承継的共同正犯の理論的前提
(令和6年予備試験刑法)

1.令和6年予備試験刑法。後半部分の顔面打撲の傷害については、誰もが承継的共同正犯の成否を書いたことでしょう。しかし、その理論的前提について正確に理解している人は、あまりいなかったのではないかと思います。

2.以下の事例を考えてみましょう。

【事例】

1.甲は、令和5年12月5日、Cと路上で口論となり、Cの顔面を拳で数回殴った。Cは、甲から顔面を殴られたことにより全治約1週間を要する顔面打撲の傷害を負った。

2.甲及び乙は、令和6年12月5日、Cと路上で口論となり、共謀の上、Cの腹部を足で数回蹴った。Cは、甲及び乙から腹部を蹴られたことにより、全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負った。

 上記事例で、乙の罪責が問われた場合に、顔面打撲の傷害について、傷害罪の承継的共同正犯の成否を書くでしょうか。書くわけない、と思うのが普通でしょう。それはなぜか。「1年も経ってるからでしょ。」というのが直感的な判断でしょうが、理論的ではありません。「因果は遡らない。」という論理は、数分だろうが数時間だろうが数十年だろうが変わらないはず。それならば、1年経っていたとしても、理論的には承継的共同正犯は問題になるのではないか。「じゃあ、理論的には問題になるけれど、否定されるに決まってるから議論の実益がないってことか。」ということになりそうですが、そうではありません。正解は、「顔面打撲の傷害に係る傷害罪は、甲及び乙が共謀して行った傷害罪とは別罪だから」です。

3.そもそも、共謀前の先行者の行為については、「共謀に基づく行為」とはいえないのだから、共同正犯なんて成立するわけない。それなのになぜ、承継的共同正犯が議論されるのか。それは、「共謀に基づいて実体法上1罪の一部を実行した以上は、その1罪全体について共同正犯となる。」という考え方があったからです(※1)。
 ※1 このことは、学生向けの教科書でも指摘されることがあります(亀井源太郎ほか『刑法Ⅰ総論(日評ベーシック・シリーズ)』(日本評論社 2020年)103、104頁)。

(只木誠「承継的共同正犯について」法学新報第128巻第1・2号(2021年)21、22頁より引用。太字強調は筆者。)

 従前の裁判例においては,事情を認識しつつ意思を通じて,単純一罪へ途中から関与・加担した場合には承継的共犯が肯定され,その全体について刑責が問われてきた。実務家においても,「単純一罪,継続犯,結合犯(これに準ずるものを含む)の事案においては,これまでの積極説の立場で比較的安定し」ていたとの評価であった。承継的共犯の成立につき消極に解する立場の裁判例も,先行する行為・態様等について認識していなかったり,先行する状態を積極的に利用する意思がなかったりしたものであって,実務では,基本的に,一罪の重要な一部に関与した以上,そこには,他者の行為を介して互いに結果に対して因果を及ぼしていることを根拠とする一部実行全部責任の原則が及ぶとされていた。その背景には,一罪という犯罪構成要件の単位は処罰の単位として立法者が設定したものであり,したがって,それが一体性を有している以上,これを分割することは立法者の意思に反するという考えが存していたものと思われる。また,一罪という尺度を基礎にする点で判断の明確性・安定性にも資するという側面も無視し得ない。

(引用終わり)

 承継的共同正犯の意義において、「実行行為の途中から」とか、「犯罪の途中から」という表現が用いられるのが通例なのは、この実体法上の1罪性を意識しているからです。

4.この点を理解した上で、最決平24・11・6の判示を見ると、「ああそういうことか。」と合点がいく部分があります。

(最決平24・11・6より引用。太字強調は筆者。)

1.原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

(1) A及びB(以下「Aら」という。)は,平成22年5月26日午前3時頃,愛媛県伊予市内の携帯電話販売店に隣接する駐車場又はその付近において,同店に誘い出したC及びD(以下「Cら」という。)に対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,複数回手拳で顔面を殴打し,顔面や腹部を膝蹴りし,足をのぼり旗の支柱で殴打し,背中をドライバーで突くなどし,Cに対し,右手の親指辺りを石で殴打したほか,複数回手拳で殴り,足で蹴り,背中をドライバーで突くなどするというものであった。

(2) Aらは,Dを車のトランクに押し込み,Cも車に乗せ,松山市内の別の駐車場(以下「本件現場」という。)に向かった。その際,Bは,被告人がかねてよりCを捜していたのを知っていたことから,同日午前3時50分頃,被告人に対し,これからCを連れて本件現場に行く旨を伝えた。

(3) Aらは,本件現場に到着後,Cらに対し,更に暴行を加えた。その態様は,Dに対し,ドライバーの柄で頭を殴打し,金属製はしごや角材を上半身に向かって投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりし,Cに対し,金属製はしごを投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりするというものであった。これらの一連の暴行により,Cらは,被告人の本件現場到着前から流血し,負傷していた。

(4) 同日午前4時過ぎ頃,被告人は,本件現場に到着し,CらがAらから暴行を受けて逃走や抵抗が困難であることを認識しつつAらと共謀の上,Cらに対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,被告人が,角材で背中,腹,足などを殴打し,頭や腹を足で蹴り,金属製はしごを何度も投げつけるなどしたほか,Aらが足で蹴ったり,Bが金属製はしごで叩いたりし,Cに対し,被告人が,金属製はしごや角材や手拳で頭,肩,背中などを多数回殴打し,Aに押さえさせたCの足を金属製はしごで殴打するなどしたほか,Aが角材で肩を叩くなどするというものであった。被告人らの暴行は同日午前5時頃まで続いたが,共謀加担後に加えられた被告人の暴行の方がそれ以前のAらの暴行よりも激しいものであった。

