証拠法の書き出し
(令和6年予備試験刑訴法)

1.令和6年予備試験刑訴法。以下のような書き出しの答案が、一定数あったのではないかと思います。

【論述例】

 「事実の認定は、証拠による。」(317条 証拠裁判主義)とされた趣旨は、刑罰権の存否及び範囲に関する事実については厳格な証明が必要であるとする点にある。厳格な証明とは、証拠能力のある証拠による適式な証拠調べを経た証明方式をいう。証拠能力が認められるためには、自然的関連性及び法律的関連性が認められ、証拠禁止に当たらないことが必要である。

 上記の論述は、それ自体としては決して誤りではありません。しかし本問では、積極には評価されないでしょう。その理由は、2つあります。

2.1つには、そもそも、上記のような論述が、最近では「予備校丸暗記」として忌避されている、ということがあります。すなわち、「自然的関連性、法律的関連性、証拠禁止を独立の要件と位置付けるのは予備校が勝手に言い出したことであり、間違っている。そんなものを丸暗記するのはけしからん。」というのです(※1)。とりわけ、前科証拠・余罪立証の文脈では、この批判が全面に出て、「自然的関連性、法律的関連性、証拠禁止のうちのどの問題かを截然と区別できず、そのどれにも関連するにもかかわらず、分断して検討するのは予備校丸暗記の弊害だ。嘆かわしい。」などと言われたりするのでした(※2)。自然的関連性、法律的関連性、証拠禁止を独立の要件と位置付ける理解は、伝統的な学説の理解であり、予備校が勝手に言い出したというのは明らかに誤っている(※3)のですが、とにかく、そのように言われている(法科大学院で学生が罵倒されることもあると聞きます。)。当サイトとしては、自然的関連性、法律的関連性、証拠禁止をそれぞれ独立の要件と理解した方が答案を書きやすい(※4)ことから、要件と位置付ける論述にも一定の意義があるとは思っているのですが、こと前科証拠・余罪立証の文脈では、端的に判例の規範を示して当てはめれば足りるので、敢えて批判覚悟で上記のような論述に文字数を費やす必要はなかろうと思います。
 ※1 平野龍一『刑事訴訟法』(有斐閣 1958年)192頁以下に依拠しつつ、「自然的関連性・法律的関連性・証拠禁止という3つの観点を、排他的な要件のようにとらえている答案にしばしば出くわします。」とするものとして、緑大輔『刑事訴訟法入門[第2版]』(日本評論社 2017年)285頁。前掲平野192頁以下に依拠しつつ、「すべて機械的に検討すべき要件ではなく、問題となる証拠の証拠能力について検討するポイントを言語化したものと理解されるのです。」とするものとして、斎藤司『刑事訴訟法の思考プロセス』(日本評論社 2019年)310頁。
 ※2 前掲緑289頁は、前科証拠の説明に続けて、「事案の論点に関係なく一律に『証拠能力を認めるためには、自然的関連性・法律的関連性・証拠禁止を充たす必要があり云々』と論じるのは……(略)……『観点』に過ぎない議論をあたかも証拠能力の『要件』のように扱う点で奇異なものであるように思われます。」とします。
 ※3 前掲平野193頁に依拠しつつ、「証拠の許容性(証拠能力)は、①自然的関連性があり、②法律的関連性もあり、かつ、③証拠禁止にあたらないときに肯定される」と明言するものとして、田口守一『刑事訴訟法[第7版]』(弘文堂 2017年)390頁。渥美東洋『刑事訴訟法(新版)』(有斐閣 1991年)370、371頁も、「自然的関連性の要件」、「自然的関連性を超えて法律上要求する場合……(略)……法律的関連性と呼ぶ。」、「このほかに……(略)……排除法則がある。」と記述していて、要件として位置付けているとしか読めません。白取祐司『刑事訴訟法[第10版]』(日本評論社 2021年)344頁も、前掲平野192、193頁に依拠しつつ、「証拠の許容性の要件」という項目を立てた上で、「証拠能力が制約される理由として、①自然的関連性の欠如、②法律的関連性の欠如、③証拠禁止があげられる」とします。このように、依拠する文献はいずれも前掲平野であるのに、それを単なる観点とみるか、独立した要件とみるかで理解が分かれているのです。一方を予備校丸暗記と決め付けてよい状況ではありません。
 ※4 仮に、それぞれが要件ではなく、観点に過ぎないとするなら、「ある観点からは証拠能力が否定されそうだが、他の観点からは証拠能力が肯定される。」という場面が論理的には存在することになり、いずれかを欠く場合であっても、それだけで証拠能力がないという結論は導けないことになります。しかし、「自然的関連性はないが、法律的関連性や証拠禁止の観点を重視すれば証拠能力が認められる。」なんてことはあるわけないので、そんな論述は無駄である。「じゃあ、どうすればいいの?」ということになって、答案がとても書きにくい、ということですね。要件と位置付ければ、どれかを欠けば直ちに証拠能力がないと結論付けることができ、論理が明快です。そして、最低限の証明力の有無が自然的関連性、違法収集証拠排除法則(自白法則を含める余地もある。)の適用による場合が証拠禁止、それ以外はすべて法律的関連性と位置付ければ、截然と区別することも可能です。その理解によれば、前科証拠や余罪立証は明らかに法律的関連性の問題である。それで何が困るのか、というのが、率直な印象ですね。近時の学説は、法律的関連性という概念自体が怪しげで使いたくない、と思っており(「そもそも法律的関連性という概念自体の有用性に疑問が呈されている」とするものとして、細谷泰暢「判批」刑事訴訟法判例百選〔第11版〕140頁。)、それはそれで理由のあることです(「行政権」の定義における控除説にも同様の批判があったことを想起すると分かりやすいでしょう。)が、答案で書く分には気にしなければ気にならないところです。

