傷害ごとの論点・判例を見抜く
(令和6年予備試験刑法)

1.令和6年予備試験刑法。後半部分は、Cが負った3つの傷害について、それぞれ論じることが求められています。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Cは、甲から顔面を殴られたことにより全治約1週間を要する顔面打撲の傷害を負った。
 Cは、乙から頭部を殴られたことにより全治約2週間を要する頭部打撲の傷害を負った。
 Cは、全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負ったが、同傷害は、甲がCの腹部を蹴った暴行から生じたのか、乙がCの腹部を蹴った暴行から生じたのかは不明であったものの、甲の同暴行及び乙の同暴行は、いずれも同傷害を生じさせ得る危険性があった。

(引用終わり)

 ここで決定的に差が付くのは、各傷害について、対応する論点・判例を見抜くことができたかです。いずれも冷静に考えればなかなか間違えないところで、間違えてしまった人は、どうしてそんなことになってしまったのか。「たまたまウッカリしただけ。」などと考えることなく、自分の思考過程を検証し、ミスをなくす方法論を考える必要があるでしょう。

2.まず、一番問題がないのが、頭部打撲の傷害で、これは単に(共謀)共同正犯の要件を示し、当てはめれば足ります。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4 甲は、上記居酒屋に向かっていた際、自己の携帯電話機を操作しながら本件自転車を運転していたため、甲の前方を歩いていたC(30歳、男性)の存在に気付かず、Cに接触しそうになった。甲は、Cから「気を付けろよ。」と注意されたことで逆上し、本件自転車から降り、同日午後6時55分頃、Cの顔面を拳で数回殴った上、Cの腹部を足で数回蹴った。
 甲は、ちょうどその場に乙が通り掛かったことから、乙に対し、「こいつが俺に説教してきたから痛め付けてやった。お前も一緒に痛め付けてくれ。」と言った。
 乙は、Cの顔面が腫れていた上、Cがうなだれて意気消沈している様子であったことから、甲の言うとおり、甲がCに暴行を加えたと認識した。
 乙は、勤務先から解雇されたばかりでストレスがたまっていた上、Cが逃げたり抵抗したりする様子がなかったことから、この状況を積極的に利用してCに暴行を加え、ストレスを解消したいと考え、甲に対し、「分かった。やってやる。」と言って、同日午後7時頃、Cの頭部を拳で数回殴った上、Cの腹部を足で数回蹴った。
 甲は、乙がCに暴行を加えている間、その様子を間近で見ていたが、乙と共にCに暴行を加えることはなかった。

 (中略)

 Cは、乙から頭部を殴られたことにより全治約2週間を要する頭部打撲の傷害を負った。

(引用終わり)

 実戦的には、実行正犯の乙に傷害罪が成立するのは当然として、甲について(共謀)共同正犯の成否を論じる形式で書けばよいのでしょう。当サイトの参考答案(その1)は、その方針で書いています。共謀共同正犯肯定説の理由付けなんて書いちゃいけません。

(参考答案(その1)より引用)

4.頭部打撲に係る傷害

(1)共謀共同正犯が成立するには、自己の犯罪としてする意思(正犯意思)、意思の連絡(共謀)及び共謀者の一部による犯罪の実行が必要である。
 甲はCから注意され逆上しており、正犯意思がある。
 甲は、乙に「お前も一緒に痛め付けてくれ。」と言った。乙は甲に「分かった。やってやる。」と言って、Cの頭部を拳で数回殴った上、Cの腹部を足で数回蹴った。共謀及び共謀者の一部による犯罪の実行がある。
 したがって、上記乙の行為につき、甲は共同正犯(60条)となる。

(2)Cは、上記乙の頭部殴打により上記傷害を負った。

(3)以上から、傷害が成立する。

(引用終わり)

 ポイントは、共謀を基礎付ける甲・乙の発言をきちんと答案に書き写すことで、ここを省略すると、予想外に評価を落とすでしょう。本問では書くべきことが多いので、それ以外はごく簡潔で足りると思います。

