令和6年予備試験刑法の参考判例等

公園ポシェット事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)

1.原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

(1) 被害者は,本件当日午後3時30分ころから,大阪府内の私鉄駅近くの公園において,ベンチに座り,傍らに自身のポシェット(以下「本件ポシェット」という。)を置いて,友人と話をするなどしていた。

(2) 被告人は,前刑出所後いわゆるホームレス生活をし,置き引きで金を得るなどしていたものであるが,午後5時40分ころ,上記公園のベンチに座った際に,隣のベンチで被害者らが本件ポシェットをベンチ上に置いたまま話し込んでいるのを見掛け,もし置き忘れたら持ち去ろうと考えて,本を読むふりをしながら様子をうかがっていた。

(3) 被害者は,午後6時20分ころ,本件ポシェットをベンチ上に置き忘れたまま,友人を駅の改札口まで送るため,友人と共にその場を離れた。被告人は,被害者らがもう少し離れたら本件ポシェットを取ろうと思って注視していたところ,被害者らは,置き忘れに全く気付かないまま,駅の方向に向かって歩いて行った。

(4) 被告人は,被害者らが,公園出口にある横断歩道橋を上り,上記ベンチから約27mの距離にあるその階段踊り場まで行ったのを見たとき,自身の周りに人もいなかったことから,今だと思って本件ポシェットを取り上げ,それを持ってその場を離れ,公園内の公衆トイレ内に入り,本件ポシェットを開けて中から現金を抜き取った。

(5) 他方,被害者は,上記歩道橋を渡り,約200m離れた私鉄駅の改札口付近まで2分ほど歩いたところで,本件ポシェットを置き忘れたことに気付き,上記ベンチの所まで走って戻ったものの,既に本件ポシェットは無くなっていた。

(6) 午後6時24分ころ,被害者の跡を追って公園に戻ってきた友人が,機転を利かせて自身の携帯電話で本件ポシェットの中にあるはずの被害者の携帯電話に架電したため,トイレ内で携帯電話が鳴り始め,被告人は,慌ててトイレから出たが,被害者に問い詰められて犯行を認め,通報により駆けつけた警察官に引き渡された。

2.以上のとおり,被告人が本件ポシェットを領得したのは,被害者がこれを置き忘れてベンチから約27mしか離れていない場所まで歩いて行った時点であったことなど本件の事実関係の下では,その時点において,被害者が本件ポシェットのことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮しても,被害者の本件ポシェットに対する占有はなお失われておらず,被告人の本件領得行為は窃盗罪に当たるというべきであるから,原判断は結論において正当である。

(引用終わり)

(東京高判昭54・4・12より引用。太字強調は当サイトによる。)

 被害者が国鉄東京駅構内八重州新幹線中央乗換出札所の四番カウンター(指定券、特急券窓口)において、ズボンの尻ポケツトから本件財布を取り出し、そこから一万円札を抜き出し特急券を買い、すぐその足で一三番カウンター(乗車券窓口)に行き乗車券を買いつり銭を手に持つていると思つた財布に入れようとして、四番カウンターに財布を置き忘れたことに気付き、慌てて同カウンターに戻つたところ、既に財布は持ち去られていたもので、被害者が四番カウンターで特急券を購入してから一三番カウンターで財布を置き忘れたのに気付いたのは約1、2分後で、四番カウンターから一三番カウンターまでの距離は約15、6メートルに過ぎなかつたことが認められるのであつて、これらによれば、被害者は四番カウンターから離れた直後に本件財布を置いて来たことに気付いており、しかも一三番カウンターに至つた時点においても四番カウンター上の本件財布に対し、被害者の目が届き、その支配力を推し及ぼすについて相当な場所的区域内にあつたものと認められるから、かかる時間的、場所的状況下にあつた本財布は、依然として被害者の実力的支配のうちにあつたと認めるのが相当であり、未だもつて被害者の占有を離脱した状況にあつたものとは認められない

(引用終わり)

(福岡高判昭58・2・28より引用。太字強調は当サイトによる。)

 所論は要するに、「被告人は、昭和57年5月15日午前3時35分ころ、北九州市小倉北区魚町4丁目5番3号ひかり屋文具店先てんじんじまばし上において、V管理にかかる婦人用自転車1台(時価2万円相当)を窃取した。」との窃盗の公訴事実に対し、