3.もう1つの理由は、本問では併合審理中の余罪に係る事実を間接事実として用いることの可否が問われているに過ぎない、という点にあります。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問1〕

 甲及び甲の弁護人は、【事件②】について、甲が犯人であることを否認したとする。その場合、甲が【事件①】の犯人であることを、【事件②】の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用いることができるかについて論じなさい。

〔設問2〕

 甲及び甲の弁護人は、【事件②】について、甲が軽自動車をBに衝突させたことは争わず、金品奪取の目的を否認したとする。その場合、【事件①】で甲が金品奪取の目的を有していたことを、【事件②】で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができるかについて論じなさい。

(引用終わり)

 証拠能力は、証拠採用のための要件ですから、これを欠くときは、証拠請求が却下されます。現に、前科証拠の証拠能力が問題となった葛飾区窃盗放火事件判例では、証拠請求が却下されています。

(葛飾区窃盗放火事件判例より引用。太字強調は筆者。)

1.原判決の認定及び記録によれば,本件訴訟の経過等は,次のとおりである。

(1) 本件各公訴事実は,「被告人は,平成21年9月8日午前6時30分頃から同日午前11時50分頃までの間,金品窃取の目的で,東京都葛飾区(以下省略)B荘C号室D方縁側掃き出し窓のガラスを割り,クレセント錠を解錠して侵入した上,同所において,1 同人所有の現金1000円及びカップ麺1個(時価約100円相当)を窃取し,2 同人ほか1名が現に住居に使用する前記B荘(木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建,延べ床面積115.67㎡)に放火しようと考え,B荘C号室内にあった石油ストーブ内の灯油を同室内のカーペット上に撒布した上,何らかの方法で点火して火を放ち,同室内の床面等に燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用しているB荘C号室の一部を焼損(焼損面積約1.1㎡)した。」という住居侵入,窃盗,現住建造物等放火の事実(以下,それぞれ「本件住居侵入」,「本件窃盗」,「本件放火」という。)及び北海道釧路市内における住居侵入及び窃盗の事実(以下「釧路事件」という。)からなるものである。 

