令和6年予備試験刑訴法の参考判例等

(葛飾区窃盗放火事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)

1.原判決の認定及び記録によれば,本件訴訟の経過等は,次のとおりである。

 (1) 本件各公訴事実は,「被告人は,平成21年9月8日午前6時30分頃から同日午前11時50分頃までの間,金品窃取の目的で,東京都葛飾区(以下省略)B荘C号室D方縁側掃き出し窓のガラスを割り,クレセント錠を解錠して侵入した上,同所において,1 同人所有の現金1000円及びカップ麺1個(時価約100円相当)を窃取し,2 同人ほか1名が現に住居に使用する前記B荘(木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建,延べ床面積115.67㎡)に放火しようと考え,B荘C号室内にあった石油ストーブ内の灯油を同室内のカーペット上に撒布した上,何らかの方法で点火して火を放ち,同室内の床面等に燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用しているB荘C号室の一部を焼損(焼損面積約1.1㎡)した。」という住居侵入,窃盗,現住建造物等放火の事実(以下,それぞれ「本件住居侵入」,「本件窃盗」,「本件放火」という。)及び北海道釧路市内における住居侵入及び窃盗の事実(以下「釧路事件」という。)からなるものである。 

(2) 被告人は,第1審の公判前整理手続において,本件住居侵入及び本件窃盗並びに釧路事件については争わない旨述べたが,本件放火については,何者かが上記B荘C号室に侵入して放火したことは争わないものの,被告人が行ったものではないと主張した。 

(3) 被告人は,平成3年4月7日から平成4年5月10日までの間に15件の窃盗を,同年3月29日から同年6月13日までの間に11件の現住建造物等放火(未遂を含む。以下「前刑放火」という。)を行ったなどの罪により,平成6年4月13日,懲役8月及び懲役15年(前刑放火を全て含む。)に処せられた前科を有する。
 検察官は,公判前整理手続において,被告人は窃盗に及んだが欲するような金品が得られなかったことに立腹して放火に及ぶという前刑放火と同様の動機に基づいて本件放火に及んだものであり,かつ,前刑放火と本件放火はいずれも特殊な手段方法でなされたものであると主張し,この事実を証明するため,上記前科に係る判決書謄本(以下「前刑判決書謄本」という。),上記前科の捜査段階で作成された前刑放火に関する被告人の供述調書謄本15通,本件の捜査段階で作成された前刑放火の動機等に関する被告人の供述調書1通(以下これらを併せて「本件前科証拠」という。),本件放火の現場の状況及びその犯行の特殊性等に関する警察官証人1名の取調べを請求した。
 第1審裁判所は,前刑判決書謄本を情状の立証に限定して採用したものの,本件放火の事実を立証するための証拠として本件前科証拠は全て「関連性なし」として却下し,また,上記警察官証人を「必要性なし」として却下した。
 第1審判決は,被告人が本件放火の犯人であると認定するにはなお合理的な疑問が残るとして,本件住居侵入及び本件窃盗並びに釧路事件についてのみ有罪とした。 

(4) これに対し検察官が控訴した。控訴趣意は,本件前科証拠及び上記警察官証人は,いずれも本件放火の犯罪を立証する証拠として関連性を有し,取調べの必要性があったにもかかわらず,これらを却下した第1審裁判所の措置は訴訟手続の法令違反に該当し,その結果被告人を本件放火の犯人と認定しなかったのは事実誤認に当たるというものである。 
 原判決は,本件前科証拠のうち,前刑判決書謄本の取調べ請求を却下した第1審裁判所の措置,並びに上記前科の捜査段階で作成された被告人の供述調書謄本15通及び本件捜査段階で作成された前刑放火の動機等に関する被告人の供述調書1通について,本件放火との関連性がある部分を特定しないまま,その全てを却下した第1審裁判所の措置には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるとして,第1審判決を破棄し,事件を東京地方裁判所に差し戻した。 

