「逮捕に伴う」は無理
(令和6年予備試験刑事実務基礎)

1.令和6年予備試験刑事実務基礎。設問1(1)では、無令状の現場写真撮影及びチケット半券押収の根拠が問われました。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問1〕

(1) 下線部①につき、司法警察員Kらが、本件車両が放置された現場の写真撮影、本件車両内の本件フェリーのチケットの各半券の押収を、令状の発付を受けずに行うことができる理由を答えなさい。

(引用終わり)

 先に細かい話からしておくと、Kらは、設問で問われた捜査以外に、運転席側窓ガラスに付着した血痕の採取も行っています。もっとも、この点は設問で問われていません。勢い余って血痕の採取まで解答してしまった人は、構成段階で設問を再確認するクセを付けるべきでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Aは、同月10日午後5時頃、本件車両を運転中、乙市内の公道上でガードレールに衝突する事故を起こした。その際、Aは、運転席側窓ガラスに頭をぶつけて負傷し、本件車両を放置してその場から逃げ去った。当該事故の目撃者Wが警察に110番通報し、司法警察員Kらが臨場した。Kらは、当該事故車両のナンバーから、詐欺の被害届が出されている本件車両であると把握し、①令状の発付を受けずに、本件車両が放置された現場の写真撮影及び本件車両内の証拠品の押収等を行った。その結果、本件車両内から、同月3日午前10時乙市発丙島行き及び同月4日午後7時丙島発乙市行きの本件フェリーの乗客用チケットの各半券並びに同月4日午後7時丙島発乙市行きの本件フェリーの車両用チケットの半券を押収したほか、運転席側窓ガラスに付着した血痕を採取した。

 (中略)

〔設問1〕

(1) 下線部①につき、司法警察員Kらが、本件車両が放置された現場の写真撮影、本件車両内の本件フェリーのチケットの各半券の押収を、令状の発付を受けずに行うことができる理由を答えなさい。

(引用終わり)

 また、直前で、「詐欺の被害届が出されている本件車両であると把握し」と記載されているので、下線部①は単なる交通事故の捜査としてではなく、本件車両を被害品とする詐欺罪の捜査としてされたものだ、という前提で考えることになります。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Aは、同月10日午後5時頃、本件車両を運転中、乙市内の公道上でガードレールに衝突する事故を起こした。その際、Aは、運転席側窓ガラスに頭をぶつけて負傷し、本件車両を放置してその場から逃げ去った。当該事故の目撃者Wが警察に110番通報し、司法警察員Kらが臨場した。Kらは、当該事故車両のナンバーから、詐欺の被害届が出されている本件車両であると把握し、①令状の発付を受けずに、本件車両が放置された現場の写真撮影及び本件車両内の証拠品の押収等を行った。

(引用終わり)

2.その上で、無令状でできる根拠を考えるわけですが、「公道上で……Aは……本件車両を放置してその場から逃げ去った。」というのですから、こんなのは実況見分と領置ということで終わりです。地の文で「逃げ去った」と明記されているので、「救助を呼びに行っているだけで戻って来るつもりかもしれず、本件車両の管理権はいまだAにある。」のような認定は、問題文を無視するものとして、消極に評価されるでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Aは、同月10日午後5時頃、本件車両を運転中、乙市内の公道上でガードレールに衝突する事故を起こした。その際、Aは、運転席側窓ガラスに頭をぶつけて負傷し、本件車両を放置してその場から逃げ去った。……(略)……Kらは……(略)……①令状の発付を受けずに、本件車両が放置された現場の写真撮影及び本件車両内の証拠品の押収等を行った。

(引用終わり)

(参考答案より引用)

第1.設問1(1)

1.現場の写真撮影

 本件車両は放置され、現場は公道上で、管理権、プライバシー等の侵害を伴わない実況見分だからである(刑訴法197条1項本文)。

2.各半券の押収

 本件車両は公道上に放置されており、同車両内の証拠品は占有を放棄された物として遺留物に当たり、領置できる(同法221条)からである。

(引用終わり)

 実務基礎は、「端的に正解を書く。」というスタイルで解答すべきなので、強制処分の意義を示して、事実を摘示して当てはめる、という書き方はしない。これは、他の科目との大きな違いです。
 ちなみに、両者は、各半券の領置が本体で、実況見分はその状況等を明確にするもの、という関係にあります。

(参照条文)犯罪捜査規範110条(遺留物の領置)

