「和解契約の法律効果」の意味
(令和6年予備試験民事実務基礎)

1.令和6年予備試験民事実務基礎設問3(1)。②については、問題文に、「和解契約の法律効果について触れた上で」と書いてあります。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問3〕

 第1回弁論準備手続期日において、原告準備書面及び被告準備書面が陳述され、弁護士Pは、次回期日である第2回弁論準備手続期日までに準備書面を作成することとなった。
 その後、弁護士Pは、Xから更に別紙1【Xからの聴取内容】のとおりの事情を聴取した。
 これを前提に、以下の各問いに答えなさい。

(1) 弁護士Pは、別紙1【Xからの聴取内容】を前提に、被告準備書面の再々抗弁に対し、再々々抗弁として、以下の各事実を主張することにした。

 (あ) Xが、Aに対し、令和5年3月23日、代金200万円とした本件商品の代金額につき、50万円とするよう申し入れ、XとAとの間で上記代金額につき争いがあった。
 (い) XとAは、上記(あ)につき互いに譲歩し、令和5年4月10日、本件商品の売買代金債権総額を100万円に減額する旨の和解をした。
 (う) 〔     〕

 ①上記〔   〕に入る具体的事実を記載するとともに、②上記(あ)及び(い)の事実に加えて、上記(う)の事実を主張すべきと考えた理由につき、和解契約の法律効果について触れた上で、簡潔に説明しなさい。

(引用終わり)

 「和解契約の法律効果」とは、何を意味するか。「簡単じゃん。和解の確定効で代金額が100万円になったってことでしょ。」と思った人もいたことでしょう。直感的にはまぁそれで間違ってるとまではいえませんが、的確な表現ではありません。例えば、以下のような解答は、不適切です。

【論述例】

 本件和解の確定効(696条)によって、本件商品の代金債務の額は100万円に確定する。この100万円を弁済した旨の主張として、(う)の事実を主張すべきである。

 何がダメなのか。仮に、本件和解の法律効果として、代金債務の額が100万円に確定したとすれば、どうなるか。時系列を確認してみましょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

【Xからの聴取内容】

 「Yが主張するとおり、私は、Aから、令和4年11月9日、本件商品を代金200万円で購入し、代金のうち100万円をその日に支払いました。しかし、私は、本件商品を製造から50年以上が経過したアンティーク商品だと思って200万円で購入したのですが、令和5年3月20日頃、製造年代がAの説明とは異なっており、実際には50万円程度の価値しかないことを知ったのです。そのため、私は、Aにだまされたと思い、同月23日、Aに本件商品の代金額を50万円にするよう申し入れました。これに対し、Aは当初、本件商品の代金額は200万円が相当だと言っていましたが、その後、話し合った結果、同年4月10日、Aとの間で、「本件商品の売買代金債権総額を100万円に減額する」との内容で和解しています(以下「本件和解」という。)。その後、Aは、令和6年3月20日になって、本件商品の未払代金が残っていることを前提に本件延滞賃料と相殺する旨を伝えてきたのですが、上記のとおり既に本件和解が成立している以上、相殺には理由がありません。
……(略)……。」

(引用終わり)

 100万円を支払って、代金債務の残額が100万円となった後に、本件和解がされている。仮に、「本件和解の確定効(696条)によって、本件商品の代金債務の額は100万円に確定する。」というのであれば、それは、「200万円の債務のうちの100万円が弁済されて、残額が100万円になったことを確認する。」という意味しかないことになってしまいます。考査委員からしてみれば、「だから注意しろって問題文に書いてんじゃん!」と言いたくなるところでしょう。

2.本件和解のような既発生債権・債務の不存在確認ないし縮減を内容とする和解契約については、(一部)消滅の抗弁となる場合のあることが知られています(※1)。消滅の抗弁とした裁判例を挙げておきましょう。
 ※1 本問の場合、消滅するのは自働債権で、その結果、相殺の法的効果が障害されることになるので、障害の再々々抗弁となります。

(東京地判平3・11・14より引用。太字強調は当サイトによる。)