(2) 被告人は,第1審の公判前整理手続において,本件住居侵入及び本件窃盗並びに釧路事件については争わない旨述べたが,本件放火については,何者かが上記B荘C号室に侵入して放火したことは争わないものの,被告人が行ったものではないと主張した。 

(3) 被告人は,平成3年4月7日から平成4年5月10日までの間に15件の窃盗を,同年3月29日から同年6月13日までの間に11件の現住建造物等放火(未遂を含む。以下「前刑放火」という。)を行ったなどの罪により,平成6年4月13日,懲役8月及び懲役15年(前刑放火を全て含む。)に処せられた前科を有する。
 検察官は,公判前整理手続において,被告人は窃盗に及んだが欲するような金品が得られなかったことに立腹して放火に及ぶという前刑放火と同様の動機に基づいて本件放火に及んだものであり,かつ,前刑放火と本件放火はいずれも特殊な手段方法でなされたものであると主張し,この事実を証明するため,上記前科に係る判決書謄本(以下「前刑判決書謄本」という。),上記前科の捜査段階で作成された前刑放火に関する被告人の供述調書謄本15通,本件の捜査段階で作成された前刑放火の動機等に関する被告人の供述調書1通(以下これらを併せて「本件前科証拠」という。),本件放火の現場の状況及びその犯行の特殊性等に関する警察官証人1名の取調べを請求した。
 第1審裁判所は,前刑判決書謄本を情状の立証に限定して採用したものの,本件放火の事実を立証するための証拠として本件前科証拠は全て「関連性なし」として却下し,また,上記警察官証人を「必要性なし」として却下した。
 第1審判決は,被告人が本件放火の犯人であると認定するにはなお合理的な疑問が残るとして,本件住居侵入及び本件窃盗並びに釧路事件についてのみ有罪とした。 

(4) これに対し検察官が控訴した。控訴趣意は,本件前科証拠及び上記警察官証人は,いずれも本件放火の犯罪を立証する証拠として関連性を有し,取調べの必要性があったにもかかわらず,これらを却下した第1審裁判所の措置は訴訟手続の法令違反に該当し,その結果被告人を本件放火の犯人と認定しなかったのは事実誤認に当たるというものである。 
 原判決は,本件前科証拠のうち,前刑判決書謄本の取調べ請求を却下した第1審裁判所の措置,並びに上記前科の捜査段階で作成された被告人の供述調書謄本15通及び本件捜査段階で作成された前刑放火の動機等に関する被告人の供述調書1通について,本件放火との関連性がある部分を特定しないまま,その全てを却下した第1審裁判所の措置には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるとして,第1審判決を破棄し,事件を東京地方裁判所に差し戻した。 

2.原判決の理由の概略は,次のとおりである。 
 前刑放火11件の動機は,いずれも窃盗を試みて欲するような金品が得られなかったことに対する腹立ちを解消することにあり,上記11件のうち10件は,いずれも侵入した居室内において,また残り1件は,侵入しようとした住居に向けて放火したものであり,うち7件は,犯行現場付近にあったストーブ内の灯油を撒布したものである。被告人には,このような放火に至る契機,手段,方法において上記のような特徴的な行動傾向が固着化していたものと認められる。被告人は,本件放火と接着した時間帯に放火場所である居室に侵入して窃盗を行ったことを認めているところ,その窃取した金品が被告人を満足させるものではなかったと思料され,前刑放火と同様の犯行に至る契機があると認められる上,犯行の手段方法も共通しており,いずれも特徴的な類似性があると認められ,被告人が本件放火の犯人であることを証明する証拠として関連性がある。したがって,本件前科証拠のうち,これらの点に関するもの,すなわち前刑判決書謄本並びに上記前科の捜査段階で作成された被告人の供述調書謄本15通及び本件の捜査段階で作成された前刑放火の動機等に関する被告人の供述調書1通のうち本件放火と特徴的な類似性のある犯行に至る契機,犯行の手段方法に関する部分はいずれも関連性が認められ,証拠として採用すべきであったものというべきであり,上記各供述調書について関連性が認められる部分を特定できるような審理を行わずに本件前科証拠を全て却下した第1審裁判所の措置は違法である。そして,被告人が,本件放火と接着した時間帯に放火場所である居室に侵入して窃盗を行ったことが認められる本件では,上記の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反に当たる。