 被疑者その他の者の遺留物を領置するに当つては、居住者、管理者その他関係者の立会を得て行うようにしなければならない。
2 前項の領置については、実況見分調書その他によりその物の発見された状況等を明確にした上、領置調書を作成しておかなければならない。

 捜索差押えの場面では、同様の写真撮影を捜索差押えの付随処分ないし必要な処分(刑訴法222条1項本文、111条1項)として根拠付けることが多いのですが、本問の場合、権利制約を伴わない以上、処分としての根拠付けは必要ありません。単に実況見分と性質決定すれば足ります。

3.受験生の中には、既に逮捕状が発付されていて、同時ないし直後に付近でAが逮捕されたことを捉えて、逮捕に伴う無令状の検証・押収として考えた人が結構いたようです。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 丙警察署の司法警察員は、詐欺の被疑事実(その要旨は別紙のとおり)で丙簡易裁判所裁判官にAに対する逮捕状を請求し、同月9日、同裁判官から同事実での逮捕状の発付を受けた。
 Aは、同月10日午後5時頃、本件車両を運転中、乙市内の公道上でガードレールに衝突する事故を起こした。その際、Aは、運転席側窓ガラスに頭をぶつけて負傷し、本件車両を放置してその場から逃げ去った。当該事故の目撃者Wが警察に110番通報し、司法警察員Kらが臨場した。Kらは、当該事故車両のナンバーから、詐欺の被害届が出されている本件車両であると把握し、①令状の発付を受けずに、本件車両が放置された現場の写真撮影及び本件車両内の証拠品の押収等を行った。その結果、本件車両内から、同月3日午前10時乙市発丙島行き及び同月4日午後7時丙島発乙市行きの本件フェリーの乗客用チケットの各半券並びに同月4日午後7時丙島発乙市行きの本件フェリーの車両用チケットの半券を押収したほか、運転席側窓ガラスに付着した血痕を採取した。同時に、Kらは、目撃者Wから聴取した運転者の逃走方向へ向かったところ、頭部から出血しているAを現場付近で発見した。Kらは、人定事項を確認の上、同月10日、Aを詐欺罪により通常逮捕した。

(引用終わり)

 しかしながら、これは2つの点で、不適切だといわざるを得ないでしょう。

(1)まず、1つ目は、写真撮影及び押収を、強制処分として捉えている点です(※1)。上記2で説明したとおり、本問では、地の文で「逃げ去った」と明記されているので、「救助を呼びに行っているだけで戻って来るつもりかもしれず、本件車両の管理権はいまだAにある。」とするような認定はできません。なので、たとえ時間的・場所的接着性があったとしても、本件車両の管理権がAにあるとするのは難しい(※2)。任意処分として根拠付けられるものを、無理に強制処分として構成しようとしている点で、不適切といわざるを得ないのです。
 ※1 領置も不返還の点で強制処分とされます(だから「押収」に分類される。)が、ここでは占有取得過程の強制性を指して「強制処分」と表記しています。なお、この点については、以前の記事(「強制処分該当性の書き方(令和5年司法試験刑事系第2問)」)で詳しく説明しました。
 ※2 このことは、合理説・相当説に立って、本件車両内を同一管理権下にあるものとして「逮捕の現場」(刑訴法220条1項2号)に当たるとすることが困難であることをも意味します。

(2)もう1つは、Aが逃げ去っていて、戻って来ることが期待できない状況であるにもかかわらず、強引に「逮捕する場合」に当たるとしてしまっている点です。確かに、判例には、「逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わない」と明言するものがあります。

(最大判昭36・6・7より引用。太字強調は筆者。)

 憲法35条は、同33条の場合には令状によることなくして捜索、押収をすることができるものとしているところ、いわゆる緊急逮捕を認めた刑訴210条の規定が右憲法33条の趣旨に反しないことは、当裁判所の判例(昭和26年(あ)第3953号、同30年12月14日大法廷判決、刑集9巻13号2760頁)とするところである。同35条が右の如く捜索、押収につき令状主義の例外を認めているのは、この場合には、令状によることなくその逮捕に関連して必要な捜索、押収等の強制処分を行なうことを認めても、人権の保障上格別の弊害もなく、且つ、捜査上の便益にも適なうことが考慮されたによるものと解されるのであつて、刑訴220条が被疑者を緊急逮捕する場合において必要があるときは、逮捕の現場で捜索、差押等をすることができるものとし、且つ、これらの処分をするには令状を必要としない旨を規定するのは、緊急逮捕の場合について憲法35条の趣旨を具体的に明確化したものに外ならない。
 もつとも、右刑訴の規定について解明を要するのは、「逮捕する場合において」と「逮捕の現場で」の意義であるが、前者は、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、後者は、場所的同一性を意味するにとどまるものと解するを相当とし、なお、前者の場合は、逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わないものと解すべき

