要件事実で法的評価を書かない
(令和6年予備試験民事実務基礎)

1.令和6年予備試験民事実務基礎設問1(4)。訴訟物が物権請求であると分かっていれば(「訴訟物選択に注意(令和6年予備試験民事実務基礎)」)、占有権原(転借権)の抗弁を解答すべきことが明らかです。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問1〕

 別紙1【Xの相談内容】は、弁護士PがXから受けた相談内容を記載したものである。弁護士Pは、令和6年7月5日、別紙1【Xの相談内容】を前提に、Xの訴訟代理人として、Yに対し、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することとし、本件訴訟における訴状(以下「本件訴状」という。)を作成し、裁判所に提出した。
 これに対し、弁護士Qは、本件訴状の送達を受けたY(代表取締役A)から別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】のとおり相談を受け、Yの訴訟代理人として本件訴訟を追行することにした。
 以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。

 (中略)

(4) 弁護士Qは、別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】(a)を前提に、本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。弁護士Qが本件答弁書において抗弁として記載すべき具体的事実を記載しなさい。

 (中略)

【Y(代表取締役A)の相談内容】

 「(a)Xは、令和2年7月1日、私(A)に対し、店舗用建物を所有する目的で、本件土地を賃料月額10万円、毎月末日に翌月分払い、期間30年間の約束で賃貸して(本件賃貸借契約)、これに基づいて本件土地を引き渡しました。その後、私(A)は、令和2年8月に本件土地上に本件建物を建て、同所で腕時計販売店を経営していましたが、令和5年3月17日、本件建物の所有権を現物出資して、時計等の販売を目的とする当社(Y)を設立するとともに、同日、当社(Y)に対し、賃貸期間の定めなく、賃料月額10万円で本件土地を賃貸し(本件転貸借契約)、これに基づいて本件土地を引き渡しました。……(略)……。
 ……(略)……。」

(引用終わり)

 占有権原の抗弁については、通常の賃借権を占有権原とする場合が基礎知識で、これは覚えておかなければいけません。すなわち、賃貸借契約締結と、基づく引渡しが必要である。覚えていなくても、賃貸借契約締結が必要だ、ということはすぐ分かると思いますが、契約の要素として何を摘示すべきかは、覚えていないと厳しいでしょう。また、基づく引渡しの主張も必要だ、という点も、覚えていないとなかなか思い付かない。だから、このようなものは、覚えておく必要があるのです。
 転借権の場合は応用で、普通はここまで覚えていないのが普通でしょう。それでも、賃貸借が2つ連結するわけだから、原賃貸借についての契約締結・基づく引渡し、転貸借についての契約締結・基づく引渡しでよさそうだ、ということは分かるはず。ここまでは、多くの人がたどり着くでしょうから、合否を分けるでしょう。

(参考答案より引用)

 Xは、令和2年7月1日、Aに対し、本件土地を賃料月額10万円の約定で賃貸した(本件賃貸借契約)。
 Xは、同日、Aに対し、本件賃貸借契約に基づき、本件土地を引き渡した。
 Aは、令和5年3月17日、Yに対し、本件土地を賃料月額10万円の約定で賃貸した(本件転貸借契約)。
 Aは、同日、Yに対し、本件転貸借契約に基づき、本件土地を引き渡した。

(引用終わり)

 参考答案では賃貸期間の定めを摘示していませんが、かつて司法研修所が採用していた貸借型理論によれば賃貸期間も賃貸借の要素となるので、賃貸期間の定めを摘示すべきことになります(※1)。したがって、賃貸期間の定めを摘示したとしても、減点されたりすることはないでしょう。他方で、賃貸借の目的や賃料の支払時期の定めは賃貸借契約の要素とされていないので、「店舗用建物所有目的で」とか、「毎月末日に翌月分払いの約定で」などと摘示してしまえば、減点されてもやむを得ないと思います。
 ※1 現在では、賃貸期間を要素としない説を説明した上で、「いわゆる貸借型理論」として紹介する位置付けとされています(司法研修所編『4訂紛争類型別の要件事実-民事訴訟における攻撃防御の構造-』(法曹会 2023年)102頁)。

2.加えて、前回の記事(「訴訟物選択に注意(令和6年予備試験民事実務基礎)」)でも説明したとおり、承諾のない転借権は占有権原とはなりません。

(参照条文)民法612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)

 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

(最判昭26・5・31より引用。太字強調は当サイトによる。)