3.しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 前科も一つの事実であり,前科証拠は,一般的には犯罪事実について,様々な面で証拠としての価値(自然的関連性)を有している。反面,前科,特に同種前科については,被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく,そのために事実認定を誤らせるおそれがあり,また,これを回避し,同種前科の証明力を合理的な推論の範囲に限定するため,当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じるなど,その取調べに付随して争点が拡散するおそれもある。したがって,前科証拠は,単に証拠としての価値があるかどうか,言い換えれば自然的関連性があるかどうかのみによって証拠能力の有無が決せられるものではなく,前科証拠によって証明しようとする事実について,実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許されると解するべきである。本件のように,前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合についていうならば,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって,初めて証拠として採用できるものというべきである。

 (中略)

(2) 上記のとおり,被告人は,本件放火に近接した時点に,その現場で窃盗に及び,十分な金品を得るに至らなかったという点において,前刑放火の際と類似した状況にあり,また,放火の態様にも類似性はあるが,本件前科証拠を本件放火の犯人が被告人であることの立証に用いることは,帰するところ,前刑放火の事実から被告人に対して放火を行う犯罪性向があるという人格的評価を加え,これをもとに被告人が本件放火に及んだという合理性に乏しい推論をすることに等しく,このような立証は許されないものというほかはない。
 したがって,本件放火の犯罪事実を立証するための本件前科証拠の取調べ請求を全て却下した第1審裁判所の措置は正当であり,これについて判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反に当たるとした原判断には刑訴法379条の解釈適用を誤った違法がある。この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであり,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 

(引用終わり)

 これに対し、併合審理中の余罪に係る事実については、必ずしも、その事実の有無を審理・判断しない、という帰結に至るわけではありません。本問でいえば、事件①も併合審理されている以上、事件①の犯人が甲であるか否か、甲が金品奪取目的を有しているか否かについて、審理・判断しないことはあり得ないでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

3 同日以降、【事件①】の犯行に使用された車のナンバーに合致する軽自動車の名義人であった甲に対する捜査が開始され、所要の捜査の結果、甲は、【事件①】については強盗罪、【事件②】については強盗未遂罪により起訴された。

4 公判において、甲及び甲の弁護人は、【事件①】については争わず、金品を奪取する目的でAに軽自動車を衝突させたことなどを認め、裁判所は、証拠調べの結果、【事件①】について、甲に強盗罪が成立するとの心証を得た。

〔設問1〕

 甲及び甲の弁護人は、【事件②】について、甲が犯人であることを否認したとする。その場合、甲が【事件①】の犯人であることを、【事件②】の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用いることができるかについて論じなさい。

〔設問2〕

 甲及び甲の弁護人は、【事件②】について、甲が軽自動車をBに衝突させたことは争わず、金品奪取の目的を否認したとする。その場合、【事件①】で甲が金品奪取の目的を有していたことを、【事件②】で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができるかについて論じなさい。

(引用終わり)

 したがって、そこで問われているのは、「事件①の犯人が甲であることを基礎付ける証拠の証拠能力」や、「甲が金品奪取目的を有していることを基礎付ける証拠の証拠能力」ではなく、「事件①の犯人が甲であること」や「甲が金品奪取目的を有していること」が認定された場合に、それらの事実を間接事実として、「事件②の犯人が甲であること」や「事件②で甲が金品奪取目的を有していたこと」を推認することが適法か、という点だ、ということになるわけですね。現に、併合審理中の余罪に係る事実からの推認の可否が問題となった女性用物窃盗放火事件判例では、間接事実としたことが違法とされています。証拠能力がないから証拠請求を却下する、などとはしていないことに注意が必要です。