2.原判決の理由の概略は,次のとおりである。 
 前刑放火11件の動機は,いずれも窃盗を試みて欲するような金品が得られなかったことに対する腹立ちを解消することにあり,上記11件のうち10件は,いずれも侵入した居室内において,また残り1件は,侵入しようとした住居に向けて放火したものであり,うち7件は,犯行現場付近にあったストーブ内の灯油を撒布したものである。被告人には,このような放火に至る契機,手段,方法において上記のような特徴的な行動傾向が固着化していたものと認められる。被告人は,本件放火と接着した時間帯に放火場所である居室に侵入して窃盗を行ったことを認めているところ,その窃取した金品が被告人を満足させるものではなかったと思料され,前刑放火と同様の犯行に至る契機があると認められる上,犯行の手段方法も共通しており,いずれも特徴的な類似性があると認められ,被告人が本件放火の犯人であることを証明する証拠として関連性がある。したがって,本件前科証拠のうち,これらの点に関するもの,すなわち前刑判決書謄本並びに上記前科の捜査段階で作成された被告人の供述調書謄本15通及び本件の捜査段階で作成された前刑放火の動機等に関する被告人の供述調書1通のうち本件放火と特徴的な類似性のある犯行に至る契機,犯行の手段方法に関する部分はいずれも関連性が認められ,証拠として採用すべきであったものというべきであり,上記各供述調書について関連性が認められる部分を特定できるような審理を行わずに本件前科証拠を全て却下した第1審裁判所の措置は違法である。そして,被告人が,本件放火と接着した時間帯に放火場所である居室に侵入して窃盗を行ったことが認められる本件では,上記の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反に当たる。 

3.しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 前科も一つの事実であり,前科証拠は,一般的には犯罪事実について,様々な面で証拠としての価値(自然的関連性)を有している。反面,前科,特に同種前科については,被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく,そのために事実認定を誤らせるおそれがあり,また,これを回避し,同種前科の証明力を合理的な推論の範囲に限定するため,当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じるなど,その取調べに付随して争点が拡散するおそれもある。したがって,前科証拠は,単に証拠としての価値があるかどうか,言い換えれば自然的関連性があるかどうかのみによって証拠能力の有無が決せられるものではなく,前科証拠によって証明しようとする事実について,実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許されると解するべきである。本件のように,前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合についていうならば,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって,初めて証拠として採用できるものというべきである。 
 前刑放火は,原判決の指摘するとおり,11件全てが窃盗を試みて欲するような金品が得られなかったことに対する鬱憤を解消するためになされたものであること,うち10件は侵入した室内において,残り1件は侵入しようとした居室に向けてなされたものであるが,いずれも灯油を撒布して行われたものであることなどが認められる。本件放火の態様は,室内で石油ストーブの灯油をカーペットに撒布して火を放ったという犯行である。原判決は,これらの事実に加え,被告人が本件放火の最大でも5時間20分という時間内に上記の放火現場に侵入し,500円硬貨2枚とカップ麺1個を窃取したことを認めていることからすれば,上記の各前科と同様の状況に置かれた被告人が,同様の動機のもとに放火の意思を生じ,上記のとおりの手段,方法で犯行に及んだものと推認することができるので,関連性を認めるに十分であるという。しかしながら,窃盗の目的で住居に侵入し,期待したほどの財物が窃取できなかったために放火に及ぶということが,放火の動機として特に際だった特徴を有するものとはいえないし,また,侵入した居室内に石油ストーブの灯油を撒いて火を放つという態様もさほど特殊なものとはいえず,これらの類似点が持つ,本件放火の犯行が被告人によるものであると推認させる力は,さほど強いものとは考えられない。
 原判決は,上記のとおり,窃盗から放火の犯行に至る契機の点及び放火の態様の点について,前刑放火における行動傾向が固着化していると判示している。固着化しているという認定がいかなる事態を指しているのか必ずしも明らかではないが,単に前刑放火と本件放火との間に強い類似性があるというにとどまらず,他に選択の余地がないほどに強固に習慣化していること,あるいは被告人の性格の中に根付いていることを指したものではないかと解され,その結果前刑放火と本件放火がともに被告人によるものと推認できると述べるもののようである。しかし,単に反復累行しているという事実をもってそのように認定することができないことは明らかであり,以下に述べる事実に照らしても,被告人がこのような強固な犯罪傾向を有していると認めることはできず,実証的根拠の乏しい人格評価による認定というほかない。
 すなわち,前刑放火は,間に服役期間を挟み,いずれも本件放火の17年前の犯行であって,被告人がその間前刑当時と同様の犯罪傾向を有していたと推認することには疑問があるといわなければならない。加えて,被告人は,本件放火の前後の約1か月間に合計31件の窃盗(未遂を含む。以下同じ。)に及んだ旨上申している。上申の内容はいずれも具体的であるが,これらの窃盗については,公訴も提起されていない上,その中には被告人が十分な金品を得ていないとみられるものが多数あるにもかかわらず,これらの窃盗と接着した時間,場所で放火があったという事実はうかがわれず,本件についてのみ被告人の放火の犯罪傾向が発現したと解することは困難である。 