 原判決は、被告人が、右日時、場所において、Vが他から借り同所に置いていた婦人用自転車1台を、自己の用に供する目的でこれに乗つて持ち去つた事実を認めながら、右自転車は施錠もしないまま深夜までてんじんじまばし上に置かれていたのであるから、右橋の場所的特性をも合わせ考慮すると、被告人が右自転車を持ち去つた時点では、同自転車はVの占有から離れ占有離脱物になつていたというべきであるとして、結局、本件公訴事実については犯罪の証明がないとして無罪を言渡した。しかしながら、原判決は、前記自転車の占有につき事実を誤認し、その結果窃盗罪に関する法令の解釈適用を誤つたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、破棄を免れない、というにある。

 (中略)

1.本件犯行現場である「てんじんじまばし」は、北九州市小倉北区魚町4丁目5番3号ひかり屋文具店先に所在し、南北に流れる神嶽川上に東西に架けられ、長さ20.5メートル、幅2.05メートルの鉄骨橋であるところ、同橋の東端は小倉北区随一の商店街の一画である旦過市場の南側出入口の一つとなつており、また同橋の西端も飲食店、薬店等が林立する商店街に通じ、同橋はその東西に所在する商店街に通じる人道専用橋となつていること、

2.同橋の東側に所在する旦過市場はその大通りにアーケードが設置され、その両側に生鮮食料品等161店があり、その営業時間も各店により異なつているものの、多くの店は午前8時30分ころから午後7時30分ころまでであり、中には午後9時30分ころまで開店している店もあり、そして、閉店後においても右市場内の街燈は一晩中点燈され、昼間の同市場内と変らぬ明るさを保つていること、また同橋の西側の商店街は、夜間は大体午後10時ころまで営業しており、特に同橋の西方9.2メートルの位置にあるコインランドリーは24時間営業しているため、夜間もその照明で周囲が明るい状況にあり、以上の如き照明により同橋は東方からも西方からも終夜その橋上を見通せる状態にあること、

3.前記旦過市場には自転車等でくる客も多いのであるが、同市場のできたのが古いこともあつて同市場専用の自転車置場がなく、従つて、同市場の周囲の歩道あるいは前記「てんじんじまばし」は相当以前から同市場へ出入する客の自転車置場ともなつており、閉店時ころまでには大体持ち帰るものの、終夜同橋上に自転車を置いたままにしていることも度々見受けられ、現に被告人が本件自転車を持ち去つたとき、同所には右自転車のほかに1台の自転車が置いてあつたこと、

4.Vは、知人のXからその所有する前記婦人用自転車(以下、「本件自転車」という。)昭和57年5月13日晩借り受け使用していたのであるが、翌14日昼ころ、買物のため右自転車に乗り前記旦過市場にきたものの、酒が飲みたくなり、同市場内にある酒屋「赤壁」で右自転車を同店の前の通路上に置き飲み始めたところ、通路上に自転車を置くと通行人の邪魔になることから、同店の者が、Vの承諾の下に、右自転車を同店から約17メートル離れた通常客の自転車置場としている前記「てんじんじまばし」へ持つて行き、同橋の東端近く欄干寄りに欄干に沿つておいていたこと、

5.本件自転車は昭和56年春ころXにおいて新車を購入したもので、まだ新しく、その後輪泥よけ(ステンレス)の中央に青色ペンキで「X」と記入されていたものであるが、Vは、右酒店で飲酒しているうち酔が廻り、同日午後2時ころ、右酒店から帰る際、本件自転車に乗つて帰るのは危ないと考えたため、右自転車が前記「てんじんじまばし」上にあるのを確かめた後、後から取りにくるつもりで同所にそのまま置いて約600メートル位離れた自宅へ帰つたが、当時右自転車の前輪上に取付けてある白色かごの中に茶色折りたたみ式傘1本、白色タオルを入れたままにし、無施錠のままであつたこと、

6.Vは、その翌日である昭和57年5月15日午前5時30分ころ、本件自転車を取りに前記「てんじんじまばし」に行つたが、これよりさき、被告人において、同日午前3時35分ころ同橋上を通りかかつた際、本件自転車をみつけ、自己の用に供するため、前輪上のかご中にあつた傘、タオルを取り出してその橋上に置き、本件自転車を持ち去つたものであること、