 絵画の売買の仲介等を業とする被告は、平成元年2月初旬頃、本件絵画の所有者である訴外Z1の知り合いで絵画の売買等を業とする訴外Z2から本件絵画の買主を見付けてこれを売却することの依頼を受け、同月27日頃、画廊を経営する訴外Z3の紹介を受けた原告に対して、本件絵画を2億数千万円で売却してほしいとしてこの話を持ち込んだこと、これに対して、原告は、早期に買主を見つけることができる見通しがあるとして、同年3月7日頃、訴外Z1にあてて本件絵画の「買付依頼書」を作成して交付したこと、ところが、訴外Z1は、同月下旬頃、本件絵画をヨーロッパで売却することにしたなどとして、訴外Z2及び被告に対して先にした売却の依頼を撤回し、また、原告も、直ちには買主を見付けることができないとしたため、訴外Z2、被告、訴外Z3及び原告の間においては、それ以上の進展をみないままとなっていたこと、しかし、原告は、実際には、この間の同月30日、被告らには告げることなく、訴外会社との間において本件絵画を代金2億8000万円で売り渡す旨の契約を締結し、また、同年4月19日、訴外Z1から本件絵画を代金2億6000万円で買い受ける旨の契約を締結していたこと、被告は、同年6月3日、右のような事情を知らずに、たまたま原告から本件手形の割引依頼を受けたが、その際、初めて右の事実を知るに及んで、原告と訴外Z1が謀ったうえで、被告らを除外して本件絵画についての前記の取引を行って、それぞれが利を図ったものであると判断し、既に被告が訴外Z1との間において代金2億3000万円で売買契約を締結していたものであるなどと主張して、原告に対して転売利益の分配又は訴外Z2及び同Z3に支払うべき仲介料等の支払いを求めるようになったこと、このような状況の下において、被告と原告(その従業員訴外鈴木)は、同月7日、被告が本件手形の割引金のうち5500万円を原告に支払い、残余は被告、訴外Z2又は同Z3において取得するものとすることで一切の債権債務を清算することとして、「本件絵画の売買については、当初に戻り全て終結し、双方異議の申し立ては一切ありません。」との記載のある「和解書」と題する書面に調印したことの各事実を認めることができる。
 右事実によれば、原告と被告は、本件絵画の取引及び本件手形の割引をめぐる紛議については右の合意をもって一切を解決して、その争いを止めることを約することによって和解契約を締結したものということができる。したがって、原、被告間の本件手形の割引依頼をめぐる債権債務は、前記の5500万円の授受をもって一切が消滅したものというべきであるから、仮に原告が不法行為又は不当利得その他の原因によって被告に対してなんらかの債権を取得することがあったとしても、いずれも右和解契約によって消滅したものであって、被告の抗弁は理由がある。

(引用終わり)

 条文でいえば、696条の「相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によって……(略)……消滅したものとする。」とする文言に対応します。

(参照条文)民法696条(和解の効力)

 当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。

 実体法的にみると、「相手方がこれを有していた旨の確証が得られたとき」とはいえない(※2)のですが、要件事実的にみると、再々抗弁で売買契約成立が主張・立証され、200万円の額の代金債権の発生が認められた、すなわち、「相手方がこれを有していた旨の確証が得られたとき」に、他の消滅原因の主張に代えて、和解契約を消滅原因として主張・立証するという構造になるわけです。したがって、ここでいう和解契約の法律効果とは、「相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によって……(略)……消滅したものとする。」という文言に対応する効果、すなわち、権利変動効である、と解答すべきだったのでした(※3)。
 ※2 実体法的な説明では、「和解の後に新たな確証が見つかった場合」という表現が用いられるのが通例です(「場合において~確証が得られた」の文言も、これに符合します。)。和解前に確証が見つかっていたら、そもそも和解なんてするわけないからですね。その意味でいうと、本問で再々抗弁として主張された売買契約の存在は、本件和解の時点で既に明らかな事実ですから、「確証」とはいえないはずです。ちなみに、本問では、本件商品の価値について争いがあるわけですが、代金債権の額は目的物の真の価値ではなく、契約において約定された代金額で決まることには、注意が必要です。
 ※3 要件事実的には、売買契約成立の立証に係る売買契約書が本件和解の前に判明していたのか、本件和解の後になって判明したのか、ということは、どうでもよいことです。要は、和解契約の内容に沿った権利関係になるように、権利の発生・消滅の効果を認めればよい。「辻褄合わせ」(平野裕之『債権各論I[第2版]』(日本評論社 2024年)573頁)と表現される所以です。

3.こうして、権利消滅原因として本件和解を捉えると、弁済によって100万円、本件和解によって100万円がそれぞれ消滅し、一部抗弁を構成するところ、両者合わせて初めて相殺の法的効果を全部障害することができることになる。これを合体抗弁というのでした。これが、(う)の事実、すなわち、弁済を主張すべき理由です。
 以上を端的な表現でまとめると、当サイトの参考答案のようになります。

(参考答案より引用)

 (あ)(い)は、和解契約の権利変動効(696条)によって、再々抗弁(ア)の売買契約を発生原因とする代金債権200万円のうち100万円が消滅した旨の主張となるが、残額100万円があるから、同部分に関し、(う)の弁済の抗弁があって初めて、自働債権全体が消滅し、相殺の法的効果の発生の全部を障害する再々々抗弁として意味を持つ(合体抗弁)からである。

(引用終わり)

4.設問3(1)のうち、②はなかなか難易度が高く、そもそも要件事実の考え方に沿った解答に全然なっていないレベルの答案が多そうなので、上記のように正解を書かなくても、それっぽいことを書いていれば、善意解釈されて相応の評価がされることでしょう。もっとも、要件事実問題に対する予備試験受験生のレベルは年々高まってきているので、「今年大丈夫だったから、来年もきっと大丈夫」とはいえない。一度出題されたものについては、正解できるようになっておくべきでしょう。

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