3.次に、顔面打撲の傷害については、共謀前の先行者の暴行とのみ因果関係のある傷害についての(承継的)共同正犯の成否が問われています。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4 甲は、上記居酒屋に向かっていた際、自己の携帯電話機を操作しながら本件自転車を運転していたため、甲の前方を歩いていたC(30歳、男性)の存在に気付かず、Cに接触しそうになった。甲は、Cから「気を付けろよ。」と注意されたことで逆上し、本件自転車から降り、同日午後6時55分頃、Cの顔面を拳で数回殴った上、Cの腹部を足で数回蹴った。
 甲は、ちょうどその場に乙が通り掛かったことから、乙に対し、「こいつが俺に説教してきたから痛め付けてやった。お前も一緒に痛め付けてくれ。」と言った。
 乙は、Cの顔面が腫れていた上、Cがうなだれて意気消沈している様子であったことから、甲の言うとおり、甲がCに暴行を加えたと認識した。
 乙は、勤務先から解雇されたばかりでストレスがたまっていた上、Cが逃げたり抵抗したりする様子がなかったことから、この状況を積極的に利用してCに暴行を加え、ストレスを解消したいと考え、甲に対し、「分かった。やってやる。」と言って、同日午後7時頃、Cの頭部を拳で数回殴った上、Cの腹部を足で数回蹴った。

 (中略)

 Cは、甲から顔面を殴られたことにより全治約1週間を要する顔面打撲の傷害を負った。

(引用終わり)

 ここは、最決平24・11・6があるところです。

(最決平24・11・6より引用。太字強調は筆者。)

 被告人は,Aらが共謀してCらに暴行を加えて傷害を負わせた後に,Aらに共謀加担した上,金属製はしごや角材を用いて,Dの背中や足,Cの頭,肩,背中や足を殴打し,Dの頭を蹴るなど更に強度の暴行を加えており,少なくとも,共謀加担後に暴行を加えた上記部位についてはCらの傷害(したがって,第1審判決が認定した傷害のうちDの顔面両耳鼻部打撲擦過とCの右母指基節骨骨折は除かれる。以下同じ。)を相当程度重篤化させたものと認められる。この場合,被告人は,共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。原判決の上記2の認定は,被告人において,CらがAらの暴行を受けて負傷し,逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだ趣旨をいうものと解されるが,そのような事実があったとしても,それは,被告人が共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず,共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないものであって,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する上記判断を左右するものではない。そうすると,被告人の共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果を含めて被告人に傷害罪の共同正犯の成立を認めた原判決には,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する刑法60条,204条の解釈適用を誤った法令違反があるものといわざるを得ない。

(引用終わり)

 ここから考えれば、本問でも顔面打撲の傷害について共同正犯は成立しない、という結論になります(※1)。このことをごく簡潔に書くなら、当サイト作成の参考答案(その1)のようになるでしょう。
 ※1 仮に、乙も顔面殴打を行っており、当該暴行により顔面打撲の傷害が全治1週間から全治3週間へと重篤化した、という事例であった場合には、乙に共同正犯が成立するということに加え、傷害罪の成立範囲について、全治3週間全体なのか、全治2週間の部分にとどまるのか、という論点があります(因果的共犯論からいずれの結論も採り得ることにつき、只木誠「承継的共同正犯について」法学新報第128巻第1・2号(2021年)16、25、26頁参照)。

(参考答案(その1)より引用)

 共謀加担前の先行者の行為によって生じた結果については、共同正犯は成立しない。
 顔面打撲は前記第1の4(1)の共謀加担前の甲の顔面殴打によって生じた結果であるから、共同正犯は成立せず、傷害は成立しない。

(引用終わり)