(2) 上記のとおり,被告人は,本件放火に近接した時点に,その現場で窃盗に及び,十分な金品を得るに至らなかったという点において,前刑放火の際と類似した状況にあり,また,放火の態様にも類似性はあるが,本件前科証拠を本件放火の犯人が被告人であることの立証に用いることは,帰するところ,前刑放火の事実から被告人に対して放火を行う犯罪性向があるという人格的評価を加え,これをもとに被告人が本件放火に及んだという合理性に乏しい推論をすることに等しく,このような立証は許されないものというほかはない。
 したがって,本件放火の犯罪事実を立証するための本件前科証拠の取調べ請求を全て却下した第1審裁判所の措置は正当であり,これについて判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反に当たるとした原判断には刑訴法379条の解釈適用を誤った違法がある。この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであり,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 

(引用終わり)

(女性用物窃盗放火事件判例より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

1.原判決は,事実誤認の控訴趣意を排斥するに当たり,被告人の前科(昭和47年9月から同48年9月までの間の窃盗13件,同未遂1件,現住建造物等放火1件,同未遂2件等の罪により懲役6年に処せられた前科及び平成2年3月から同年12月までの間の住居侵入,窃盗10件,住居侵入,窃盗,現住建造物等放火2件,住居侵入未遂1件の罪により懲役9年に処せられた前科)に係る犯罪事実並びに被告人が自認している第1審判決判示第1ないし第9及び第19の住居侵入,窃盗の各事実等から,被告人には,ア 住居侵入,窃盗の動機について,いわゆる色情盗という特殊な性癖が,イ 住居侵入,窃盗の手口及び態様について,①侵入先を決めるに当たって下見をするなど何らかの方法により女性の居住者がいるという情報を得る,②主な目的は女性用の物を入手することにあり,それ以外の金品を盗むことは付随的な目的である,③家人の留守中に窓ガラスを割るなどして侵入するという特徴が,ウ 現住建造物等放火について,女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する独特の複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりするという極めて特異な犯罪傾向がそれぞれ認められるとした。そして,上記アないしウの特徴等が,第1審判決判示第10ないし第15,第18及び第20の住居侵入,窃盗又は同未遂,現住建造物等放火の各事実に一致するとし,このことが上記各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとなるとした。

2.しかし,上記原判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合は,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,その特徴が証明の対象である犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって,初めて証拠として採用できるところ(最高裁平成23年(あ)第670号同24年9月7日第二小法廷判決・裁判所時報第1563号6頁(※注:上記葛飾区窃盗放火事件判例を指す。)参照),このことは,前科以外の被告人の他の犯罪事実の証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合にも同様に当てはまると解すべきである。そうすると,前科に係る犯罪事実や被告人の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることは,これらの犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,その特徴が証明対象の犯罪事実と相当程度類似していない限りは,被告人に対してこれらの犯罪事実と同種の犯罪を行う犯罪性向があるという実証的根拠に乏しい人格評価を加え,これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることに等しく,許されないというべきである。