 右事実を認めることができる。

 原判決は、刑法235条の「窃取」の概念に含まれる「占有」とは人が物を現実に所持又は監視している場合だけでなく、占有者が支配していると社会通念上認められる場合も含むとしながらも、本件においては、前記「てんじんじまばし」の人道専用橋という特性にかんがみ、Vが本件自転車を無施錠のまま夜半まで同橋上に放置したという事実を考慮すると、もはやVに右自転車につき同法条の保護に値する「占有」を認めることはできないとして、被告人の右自転車を持ち去つた時点におけるVの本件自転車に対する占有を否定しているのであるが、前記認定のとおり、「てんじんじまばし」は人道専用橋であるものの、事実上旦過市場にくる客の自転車置場ともなつており、終夜自転車を置いたままにしておくことも度々見受けられ、現に被告人が本件自転車を持ち去つたとき、同所には右自転車のほか1台の自転車が置かれており、しかも、本件自転車は購入後いまだ1年くらいしか経ていない新しい品物で、後輪泥よけ部分には青色のペンキで「X」と鮮明に記入されており、その前輪上のかごのなかには折りたたみ傘一本とタオルが入れられて、通行の邪魔にならないように同橋の東端近く欄干寄りに欄干に沿つて置かれていたのであり、Vは、同橋上がそのような場所であることを認識し、後で取りにくる積りで本件自転車をそのまま同所に置いて一旦帰宅したものであるから、かかる事実関係の下では、右自転車が以後約14時間を経過して夜半を過ぎて午前3時半ころに及び、しかも無施錠でそのまま置かれていたこと等を考慮しても、社会通念上、被告人が本件自転車を持ち去つた時点においても、本件自転車はVの占有下にあつたものと認定するのが相当である。

(引用終わり)

最決平24・11・6より引用。太字強調は当サイトによる。)

1.原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

 (1) A及びB(以下「Aら」という。)は,平成22年5月26日午前3時頃,愛媛県伊予市内の携帯電話販売店に隣接する駐車場又はその付近において,同店に誘い出したC及びD(以下「Cら」という。)に対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,複数回手拳で顔面を殴打し,顔面や腹部を膝蹴りし,足をのぼり旗の支柱で殴打し,背中をドライバーで突くなどし,Cに対し,右手の親指辺りを石で殴打したほか,複数回手拳で殴り,足で蹴り,背中をドライバーで突くなどするというものであった。

(2) Aらは,Dを車のトランクに押し込み,Cも車に乗せ,松山市内の別の駐車場(以下「本件現場」という。)に向かった。その際,Bは,被告人がかねてよりCを捜していたのを知っていたことから,同日午前3時50分頃,被告人に対し,これからCを連れて本件現場に行く旨を伝えた。

(3) Aらは,本件現場に到着後,Cらに対し,更に暴行を加えた。その態様は,Dに対し,ドライバーの柄で頭を殴打し,金属製はしごや角材を上半身に向かって投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりし,Cに対し,金属製はしごを投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりするというものであった。これらの一連の暴行により,Cらは,被告人の本件現場到着前から流血し,負傷していた。

(4) 同日午前4時過ぎ頃,被告人は,本件現場に到着し,CらがAらから暴行を受けて逃走や抵抗が困難であることを認識しつつAらと共謀の上,Cらに対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,被告人が,角材で背中,腹,足などを殴打し,頭や腹を足で蹴り,金属製はしごを何度も投げつけるなどしたほか,Aらが足で蹴ったり,Bが金属製はしごで叩いたりし,Cに対し,被告人が,金属製はしごや角材や手拳で頭,肩,背中などを多数回殴打し,Aに押さえさせたCの足を金属製はしごで殴打するなどしたほか,Aが角材で肩を叩くなどするというものであった。被告人らの暴行は同日午前5時頃まで続いたが,共謀加担後に加えられた被告人の暴行の方がそれ以前のAらの暴行よりも激しいものであった。

(5) 被告人の共謀加担前後にわたる一連の前記暴行の結果,Dは,約3週間の安静加療を要する見込みの頭部外傷擦過打撲,顔面両耳鼻部打撲擦過,両上肢・背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過,両膝両下腿右足打撲擦過,頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負い,Cは,約6週間の安静加療を要する見込みの右母指基節骨骨折,全身打撲,頭部切挫創,両膝挫創の傷害を負った。

2.原判決は,以上の事実関係を前提に,被告人は,Aらの行為及びこれによって生じた結果を認識,認容し,さらに,これを制裁目的による暴行という自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思の下に,一罪関係にある傷害に途中から共謀加担し,上記行為等を現にそのような制裁の手段として利用したものであると認定した。その上で,原判決は,被告人は,被告人の共謀加担前のAらの暴行による傷害を含めた全体について,承継的共同正犯として責任を負うとの判断を示した