 原審の確定した事実によれば、「本件係争家屋は、もと訴外仏国人Dがその所有者訴外Fから賃借していたものであり、昭和21年秋Dの帰国に際し、上告人において同人からその賃借権の譲渡を受けたのであるが、この賃借権の譲渡については賃貸人であるFの承諾を得ていなかったのである。FはDの帰国後上告人が本件家屋に居住しているのをDの女中であつた訴外GからDの留守居であると告げられ、それを信じてDの支払うものとして2、3回Gを通じて賃料を受領したことがあつたが、その後上告人がDの留守居ではなく同人から賃借権を譲受けて右家屋に居住するものであることを覚知するに及んで上告人との間に紛争を起し、その解決をみないうちに本件家屋を被上告人に売渡すに至つたものであり、しかもFは右家屋売却前の賃料相当額の損害金は上告人より取立て得るものと考え、上告人と交渉の結果昭和22年10月30日に至り同年1月分から10月分までの損害金として金1100円を受領したものである」というのである。……(略)……。原審は右認定にかかる事実と、本訴当事者間に争がない「被上告人が昭和22年10月10日訴外Fから本件家屋を買受けその所有権を収得した」との事実及び「上告人が被上告人の右所有権取得前から該家屋を占有している」との事実にもとずき上告人は昭和22年10月10日以前から前所有者F及び被上告人のいずれにも対抗し得べき何等の権原もなく不法に本件家屋を占有するものであると判示したのである。この判旨の正当であることは民法612条1項に「賃借人ハ賃貸人ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ譲渡……スルコトヲ得ス」と規定されていることに徴して明白であり、所論同条2項の法意は賃借人が賃貸人の承諾なくして賃借権を譲渡し又は賃借物を転貸し、よつて第三者をして賃借物の使用又は収益を為さしめた場合には賃貸人は賃借人に対して基本である賃貸借契約までも解除することを得るものとしたに過ぎないのであつて、所論のように賃貸人が同条項により賃貸借契約を解除するまでは賃貸人の承諾を得ずしてなされた賃借権の譲渡叉は転貸を有効とする旨を規定したものでないことは多言を要しないところである。

(引用終わり)

 なので、転借権を占有権原として主張する場合には、承諾があることも抗弁事実として主張・立証する必要があるわけです。このことは、要件事実として覚えていなくても、実体法の知識から考えて思い付きたい。
 ところが、本問では、Xの無承諾の主張に対し、Yは承諾があることを主張して争っているわけではありません。これでは抗弁にならないではないか、と思うところ。もっとも、それに代えて、「Xには何も迷惑をかけていません。」と言っています。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

(別紙1)
【Xの相談内容】
 「私は、令和2年7月1日、Aに対し、店舗用建物を所有する目的で、私所有の土地(以下「本件土地」という。)を、賃料月額10万円、毎月末日に翌月分払い、期間30年間の約束で賃貸しました(以下「本件賃貸借契約」という。)。
 ……(略)……Aは、私が承諾していないにもかかわらず、同日、Yに対し、本件土地を賃貸しました(以下「本件転貸借契約」という。)。以後、Yが本件建物を店舗として利用しています。私は、Aに対し、本件転貸借契約について抗議するつもりでしたが、同年5月10日、Aは脳梗塞で倒れて入院してしまい、それ以降、賃料が支払われなくなりました。
 ……(略)……。」

【Y(代表取締役A)の相談内容】

 「(a)……(略)……Xは、令和6年3月31日到達の内容証明郵便で本件賃貸借契約を解除すると伝えてきました。Xは、本件賃貸借契約の解除の理由として、私(A)から当社(Y)への本件土地の無断転貸を挙げていますが、個人で腕時計販売店をしていた私(A)が、全額を出資し、腕時計販売を目的とする当社(Y)を設立して、自ら代表取締役に就任したものであり、当社(Y)には他の役員や従業員はおらず、本件建物は引き続き腕時計販売店として使用し、私(A)一人で営業に当たっていたのですから、Xには何も迷惑をかけていません。Xが本件土地を所有していることや、当社(Y)が本件建物を所有していることは事実ですが、上記の解除の主張は不当であり、当社(Y)はXに本件土地を明け渡す義務はないと思います。
 ……(略)……。」

(引用終わり)

 このことから、「あーなるほど。これを承諾の代わりに摘示すればいいのね。」と気付きたい。そうすれば、覚えていなくても、「承諾に代わる非背信性の評価根拠事実」の抗弁を記載することができます。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

 Xは、令和2年7月1日、Aに対し、本件土地を賃料月額10万円の約定で賃貸した(本件賃貸借契約)。
 Xは、同日、Aに対し、本件賃貸借契約に基づき、本件土地を引き渡した。
 Aは、令和5年3月17日、Yに対し、本件土地を賃料月額10万円の約定で賃貸した(本件転貸借契約)。
 Aは、同日、Yに対し、本件転貸借契約に基づき、本件土地を引き渡した。
 Aは個人で腕時計販売店をしていたが、全額を出資し、腕時計販売を目的とするYを設立して、自ら代表取締役に就任した。
 Yには他の役員や従業員はおらず、本件建物は引き続き腕時計販売店として使用し、A一人で営業に当たっていた。

(引用終わり)

 ここで注意すべきは、「事実だけを記載する。」ということです。要は、問題文にYの言い分として書いてある事実を書き写すだけでよい。「AとYは実質的に同一の主体」とか、「使用形態に実質的な変更がない」、「背信行為と認めるに足りない」のような法的評価を書いてしまってはいけません(※2)。これを書いてしまえば、「証拠調べを要する事実を確定するという要件事実の機能をおよそ理解してないよね。」と評価されて、厳しめの減点を食らってもおかしくないでしょう。普段は、覚えている内容をただ書き写すだけなので、理解していなくても法的評価なんて書かないわけですが、応用部分は考えて書かないといけないので、理解していないと、とんでもない間違いをやらかしてしまう。気を付けましょう。
 ※2 原賃料と転賃料が同額であることは、転貸の非営利性を基礎付けるものとして非背信性の評価根拠事実となり得ないわけではありませんが、これは既に賃貸借契約・転貸借契約の要素として摘示されているので、改めて摘示すべきではありません。

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