(5) 被告人の共謀加担前後にわたる一連の前記暴行の結果,Dは,約3週間の安静加療を要する見込みの頭部外傷擦過打撲,顔面両耳鼻部打撲擦過,両上肢・背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過,両膝両下腿右足打撲擦過,頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負い,Cは,約6週間の安静加療を要する見込みの右母指基節骨骨折,全身打撲,頭部切挫創,両膝挫創の傷害を負った。

2.原判決は,以上の事実関係を前提に,被告人は,Aらの行為及びこれによって生じた結果を認識,認容し,さらに,これを制裁目的による暴行という自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思の下に,一罪関係にある傷害に途中から共謀加担し,上記行為等を現にそのような制裁の手段として利用したものであると認定した。その上で,原判決は,被告人は,被告人の共謀加担前のAらの暴行による傷害を含めた全体について,承継的共同正犯として責任を負うとの判断を示した。

(引用終わり)

 そうです。上記判例の事案において、暴行は一連一体のものと評価され、各暴行から生じた傷害に係る傷害罪は、実体法上1罪であることが前提とされていたのです。だからこそ、承継的共同正犯の成否が問題となったのですね。

5.さて、以上のことを踏まえて本問を考えるなら、承継的共同正犯の成否について論じる前に、確定しておかなければならない前提があることに気が付くでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4 甲は、上記居酒屋に向かっていた際、自己の携帯電話機を操作しながら本件自転車を運転していたため、甲の前方を歩いていたC(30歳、男性)の存在に気付かず、Cに接触しそうになった。甲は、Cから「気を付けろよ。」と注意されたことで逆上し、本件自転車から降り、同日午後6時55分頃、Cの顔面を拳で数回殴った上、Cの腹部を足で数回蹴った。
 甲は、ちょうどその場に乙が通り掛かったことから、乙に対し、「こいつが俺に説教してきたから痛め付けてやった。お前も一緒に痛め付けてくれ。」と言った。
 乙は、Cの顔面が腫れていた上、Cがうなだれて意気消沈している様子であったことから、甲の言うとおり、甲がCに暴行を加えたと認識した。
 乙は、勤務先から解雇されたばかりでストレスがたまっていた上、Cが逃げたり抵抗したりする様子がなかったことから、この状況を積極的に利用してCに暴行を加え、ストレスを解消したいと考え、甲に対し、「分かった。やってやる。」と言って、同日午後7時頃、Cの頭部を拳で数回殴った上、Cの腹部を足で数回蹴った。
 甲は、乙がCに暴行を加えている間、その様子を間近で見ていたが、乙と共にCに暴行を加えることはなかった。

 (中略)

 Cは、甲から顔面を殴られたことにより全治約1週間を要する顔面打撲の傷害を負った。
 Cは、乙から頭部を殴られたことにより全治約2週間を要する頭部打撲の傷害を負った。
 Cは、全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負ったが、同傷害は、甲がCの腹部を蹴った暴行から生じたのか、乙がCの腹部を蹴った暴行から生じたのかは不明であったものの、甲の同暴行及び乙の同暴行は、いずれも同傷害を生じさせ得る危険性があった。

(引用終わり)

 そうです。Cに生じた各傷害に係る傷害罪が実体法上1罪となることを基礎付ける事実の評価、すなわち、甲の暴行と乙の暴行の一連一体性(刑法上の1個性)です。以下のような論述は、理論的には、承継的共同正犯を論じる前提として必須です(※2)。
 ※2 なお、このことは、1罪性を重視して全面肯定説を採るべきだ、という趣旨ではありません。参考答案(その2)も、上記判例と同様の立場を採用しています(第3の2(2)参照)。実体法上1罪関係にないときは、全面肯定説からも承継的共同正犯を肯定する余地がないので、その肯否は理論的にも問題にならない、すなわち、答案で書いたら積極ミスないし余事記載になりますよ、という趣旨です。

(参考答案(その2)より引用)

 午後6時55分頃の甲の顔面殴打(以下「暴行①」という。)及び腹部蹴打(以下「暴行②」という。)、午後7時頃の乙の頭部殴打(以下「暴行③」という。)及び腹部蹴打(以下「暴行④」という。)は、わずか5分程度の間隔しかなく、同一場所でされ、かつ、Cから注意されたことで逆上した甲の動機に起因し、その動機は甲が乙に対し、「こいつが俺に説教してきたから」という発言によって伝達され、乙はその状況を積極的に利用しようと考えたから、連続した意思に支えられている。したがって、暴行①から④までは一連一体のものとして刑法上は1個の暴行行為と評価される(以下、上記各暴行を1個の暴行として総称するときは、「本件暴行」という。)。

(引用終わり)

6.しかしながら、理論的に必須である論述は、合格するために必須とは限らない。おそらく、上位陣でも、傷害罪の1罪性に適切に触れているものは、ほとんどないでしょう。だから、この点は、合否はおろか、上位になるか否かすら左右しない。もっとも、受験生の出来の悪い部分は、繰り返し論文で出題されたり、口述で問われたりします。この機会に、一応理解はしておきましょう。

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