(女性用物窃盗放火事件判例より引用。太字強調及び※注は筆者。)

1.原判決は,事実誤認の控訴趣意を排斥するに当たり,被告人の前科(昭和47年9月から同48年9月までの間の窃盗13件,同未遂1件,現住建造物等放火1件,同未遂2件等の罪により懲役6年に処せられた前科及び平成2年3月から同年12月までの間の住居侵入,窃盗10件,住居侵入,窃盗,現住建造物等放火2件,住居侵入未遂1件の罪により懲役9年に処せられた前科)に係る犯罪事実並びに被告人が自認している第1審判決判示第1ないし第9及び第19の住居侵入,窃盗の各事実等から,被告人には,ア 住居侵入,窃盗の動機について,いわゆる色情盗という特殊な性癖が,イ 住居侵入,窃盗の手口及び態様について,①侵入先を決めるに当たって下見をするなど何らかの方法により女性の居住者がいるという情報を得る,②主な目的は女性用の物を入手することにあり,それ以外の金品を盗むことは付随的な目的である,③家人の留守中に窓ガラスを割るなどして侵入するという特徴が,ウ 現住建造物等放火について,女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する独特の複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりするという極めて特異な犯罪傾向がそれぞれ認められるとした。そして,上記アないしウの特徴等が,第1審判決判示第10ないし第15,第18及び第20の住居侵入,窃盗又は同未遂,現住建造物等放火の各事実に一致するとし,このことが上記各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとなるとした。

2.しかし,上記原判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合は,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,その特徴が証明の対象である犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって,初めて証拠として採用できるところ(最高裁平成23年(あ)第670号同24年9月7日第二小法廷判決・裁判所時報第1563号6頁(※注:上記葛飾区窃盗放火事件判例を指す。)参照),このことは,前科以外の被告人の他の犯罪事実の証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合にも同様に当てはまると解すべきである。そうすると,前科に係る犯罪事実や被告人の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることは,これらの犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,その特徴が証明対象の犯罪事実と相当程度類似していない限りは,被告人に対してこれらの犯罪事実と同種の犯罪を行う犯罪性向があるという実証的根拠に乏しい人格評価を加え,これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることに等しく,許されないというべきである。

(2) これを本件についてみるに,原判決指摘アの色情盗という性癖はさほど特殊なものとはいえないし,同イの,あらかじめ下見をするなどして侵入先の情報を得る,女性用の物の入手を主な目的とする,留守宅に窓ガラスを割るなどして侵入するという手口及び態様も,同様にさほど特殊なものではなく,これらは,単独ではもちろん,総合しても顕著な特徴とはいえないから,犯人が被告人であることの間接事実とすることは許されないというべきである。また,原判決指摘ウの「特異な犯罪傾向」については,原判決のいう「女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりする」という行動傾向は,前科に係る犯罪事実等に照らしても曖昧なものであり,「特異な犯罪傾向」ということは困難である上,そもそも,このような犯罪性向を犯人が被告人であることの間接事実とすることは,被告人に対して実証的根拠の乏しい人格的評価を加え,これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることにほかならず(前掲最高裁平成24年9月7日判決参照),許されないというべきである。 

(3) したがって,原判決が,上記前科に係る犯罪事実並びに第1審判決判示第1ないし第9及び第19の各事実にみられる上記アないしウの特徴が第1審判決判示第10ないし第15,第18及び第20の各事実に一致することを上記各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとしたことは違法であり,原判決には法令違反がある。

(引用終わり)