(2) これを本件についてみるに,原判決指摘アの色情盗という性癖はさほど特殊なものとはいえないし,同イの,あらかじめ下見をするなどして侵入先の情報を得る,女性用の物の入手を主な目的とする,留守宅に窓ガラスを割るなどして侵入するという手口及び態様も,同様にさほど特殊なものではなく,これらは,単独ではもちろん,総合しても顕著な特徴とはいえないから,犯人が被告人であることの間接事実とすることは許されないというべきである。また,原判決指摘ウの「特異な犯罪傾向」については,原判決のいう「女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりする」という行動傾向は,前科に係る犯罪事実等に照らしても曖昧なものであり,「特異な犯罪傾向」ということは困難である上,そもそも,このような犯罪性向を犯人が被告人であることの間接事実とすることは,被告人に対して実証的根拠の乏しい人格的評価を加え,これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることにほかならず(前掲最高裁平成24年9月7日判決参照),許されないというべきである。 

(3) したがって,原判決が,上記前科に係る犯罪事実並びに第1審判決判示第1ないし第9及び第19の各事実にみられる上記アないしウの特徴が第1審判決判示第10ないし第15,第18及び第20の各事実に一致することを上記各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとしたことは違法であり,原判決には法令違反がある。

(引用終わり)

(女性用物窃盗放火事件判例における金築誠志補足意見より引用。太字強調は当サイトによる。)

1.本件起訴事実は,平成16年8月から同17年8月までの間に,岡山市内において,合計20件の住居侵入・窃盗・同未遂・現住建造物等放火の犯行に及んだというものであるが,このうち,第1審判決判示第1ないし第9及び第19の住居侵入・窃盗については,被告人も認めており,認定上特に問題はない。そこで,原判決は,被告人の認める上記各事実と,法廷意見記載の前科から,被告人の犯行の動機,手口等を認定し,第10ないし第15,第18及び第20の各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとしているのであるが,色情盗という性癖,犯行の手口・態様が,さほど特殊なものとはいえないことは,法廷意見の述べるとおりである。また,原判決は,前科等から,被告人は,「女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する独特の複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりするという極めて特異な犯罪傾向」があるとし,これも上記犯人性の間接事実としている。しかし,昭和48年の3件の現住建造物等放火では,目的とする盗みができなかったことに立腹したという上記とは全く異なる動機が認定されており,平成2年の2件の放火については,性倒錯傾向が放火の動機に幾分か関係を持つという原判示に通じる認定がされているが,同年に被告人が行った住居侵入・窃盗で女性用下着を窃取したにもかかわらず,放火に至っていないものが他に6件ある。したがって,被告人に上記のような犯罪傾向があると,軽々に断定することはできないと考える。さらに,窃取した物に女性用の物が含まれているからといって,その後に行われた放火の動機が,上記のようなものであると直ちに推認することはできないのであって(ちなみに,認めている第16及び第17の2件の放火について,被告人は,その動機を「指紋を消すため」と供述している。),第18において灯油を撒いた動機がストーカー的な気持であった旨の検察官に対する供述があるものの,争いのある本件各放火を通じて,その動機が原判示のようなものであったと認定できるだけの証拠があることはうかがわれない(放火の犯人が被告人であることが確定された場合には,その動機が原判示のようなものであるとの逆の推認をすることは可能であろうが。)。そうすると,法廷意見の指摘する点もさることながら,上記の原判断については,そもそも,動機の共通性という,犯人性の間接事実とするための前提を欠いているように思う。