 ここは、多くの受験生が、因果的共犯論に遡る文字数の多い論証を用意していることでしょう。しかし、本問は全体的に書くべき事項が多く、とりわけ前半の占有に関する事実摘示で時間・紙幅を取られるので、実戦的には上記の程度でもやむを得ないと感じます。理論重視の法科大学院・予備校等で学んだ受験生は、前半の占有を軽視してここの論証貼り付けを重視するのでしょうが、実際にはその逆が正しいと、当サイトは考えます。
 ちなみに、上記判例は同時傷害特例(207条)について言及していません。それは、先行者の暴行との間の因果関係が認定できる事案だからです。本問の顔面打撲の傷害についても、先行者である甲の暴行との間の因果関係が認定できるので、207条の適用対象でないことは明らか(※2)。その旨を答案に明示するのであれば、参考答案(その2)のようになるでしょう。
 ※2 厳密には、後記最決平28・3・24の示す要件のうちどれを欠くのか、という問題がないわけではありません。乙は頭部と腹部にしか暴行を加えておらず、いずれも顔面打撲を生じさせ得る危険性を有しない、ともいえそうですが、頭部を殴れば顔面打撲を生じさせ得るともいえそうです。仮にそのような危険性があると考えるなら、顔面打撲は甲の顔面殴打から生じており、乙の頭部殴打がその傷害を生じさせていないことを立証できるとして、乙の免責を導くことになるのでしょう。もっとも、この点に配点があるとは考えにくいので、わざわざ答案に書くようなことではないと思います。

(参考答案(その2)より引用)

 全治約1週間を要する顔面打撲の傷害は甲の暴行①により生じた。「それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないとき」に当たらないことが明らかであるから、上記傷害について同条を適用する余地はない。

(引用終わり)

 もっとも、本問は書くべき事項が多いので、得点効率を考えると、わざわざ答案に書く必要もないのかな、というのが、実戦的な感覚だろうと思います。

3.メインは肋骨骨折の傷害で、207条の適用の肯否が問われています(※3)。
 ※3 承継的共同正犯が成立しないことが前提となるので、時間・紙幅に余裕があるなら、その旨を書くべきでしょう。しかし、本問は書くべき事項が多く、既に顔面打撲の傷害のところで否定の結論を書いているので、所与の前提として、いきなり207条の話をするのが実戦的だと思います。当サイト作成の参考答案(その1)は、その方針で書いています。毎回時間不足に陥る人は、このような取捨選択に留意する必要があるでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4 甲は、上記居酒屋に向かっていた際、自己の携帯電話機を操作しながら本件自転車を運転していたため、甲の前方を歩いていたC(30歳、男性)の存在に気付かず、Cに接触しそうになった。甲は、Cから「気を付けろよ。」と注意されたことで逆上し、本件自転車から降り、同日午後6時55分頃、Cの顔面を拳で数回殴った上、Cの腹部を足で数回蹴った。
 甲は、ちょうどその場に乙が通り掛かったことから、乙に対し、「こいつが俺に説教してきたから痛め付けてやった。お前も一緒に痛め付けてくれ。」と言った。
 乙は、Cの顔面が腫れていた上、Cがうなだれて意気消沈している様子であったことから、甲の言うとおり、甲がCに暴行を加えたと認識した。
 乙は、勤務先から解雇されたばかりでストレスがたまっていた上、Cが逃げたり抵抗したりする様子がなかったことから、この状況を積極的に利用してCに暴行を加え、ストレスを解消したいと考え、甲に対し、「分かった。やってやる。」と言って、同日午後7時頃、Cの頭部を拳で数回殴った上、Cの腹部を足で数回蹴った。

 (中略)

 Cは、全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負ったが、同傷害は、甲がCの腹部を蹴った暴行から生じたのか、乙がCの腹部を蹴った暴行から生じたのかは不明であったものの、甲の同暴行及び乙の同暴行は、いずれも同傷害を生じさせ得る危険性があった。

(引用終わり)

 ここは、最決平28・3・24があるところで、この規範を示せるかどうかで、大きな差が付くでしょう。

(最決平28・3・24より引用。太字強調は筆者。)