3. 所論は,被告人の共謀加担前のAらの暴行による傷害を含めて傷害罪の共同正犯の成立を認めた原判決には責任主義に反する違法があるという。
 そこで検討すると,前記1の事実関係によれば,被告人は,Aらが共謀してCらに暴行を加えて傷害を負わせた後に,Aらに共謀加担した上,金属製はしごや角材を用いて,Dの背中や足,Cの頭,肩,背中や足を殴打し,Dの頭を蹴るなど更に強度の暴行を加えており,少なくとも,共謀加担後に暴行を加えた上記部位についてはCらの傷害(したがって,第1審判決が認定した傷害のうちDの顔面両耳鼻部打撲擦過とCの右母指基節骨骨折は除かれる。以下同じ。)を相当程度重篤化させたものと認められる。この場合,被告人は,共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。原判決の上記2の認定は,被告人において,CらがAらの暴行を受けて負傷し,逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだ趣旨をいうものと解されるが,そのような事実があったとしても,それは,被告人が共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず,共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないものであって,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する上記判断を左右するものではない。そうすると,被告人の共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果を含めて被告人に傷害罪の共同正犯の成立を認めた原判決には,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する刑法60条,204条の解釈適用を誤った法令違反があるものといわざるを得ない。

(引用終わり)

最決平28・3・24より引用。太字強調は当サイトによる。)

 同時傷害の特例を定めた刑法207条は,二人以上が暴行を加えた事案においては,生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多いことなどに鑑み,共犯関係が立証されない場合であっても,例外的に共犯の例によることとしている。同条の適用の前提として,検察官は,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち,同一の機会に行われたものであることの証明を要するというべきであり,その証明がされた場合,各行為者は,自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れないというべきである。
 そして,共犯関係にない二人以上による暴行によって傷害が生じ更に同傷害から死亡の結果が発生したという傷害致死の事案において,刑法207条適用の前提となる前記の事実関係が証明された場合には,各行為者は,同条により,自己の関与した暴行が死因となった傷害を生じさせていないことを立証しない限り,当該傷害について責任を負い,更に同傷害を原因として発生した死亡の結果についても責任を負うというべきである(最高裁昭和26年(れ)第797号同年9月20日第一小法廷判決・刑集5巻10号1937頁参照)。このような事実関係が証明された場合においては,本件のようにいずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定されるときであっても,別異に解すべき理由はなく,同条の適用は妨げられないというべきである。

(引用終わり)

最決令2・9・30より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

 同時傷害の特例を定めた刑法207条は,二人以上が暴行を加えた事案においては,生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多いことなどに鑑み,共犯関係が立証されない場合であっても,例外的に共犯の例によることとしている。同条の適用の前提として,検察官が,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち,同一の機会に行われたものであることを証明した場合,各行為者は,自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れない(最高裁平成27年(あ)第703号同28年3月24日第三小法廷決定・刑集70巻3号1頁(※注:前掲最決平28・3・24を指す。)参照)。
 刑法207条適用の前提となる上記の事実関係が証明された場合,更に途中から行為者間に共謀が成立していた事実が認められるからといって,同条が適用できなくなるとする理由はなく,むしろ同条を適用しないとすれば,不合理であって,共謀関係が認められないときとの均衡も失するというべきである。したがって,他の者が先行して被害者に暴行を加え,これと同一の機会に,後行者が途中から共謀加担したが,被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたものとまでは認められない場合であっても,その傷害を生じさせた者を知ることができないときは,同条の適用により後行者は当該傷害についての責任を免れないと解するのが相当である。先行者に対し当該傷害についての責任を問い得ることは,同条の適用を妨げる事情とはならないというべきである。
 また,刑法207条は,二人以上で暴行を加えて人を傷害した事案において,その傷害を生じさせ得る危険性を有する暴行を加えた者に対して適用される規定であること等に鑑みれば,上記の場合に同条の適用により後行者に対して当該傷害についての責任を問い得るのは,後行者の加えた暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであるときに限られると解するのが相当である。後行者の加えた暴行に上記危険性がないときには,その危険性のある暴行を加えた先行者との共謀が認められるからといって,同条を適用することはできないというべきである。
 これを本件訴訟手続の流れに即していえば,本件は,検察官が先行者と後行者である被告人との間に当初から共謀が存在した旨主張し,被告人がその共謀の存在を否定したが,証拠上,途中からの共謀が認められるという事案であるところ,このような被告人について刑法207条を適用するに当たっては,先行者との関係で,その傷害を生じさせた者を知ることができないか否かが問題となり,検察官において,先行者及び被告人の各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること並びに各暴行が同一の機会に行われたものであることを証明した場合,被告人は,自己の加えた暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り,先行者の加えた暴行と被告人の加えた暴行のいずれにより傷害が生じたのかを知ることができないという意味で,「その傷害を生じさせた者を知ることができないとき」に当たり,当該傷害についての責任を免れないのである。

(引用終わり)

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