1.令和6年予備試験民訴法。設問1では、評価を分けそうなポイントが3つあります。
2.1つは、157条1項の各要件について、規範を明示した上で、当てはめをしているかです。
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(参照条文)民事訴訟法157条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等) |
規範については、定番といえるような判例・学説の言い回しがあるわけではないので、多少のブレがあってもよいとは思います(※1)が、事前準備がないと厳しかったでしょう。ここは、知識の事前準備で差が付きます。
※1 このように、ブレが許される場合には、できる限り簡潔な表現のものを用意するのが得策です。逆にいえば、論証の表現を簡易化できるには一定の条件があり、それを満たさないのに自己判断で勝手に簡略化するのは、規範の正確さで評価を落としたり、当てはめの段階で必要な要素を考慮できなくなって、その事実に振られた配点を落とす結果になりがちです。論証等を利用する際には、この点まで踏まえて作成されたものか、という観点も必要になるのです。
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(参考答案(その2)より引用) 1.「時機に後れて」とは、より早い提出を客観的に期待しえたことをいう。 (中略) 2.「故意又は重大な過失」とは、時機に後れることを認識し、又は容易に認識できたことをいう。 (中略) 3.「訴訟の完結を遅延させる」とは、新たな期日を要することをいう。 (引用終わり) |
なお、「時機に後れて」を否定する場合には、「故意又は重大な過失」の当てはめをする余地がありません(※2)。なので、ここは書かない。一方で、「訴訟の完結を遅延させる」は、「時機に後れて」を否定する場合にも当てはめをする余地があるので、「時機に後れて」の前に当てはめをしてしまう、というのが、当てはめの配点を取りに行くテクニックです。当サイトの参考答案(その1)は、その方針で書いています。
※2 「時機に後れて」より先に、「故意又は重大な過失」の当てはめをする答案は、「故意又は重大な過失」が何について必要であるかを理解していないとして、評価を下げる可能性があるでしょう。刑法でいえば、実行行為・結果・因果関係を認定せずに故意を認定するようなものです。
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(参考答案(その1)より引用) 1.「訴訟の完結を遅延させる」とは、新たな期日を要することをいう。 2.「時機に後れて」とは、より早い提出を客観的に期待しえたことをいう。 (中略) 以上から、「時機に後れて」を満たさない。 3.よって、裁判所は、相殺の抗弁を却下すべきでない。 (引用終わり) |
3.2つ目のポイントは、弁論準備手続終了後の提出に関する説明義務(174条、167条)を指摘して、157条1項の各要件との関係で何らかの考慮をしているかです。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) Xは、弁護士L1を訴訟代理人として、Yに対し、本件代金300万円の支払を求める訴えを提起した(以下「本件訴訟」という。)。これに対して、Yは、弁護士L2を訴訟代理人として本件訴訟に応訴し、XY間の本件契約の成立を争った。弁論準備手続における争点整理の結果、本件訴訟においては、本件契約における代理権の授与の有無及び表見代理の成否が主要な争点となった。 〔設問1〕 弁論準備手続終結後の人証調べは、前記の争点について行われた。結審が予定されていたその後の口頭弁論期日において、L2は、YがXに対して有する貸金債権300万円(弁済期は本件訴訟の提起前に既に到来していた。)を自働債権とし、本件代金に係る債権を受働債権として、対当額で相殺する旨の相殺の抗弁を新たに主張した。L1がL2に対して、相殺の抗弁を弁論準備手続の終結前に主張することができなかった理由について説明を求めたところ、L2は、「相殺の抗弁は自己の債権を犠牲にするものであるから、初めから主張する必要はないと考えていた。」と述べるとともに、「相殺権の行使時期には法律上特段の制約がなく、判例によれば、基準時後に相殺権を行使したことを請求異議の訴えの異議事由とすることも許容されている以上、弁論準備手続の終結後に相殺の抗弁を主張することも許容されるべきである。」と述べた。L1は、本件訴訟の開始前から相殺適状になっており、仮定的抗弁として主張することができたにもかかわらず、それをしなかった理由について更に説明を求めたが、L2からは前記の説明以上の具体的な説明はされなかった。そこで、L1は、相殺の抗弁は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして、その却下を求めた。 (引用終わり) (参照条文)民事訴訟法 167条(準備的口頭弁論終了後の攻撃防御方法の提出) 174条(弁論準備手続終結後の攻撃防御方法の提出) |
概説書等では、説明義務を果たさない場合に「時機に後れて」が推定されるとするもの、「故意又は重大な過失」の認定資料となるとするものがあります(※3)。ただ、どちらの要件との関係が問題になるかは、説明すべき内容によって変わるでしょう。例えば、客観的に提出を期待できる状況ではなかったことの説明をしない場合は、「時機に後れて」を推定すべきでしょうが、提出できることを知り得なかったことの説明をしない場合は、「故意又は重大な過失」を推定すべきでしょう。本問の場合は、相殺の抗弁を弁論準備手続で提出することが客観的に期待できないことの説明の適否が問題となっています。なので、「時機に後れて」の要件で考慮するのが適切でしょう。当サイト作成の参考答案は、この立場で書いています。
※3 前者について、秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ[第2版]-
第2編/第1章~第3章/第133条~第178条』(日本評論社 2018年)377頁。後者について、伊藤眞『民事訴訟法〔第7版〕』(有斐閣 2020年)296、297頁。
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(参考答案(その1)より引用) 2.「時機に後れて」とは、より早い提出を客観的に期待しえたことをいう。弁準終了後の提出で説明義務(174条、167条)を果たさないときは、特段の事情がない限り、弁準での提出が客観的に期待しえたといえる。 (引用終わり) (参考答案(その2)より引用) 1.「時機に後れて」とは、より早い提出を客観的に期待しえたことをいう。弁論準備手続終了後の提出について説明義務(174条、167条)を果たさないときは、同手続での提出を客観的に期待しえたことが事実上推定され、特段の事情がない限り、「時機に後れて」を満たす。 (引用終わり) |
これも、現場思考で対応できないわけではありませんが、知識として事前準備しておけばはるかに容易に対応できますから、事前準備の有無で差が付きやすかったでしょう。
4.最後は、L2が指摘する相殺の抗弁の特殊性ないし判例の趣旨を踏まえているか、とりわけ、判例の趣旨をどのように理解し、一貫した説明ができているかです。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) L1がL2に対して、相殺の抗弁を弁論準備手続の終結前に主張することができなかった理由について説明を求めたところ、L2は、「相殺の抗弁は自己の債権を犠牲にするものであるから、初めから主張する必要はないと考えていた。」と述べるとともに、「相殺権の行使時期には法律上特段の制約がなく、判例によれば、基準時後に相殺権を行使したことを請求異議の訴えの異議事由とすることも許容されている以上、弁論準備手続の終結後に相殺の抗弁を主張することも許容されるべきである。」と述べた。L1は、本件訴訟の開始前から相殺適状になっており、仮定的抗弁として主張することができたにもかかわらず、それをしなかった理由について更に説明を求めたが、L2からは前記の説明以上の具体的な説明はされなかった。そこで、L1は、相殺の抗弁は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして、その却下を求めた。 (引用終わり) |
この点については、結構ややこしい話になるので、次回、詳しく説明したいと思います。