(引用終わり)

 もっとも、上記判例も、被逮捕者が帰って来ることが前提で、帰って来なかった場合は、さすがに違法になるとの前提であると理解されています(※3)。
 ※3 学説は、そもそも被逮捕者が現在しない場合には「逮捕の現場」とはいえないとするのが一般です(吉開多一ほか『基本刑事訴訟法Ⅱ 論点理解編』(日本評論社 2021年)88頁、斎藤司『刑事訴訟法の思考プロセス』(日本評論社 2019年)112頁)。

(最大判昭36・6・7より引用。太字強調は筆者。)

 憲法35条は、同33条の場合には令状によることなくして捜索、押収をすることができるものとしているところ、いわゆる緊急逮捕を認めた刑訴210条の規定が右憲法33条の趣旨に反しないことは、当裁判所の判例(昭和26年(あ)第3953号、同30年12月14日大法廷判決、刑集9巻13号2760頁)とするところである。同35条が右の如く捜索、押収につき令状主義の例外を認めているのは、この場合には、令状によることなくその逮捕に関連して必要な捜索、押収等の強制処分を行なうことを認めても、人権の保障上格別の弊害もなく、且つ、捜査上の便益にも適なうことが考慮されたによるものと解されるのであつて、刑訴220条が被疑者を緊急逮捕する場合において必要があるときは、逮捕の現場で捜索、差押等をすることができるものとし、且つ、これらの処分をするには令状を必要としない旨を規定するのは、緊急逮捕の場合について憲法35条の趣旨を具体的に明確化したものに外ならない。
 もつとも、右刑訴の規定について解明を要するのは、「逮捕する場合において」と「逮捕の現場で」の意義であるが、前者は、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、後者は、場所的同一性を意味するにとどまるものと解するを相当とし、なお、前者の場合は、逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わないものと解すべきであつて、このことは、同条1項1号の規定の趣旨からも窺うことができるのである。従つて、例えば、緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ、被疑者がたまたま他出不在であつても、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押がなされ、且つ、これと時間的に接着して逮捕がなされる限り、その捜索、差押は、なお、緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではない。

 (中略)

 本件捜索、差押の経緯に徴すると、麻薬取締官等4名は、昭和30年10月11日午後8時30分頃路上において職務質問により麻薬を所持していたAを現行犯として逮捕し、同人を連行の上麻薬の入手先である被疑者B宅に同人を緊急逮捕すべく午後9時30分頃赴いたところ、同人が他出中であつたが、帰宅次第逮捕する態勢にあつた麻薬取締官等は、同人宅の捜索を開始し、第一審判決の判示第一の(一)の麻薬の包紙に関係ある雑誌及び同(二)の麻薬を押収し、捜索の殆んど終る頃同人が帰つて来たので、午後9時50分頃同人を適式に緊急逮捕すると共に、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をとり、逮捕状が発せられていることが明らかである。
 してみると、本件は緊急逮捕の場合であり、また、捜索、差押は、緊急逮捕に先行したとはいえ、時間的にはこれに接着し、場所的にも逮捕の現場と同一であるから、逮捕する際に逮捕の現場でなされたものというに妨げなく、右麻薬の捜索、差押は、緊急逮捕する場合の必要の限度内のものと認められるのであるから、右いずれの点からみても、違憲違法とする理由はないものといわなければならない。

(引用終わり)

 上記判例に付された横田喜三郎意見も、その点を批判していたのでした。

(上記最大判昭36・6・7における横田喜三郎意見より引用。太字強調は筆者。)