2(1) このように,原判断は是認できないのであるが,上記のように,原判決は,間接事実となるべき被告人の他の犯罪事実として,現住建造物等放火の含まれる事実を挙げていないところ,本件において,被告人の他の犯罪事実が犯人性を認めるための間接事実として許容できるか否かという点で,より検討を要するのは,併合審理されている現住建造物等放火の各事実についてであると思われる。すなわち,現住建造物等放火の含まれる10件の事実のうち,第16と第17については,盗品の一部について否認しているものの,放火を含め,犯人であることを認めており,第18については,盗品の一部を除き,住居侵入・窃盗の限度では認めているので,結局,被告人が,全面的に犯人ではないとして争っているのは,第10ないし第15及び第20の7件ということになるが,このうち,第15を除く6件においては,原判決が引用する第1審判決が詳細に説示するとおり,被告人方から盗品が発見されていることなどの証拠により,住居侵入・窃盗の犯人が被告人であることは明らかである。第15について,第1審判決は,同犯行は,窓の錠付近のガラスを割って屋内に侵入して物色し,その後物色した部屋の押し入れに放火するという犯行態様が,他の事件とよく類似していることに加え,窃盗に入った家で室内に放火するとの犯罪類型は決して一般的なものとはいえず,むしろ特殊な手口であることや,後記の同種前科の存在も,犯人性を認める証拠としているところ,この判断は上記第二小法廷判決の示した証拠としての許容基準からして疑問を免れないのであるが,これを除いても,第1審判決が援用する粘着テープ等の物的証拠により,被告人を第15の住居侵入・窃盗の犯人と認めることが可能というべきである。
 残る問題は,争いのある8件の放火の犯人が被告人と認められるかどうかである。第18については,窃盗の犯行後,室内に灯油を撒いたという重要な不利益事実の承認があるが,その余の7件については,同種前科及び犯行態様の類似した多数の事実が起訴されていることを別とすれば,放火の犯行と被告人とを結び付ける証拠は,ほぼ,住居侵入・窃盗の犯行との場所的同一性と時間的近接性のみといってよい。

(2) 前科に関し,原判決が放火の動機として認定するところが間接事実となり得ないものであることについては,前記のとおりであるが,住居侵入・窃盗の際に侵入先の室内において放火を行ったという同種前科の存在自体を,本件放火の犯人が被告人であることの間接事実とすることも,上記第二小法廷判決の法理に照らし,許されないと解すべきである。前科は,被告人の人格評価を低下させ,ひいて犯人性の認定に影響を及ぼすおそれの否定できない証拠であり,同種前科であれば特にそのおそれは強い。犯行の手口,態様等に,顕著な特徴がある場合でなければ,犯人性に関する証拠として許容されるべきでなく,ただ単に,前に同じような犯罪を犯した者であるから,今回の件も犯人ではないかとの推論をすることは,許されるべきではない。窃盗犯人が犯行場所に放火するという犯罪類型は,しばしば見られるものではないとしても,特に珍しいというほどのものではないから,犯人の特定に強く結び付く程度の顕著な特徴とはいえない。

(3) それでは,本件において併合審理された類似事実についても,同様に考えるべきであろうか。本件起訴に係る10件の現住建造物等放火は,約4か月の短期間に連続的に犯されたものであるが,いずれの犯行においても,放火が実行されたと推認される時以前,最大限約10時間の幅の時間内に,被告人が,放火された住居に侵入し,放火された室内で金品を盗みあるいは盗もうとしたという事実が認められる。このうち2件は,放火についても被告人は自認しており,上記時間の幅が10時間の1件については,室内に灯油を撒いたことを認めている。このような事実関係において,仮に,争いのある放火が,被告人の関与なしに他の者によって犯されたとするならば,それは極めて確率の低い偶然の事態が発生したことを承認することになろう。本件のような事案について,各放火事件の犯人性は,あくまで,それぞれの事件に関する証拠のみで別個独立に認定すべきであるとすることは,不自然であり,類似する多数の犯行を総合的に評価することは許されるべきであろう。
 上記10件の放火の中には,上記の時間の幅が1時間20分,2時間といった時間的近接性の極めて高い事件もあり,こうした事件については,その事実だけで被告人が放火の犯人であることを推認することに,あまり疑問はないであろう。しかし,どの程度の時間の幅まで,近接性の原理のみで犯人性を推認できるかは,微妙な問題であって,その際に,類似事実の存在は,一つの補強的な証拠になり得ると考えられる。本件のような事案においては,そうした認定の当否を審理することが必要であり,証拠として許容される場合があるのであって,それが,併合審理をする意義の一つであると考える。