 同時傷害の特例を定めた刑法207条は,二人以上が暴行を加えた事案においては,生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多いことなどに鑑み,共犯関係が立証されない場合であっても,例外的に共犯の例によることとしている。同条の適用の前提として,検察官は,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち,同一の機会に行われたものであることの証明を要するというべきであり,その証明がされた場合,各行為者は,自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れないというべきである。

(引用終わり)

(『司法試験平成28年最新判例ノート』付録論証集より引用)

207条(同時傷害特例)の要件
重要度:B
 207条を適用するためには、各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が同一の機会に行われたものであることの証明を要する(判例)。

(引用終わり)

 これは、さすがに事前準備をしていないと書けません。このようなものは、事前に覚えておくべきなのです(「答案を書くことで覚える範囲がわかる」、「ガチ暗記する方法」)。規範さえ覚えていれば、当てはめに悩むところはほとんどなかったでしょう。

(参考答案(その1)より引用)

3.肋骨骨折に係る傷害

(1)207条を適用するためには、各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が同一の機会に行われたことを要する(判例)。
 甲乙の腹部蹴打はいずれも上記傷害を生じさせ得る危険性があり、午後6時55分頃、午後7時頃に同一場所でされ同一の機会といえるから、同条の適用がある。

(2)同条が適用される場合には、各行為者は、自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り、傷害についての責任を免れない(判例)。
 上記傷害は各暴行のいずれから生じたのか不明であったから、乙の上記暴行が上記傷害を生じさせていないことを立証できない。

(3)以上から、傷害が成立する。

(引用終わり)

 ちなみに、本問は共謀があるので、「共謀のある場合にも207条が適用できるの?」という付随論点があります。この点について判示したのが、最決令2・9・30です。

(最決令2・9・30より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 同時傷害の特例を定めた刑法207条は,二人以上が暴行を加えた事案においては,生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多いことなどに鑑み,共犯関係が立証されない場合であっても,例外的に共犯の例によることとしている。同条の適用の前提として,検察官が,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち,同一の機会に行われたものであることを証明した場合,各行為者は,自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れない(最高裁平成27年(あ)第703号同28年3月24日第三小法廷決定・刑集70巻3号1頁(※注:前掲最決平28・3・24を指す。)参照)。
 刑法207条適用の前提となる上記の事実関係が証明された場合,更に途中から行為者間に共謀が成立していた事実が認められるからといって,同条が適用できなくなるとする理由はなく,むしろ同条を適用しないとすれば,不合理であって,共謀関係が認められないときとの均衡も失するというべきである。したがって,他の者が先行して被害者に暴行を加え,これと同一の機会に,後行者が途中から共謀加担したが,被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたものとまでは認められない場合であっても,その傷害を生じさせた者を知ることができないときは,同条の適用により後行者は当該傷害についての責任を免れないと解するのが相当である。先行者に対し当該傷害についての責任を問い得ることは,同条の適用を妨げる事情とはならないというべきである。

(引用終わり)

(『司法試験令和2年最新判例ノート』付録論証集より引用)

承継的共同正犯事例における刑法207条適用の肯否
重要度:A
 共謀の事実が付け加わることで207条の適用が排除されるのは不合理であり、共謀がないときとの均衡を失するから、同条を適用すべきである(判例)。
 ※ 同条適用の前提として、各暴行が傷害を生じさせ得る危険性を有し、同一の機会に行われたことを要することは、共謀がない場合と同様である。

(引用終わり)

 ここまで触れるとすれば、参考答案(その2)のようになります。

(参考答案(その2)より引用)

 なお、前記2(1)のとおり、甲乙間に共謀があるが、共謀の事実が付け加わることで同条の適用が排除されるのは不合理であり、共謀がないときとの均衡を失するから、同条の適用を妨げない(判例)。

(引用終わり)

 そこまで文字数を要するわけではないので、余裕があるなら書いてもよいでしょう。ここは答案の最後の方に書く部分なので、時間・紙幅の余裕を見て、いけそうなら書きにいく。無理そうなら断念すればよく、合否というレベルなら、それで何の問題もありません。

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