 刑事訴訟法第220条1項は、「被疑者を逮捕する場合において」、「逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること」ができるとしている。「被疑者を逮捕する場合において」といい、「逮捕の現場で」というのは、被疑者が現場にいて、逮捕と同時に捜索や差押を行なうか、すくなくとも逮捕の直前または直後に捜索や差押を行なうことを意味する。被疑者が不在であつて、逮捕ができない場合は、「被疑者を逮捕する場合」とはいえず、まして「逮捕の現場」とはいえない。そのような場合には、第218条にしたがつて、裁判官の令状を求め、それによつて捜索や差押を行なうべきで、令状なくしてこれらのことを行なうことはできない。
 本件の捜索と差押を見るに、麻薬取締官は、被疑者を緊急逮捕する目的で、午後9時30分頃に、被疑者の宅に着いた。被疑者は不在であつたが、ただちに捜索を開始し、麻薬を発見して、これを押収した。そこへ、被疑者が帰つてきたので、これを緊急逮捕した。それは午後9時50分頃であつた。そのさいに、麻薬取締官は、逮捕の令状も、捜索と差押の令状ももつていなかつた。そうしてみると、麻薬取締官は、被疑者を逮捕する場合とか、逮捕の現場とかいえないのに、捜索と差押の令状をもたないで、これらのことを行なつたものである。したがつて、それは刑事訴訟法第220条に違反し、さらに根本的には、憲法第35条に違反する。
 これに対して、多数意見では、被疑者が午後9時50分頃に帰宅し、これを逮捕したから、捜索差押と逮捕は、同じ場所で行なわれ、時間的にも接着しているから、被疑者を逮捕する場合に逮捕の現場で捜索差押を行なつたものであり、憲法と刑事訴訟法に違反しないとする。しかし、捜索と差押は、被疑者が不在であつて、その行き先きも帰宅の時間もわからないときに開始され、実行され、完了されたのであつて、被疑者を逮捕する場合に行なつたものとはいえない。被疑者が間もなく帰宅し、これを逮捕したことは、予期しない偶然の事実にすぎない。もし被疑者の帰宅がおくれるか、帰宅しなかつたならば、時間的と場所的の接着がなく、捜索差押を弁護することは、まつたく不可能であつたろう。同じ捜索差押の行為でありながら、被疑者が間もなく帰宅したという偶然の事実が起これば、適法なものになり、そうした事実が起こらなければ、違法なものになるというのは、あきらかに不合理である。ある捜索差押の行為が適法であるかいなかは、その行為そのものによつて判断すべきで、その後に起こつた偶然の事実によつて左右されるべきではない。
 これによつて見れば、本件の捜索差押は、刑事訴訟法第220条に違反し、さらに根本的には、憲法第35条に違反するといわなければならない。正当な理由と手続によらなければ、何人も逮捕されず、捜索差押も受けないことは、重要な基本的人権であつて、新憲法が強く保障することに照らして見れば、本件のような捜索差押は、適法なものと認めることができない。 。

(引用終わり)

 本問では、Aは本件車両から逃げ去っていて、戻って来ることが期待できない状況なのですから、上記判例を前提にしても、「逮捕する場合」というのは困難です。この点を無視して、簡単に「逮捕する場合」に当たるとしてしまうのは、不適切といわざるを得ません。

(3)逮捕に伴う無令状検証・押収として書いた答案が評価されるためには、「同時に」、「現場付近」という問題文の事情を最大限に考慮して、いまだAに本件車両に対する管理権が残存しており、かつ、上記最大判昭36・6・7の趣旨が及ぶ旨を論じる必要があるでしょう(※4)。そこまで書けば、ギリギリ評価されるかもしれません。しかし、本問でそんな文字数を投下するのはナンセンスでしょう。そんなことをするくらいなら、設問2(2)で頑張るべきです(「刑事実務基礎の大局観(令和6年予備試験刑事実務基礎)」)。
 ※4 実務基礎は例年出来が悪く、かつ、民事・刑事の総合で成績評価が出るため、設問1(1)で適切な解答のない答案でも、普通にA評価だったり、総合で超上位になったりすることもあるでしょう。しかし、だからそれで正解だ、ということにはなりません。

3.ここで、無理やり逮捕に伴う無令状検証・押収として考えた人のほとんどは、任意捜査との比較の視点が欠けていたことでしょう。仮に、任意捜査で普通にいけそうだ、という判断ができれば、無理して頑張ろうなんて思わない。それなのに、任意捜査のスジが思い浮かばないのは、答案構成の際に、最初に目に付いた法律構成で簡単に決め打ちするクセが付いてしまっているからです。いくつかの法律構成を比較して、どれが一番無難かを考える、という思考が身についていない。「あっ逮捕しているから逮捕に伴うやつじゃね?よっしそれで決め打ちや!」となってしまうから、無理な構成で突っ走ってしまうわけですね。そのような人は、本問に限らず、他の科目でも、平気で無理筋の法律構成を採用し、評価を落とします。結果として、とても「受かりにくい人」になる。今回、逮捕に伴う無令状検証・押収で書いてしまった人は、その点を自覚し、普段の演習の際に、「考えられる構成を複数検討して、無難なものを選択する。」という思考のクセを身につけるべきでしょう。

戻る