そもそも、借受申込み時のレンタカーの返却意思の有無と、料金の支払時期との間には、直接の関連性はあまりありません。レンタカー料金をきちんと支払った上で、レンタカーを乗り逃げするという手口は普通にあることで、後払いを懇願すれば、かえって怪しまれるともいえる。したがって、本問でこの点を強調するのは、適切とはいえないでしょう。もっとも、本件車両の返却意思との関連で何ら意味を持たないかといえば、そんなことはありません。仮に、借受申込み時に本件車両を返却する意思がなかったとしましょう。Aとしては、もう営業所に戻って来ることはないわけですから、後払いにすれば、レンタカー料金を支払わないで済みます。なので、借受申込み時に本件車両を返却する意思がなかったと考えると、後払いを懇願したことが整合的に理解できる、というわけですね。仮に、この点を積極の事実として答案に書くならば、ここまできちんと説明する必要があるでしょう。当サイト作成の参考答案は、その一例です。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

(3)レンタカー料金の後払いを懇願した事実は、直接には料金支払意思に係るものではあるが、返却意思がない場合には、後払いにすることで料金支払も免れようという動機が生じるから、申込み時に返却意思がなかったと考えて整合する。しかし、後払いを希望する者が車両の返却意思を欠くのが通常であるとは到底いえず、Aの逮捕時の所持金が5万円でレンタカー料金3万円の後払いが可能であったことも併せ考えると、前記1の合理的疑いを排斥するには到底足りない。

(引用終わり)

 参考答案では、積極の事実としては最後の項目で、この点に触れています。それは、上記のとおり、関連性が低いからです。事実認定問題では、重要なものから先に書く、ということも、書き方のコツとして、覚えておくとよいでしょう。最後の項目で取り上げることで、「これがあまり重要でないことは分かっていますよ。」というメッセージにもなるのです。

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