 したがって、答案でも、端的に判例の規範を示して間接事実とすることの可否を論じれば足り、証拠能力一般の要件を示す必要はありません。とりわけ、「間接事実とするには証拠能力が必要である。」などと書いてしまえば、「証拠能力の意味分かってないよね。」ということで、積極ミスとして減点されても仕方がないでしょう。ちなみに、「間接事実も証拠と同様の機能を有するから、ある事実を推認させる間接事実とするには証拠と同様に関連性が必要である。」と言われることがありますが、関連性は推認過程一般に要求されることだから、間接事実からの推認にも当然要求されるというだけの話です。「間接事実にも証拠能力が必要である。」という意味ではありません。間接事実にも証拠能力一般の要件が必要であるかのように答案に書いた場合、関連性についてはまあ妥当するとしても、証拠禁止については無意味な論述を含むことになります(※5)。その意味でも、不適切な論述といわざるを得ないでしょう。
 ※5 違法収集証拠を間接証拠として間接事実を認定しようとする場面に証拠禁止が妥当するとしても、その間接事実を推認させる間接証拠の証拠能力が否定され、結果として間接事実を認定できなくなるだけです。「間接事実の証拠能力」として要求されるわけではありません。

 また、「間接事実の立証にも厳格な証明を要するか。」という論点は問題になりません。これは間接事実の認定について証拠能力のある証拠を要するか(例えば、伝聞例外に当たらない伝聞証拠を間接証拠として間接事実を認定できるか。)という話であって、既に認定された事実を間接事実となし得るか、という問題とは全然関係がないからです。

4.以上のことを理解すれば、書き出しは、端的に判例の規範を書くべきだ、ということになる。併合審理中の余罪については、前科証拠に関する判例法理を準用する形で展開されているので、その手順で書く。具体的には、当サイト作成の参考答案(その1)のような感じです。

(参考答案(その1)より引用)

1.前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いるためには、前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであることを要する(葛飾区窃盗放火事件判例参照)。上記は、余罪にも当てはまる(女性用物窃盗放火事件判例参照)。

(引用終わり)

 予備校答練等で上記のように書くと、「唐突です。」と指摘されたりしますが、気にしない。その指摘を気にして、延々と問題提起のようなことを書きはじめ、時間をロスする方がマイナスです。より整理して丁寧に書くとしても、参考答案(その2)くらいでしょう。

(参考答案(その2)より引用)

1.事件①は、事件②の同種余罪である。同種余罪にも前科証拠に関する判例法理は適用されるか。

(1)前科証拠に関する判例法理

 前科も1つの事実であり、前科証拠は、一般的には犯罪事実について、様々な面で証拠としての価値(自然的関連性)を有しているが、前科、特に同種前科については、被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価に繋がりやすく、そのために事実認定を誤らせるおそれがあり、また、これを回避し、同種前科の証明力を合理的な推論の範囲に限定するため、当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じるなど、争点が拡散するおそれもあるから、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許される。
 したがって、前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いるためには、前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであることを要する(葛飾区窃盗放火事件判例参照)。

(2)同種余罪への適用

 余罪についても、被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価に繋がりやすく、争点拡散のおそれがあることは前科証拠の場合と同様であるから、前科証拠に関する判例法理は、同種余罪に係る事実を間接事実とする場合にも当てはまる(女性用物窃盗放火事件判例参照)。

(引用終わり)

5.かつての旧司法試験時代には、「証拠法は、すべて317条に遡って証拠能力の要件を示したかどうかで評価が大きく分かれる。」などと言われていました。それは、基本重視の若手優遇策(「令和5年司法試験の結果について(13)」)と結び付いていました。当時としては、それで正しかったのです。しかし現在では、そのような抽象論は、書いても点数にならないことが知られています。現在では、317条から証拠能力の要件を示す書き方は、ポリグラフ検査のように、自然的関連性、法律的関連性、証拠禁止のそれぞれについて別個独立に検討すべき場合くらいしか有効とはいえないでしょう。答案の書き方は、時代によって変化するものなのです。

戻る