(4) もっとも,本件においては,上記のような総合的認定という観点のほかに,被告人の認めている2件の住居侵入・窃盗・現住建造物等放火を,他の8件の住居侵入・窃盗・現住建造物等放火の犯人が被告人であることの間接事実とすることができるのかという観点もある。この観点については,他の類似犯罪事実をもって被告人の犯罪傾向を認定し,これを犯人性の間接証拠とするという点で,上記第二小法廷判決が戒める人格的評価に基づく推論という要素を含んでいることは否定できない。したがって,基本的には,同判決が示した法理に従うべきであろうが,この法理が,自然的関連性のある証拠の使用を,不当な予断・偏見のおそれや合理的な根拠に乏しい認定に陥る危険を防止する見地から,政策的考慮に基づいて制限するものであることに鑑みれば,「顕著な特徴」という例外の要件について,事案により,ある程度の幅をもって考えることは,必ずしも否定されないのではないだろうか。
 上記第二小法廷の事案が,窃盗の件数は31件の多数に上るのに,放火は1件にとどまるのに対し,本件は,20件のうちの半数において放火が起訴され,しかも約4か月という短期間に多数の類似犯罪事実が連続的に犯されたというものであって,事案に重要な差異がある。また,前述のように,本件においては,被告人が上記多数の住居侵入・窃盗の犯人であることは,他の証拠によって立証されており,その犯人と放火犯人との同一性という,限局された範囲における推認であることも,考慮すべき点といえよう。さらに,併合審理される類似事実については,前科についてみられる,その存在自体で人格的評価を低下させる危険性や,同判決が指摘する争点拡散のおそれは,考え難い。これらの点を総合的に考慮すれば,本件において「顕著な特徴」という要件が満たされていると解する余地もあるのではないかと思う。

3.いずれにしても,本決定は,あくまで原判決における証拠の使用方法を違法と判断したものであって,上記2に述べた点についてまで判断したものではない。事案の内容から,本決定の射程距離に疑義が生じるおそれなきにしもあらずと危惧し,念のため付言する次第である。 

(引用終わり)

(洲本社会福祉募金詐欺事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)

 犯罪の客観的要素が他の証拠によつて認められる本件事案の下において、被告人の詐欺の故意の如き犯罪の主観的要素を、被告人の同種前科の内容によつて認定した原判決に所論の違法は認められない 

(引用終わり)

(東京高判平25・7・16より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

 原判決は,A事件について,具体的に,被害者Aは,被告人車両に背後から衝突されたことでフェンスにたたきつけられ,膝を打つなどし,左肩打撲,腰部,臀部,両膝打撲,左膝擦過傷,頸椎捻挫等の傷害を負っており,被告人の衝突行為は,接触程度の軽いものとはいえず,強い衝撃を与えるものであり,その衝突態様や時間帯,衝突場所の状況に加えて,被告人が本件A事件の約1時間35分後に,B事件(強姦致傷等)の犯行に及んでいることからすれば,本件衝突行為も強姦の目的でなされたものということができる旨説示する。
 原判決の上記認定及び判断は,論理則,経験則等に適う合理的なものといえる。犯人性の問題とは異なり,近接した日時場所において,被告人が深夜に一人歩きの若い女性を狙って類似した態様で引き続いてA,B事件を起こしたことを前提とすれば,B事件の犯行動機,目的等から,A事件のそれを推認することは許容される(最高裁昭和41年11月22日決定・刑集20巻9号1035頁(※注:上記洲本社会福祉募金詐欺事件判例を指す。)等参照。)。所論がいうように,見ず知らずの女性に,単に怖がらせたり,傷害を与えたりするためだけに車両を衝突させるというのは甚だ考え難いことからも,上記推認は合理的であるといえる。

(引用終わり)

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